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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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出会う

 不安の種だったダンスは、なんてことなかった。

 それはアビゲイルのダンスの腕前云々ではなく、グレイアムのリードがうますぎたためだ。

 結局彼の足を踏むこともなく終わったアビゲイルは、拍子抜けしてしまった。

 またしても注目を浴びた二人は、別室にて喉を潤す。


「ダンスが上手なのね?」


「昔から習わされていたからな。嫌いですぐに行かなくなったが……。こっちにきてから練習したのと、元々のグレイアムが得意だったからすぐに覚えられた」


 元々のグレイアムという言葉で、なるほどそういうこともあるのかと考える。


「あなたがくる前のグレイアムの記憶ってあるの?」


「ある。元の彼が覚えていることは全て」


「……そうなの」


 記憶とは感情である。

 その時に揺れ動いた感情もまた、記憶に寄り添っているはずだ。

 つまり彼がグレイアムの過去を思い出す時、その時グレイアムが感じた感情もまた思い出されるはず。


 ――グレイアムはアリシアが好きだった。


 アビゲイルの妹、アリシア。

 優しくて美しい、理想のエレンディーレ国の王女。

 そんな人に恋をした昔のグレイアムは、アリシアのためにとあれこれしていたらしい。


 ――今のグレイアムのように。


 アビゲイルはチラリとグレイアムを見る。

 ワインで喉を潤す彼は、お酒が入っているとは思えないほど素面だ。

 まるで水のように勢いよく飲み続けるグレイアムに、アビゲイルはくすりと笑う。


「あなたお酒強いのね?」


「そうだな。酔うことはそうそうないな」


「……今度屋敷で飲んでみてもいい? 私お酒飲んでみたいの」


「そうだな。屋敷に戻ったら二人で飲んでみよう」


 前回アリシアとグレイアムは二人で会っていた。

 だというのに、その瞳が彼女を映すことはなかった。

 アリシアはグレイアムのことを気にしているようだが。

 まあ今はひとまず安心していいはずだと、ジュースを口に含んだ時だ。

 忙しそうにしていたシリルがやってきた。


「二人とも流石の注目度だね。主催の私なんて誰も気にしてないよ」


「さっきまで忙しそうにしていたやつが、なに言ってるんだ」


 シリルは軽く肩をすくめると、表情を変えた。


「実は二人に会ってほしいかたがいるんだ。きてもらえるかい?」


 アビゲイルとグレイアムは目を合わせた。

 一体誰に会わせるつもりなのだろうか?

 まあ主催にそう言われては断れないなと、ワイングラスを置くとシリルについていった。


「……どこに向かっているの?」


「応接室ですよ。目立つかたなので……」


 真っ赤なカーテンにカーペット。

 廊下に飾られる花も赤く、屋敷に入った時から思っていたけれど、ここは特に赤が多い。

 これほど赤だらけだと嫌味っぽくならないものかとあたりを見回すが、シリルのセンスなのかそんなふうには思わなかった。

 金と赤は相性がいいのだなと眺めていると、目的の部屋についたのかシリルが足を止める。


「客人を連れてきました」


「……かしこまりました」


 ここはシリルの屋敷で、彼が一番偉いはずだ。

 だというのに部屋の扉を守るように立つ騎士に、シリルは敬語を使った。


「――?」


 違和感を覚える。

 今日はパーティーのはずなのに、会場にはこないアビゲイルたちに会わせたい相手。

 侯爵であり、パーティーの主催であるシリルを案内役にするところも、よくよく考えれば変だ。


「――どうぞ」


 ガチャリと音を立てて扉が開かれる。

 中は比較的落ち着いており、濃紺のソファやカーペットが上品だ。

 テーブルの上にはケーキや軽食、紅茶が置かれており、客人をもてなす準備は万端だった。


「――……」


 そんな部屋の中で、ソファに腰を下ろし紅茶を飲む男性がいた。

 白銀の髪を揺らし立ち上がった男性は、アビゲイルたちへオレンジ色の瞳を向ける。


「シリル、ご苦労様でした。無茶を言ったのに、ありがとうございます」


 穏やかな声。

 人柄が滲み出ているような声に、無意識に入っていた肩から力が抜けた。

 不思議な人だ。

 初対面なのに、この人は信用できると思わせてくる。

 どういった人なのだろうかとアビゲイルが見つめていると、前にいたシリルが頭を下げた。


「陛下、なにをおっしゃいます。我が身はあなたの忠実な臣下です」


 シリルの言葉にグレイアムは息を飲み、アビゲイルは大きく目を見開いた。

 なるほど、これで合点がいった。

 シリルが案内役をした理由も、パーティー会場に来なかったのも、部屋を護衛する男たちがいたのも。


「……やっと会えました」


 目の前の男性は歩みを進め、二人の前へとやってくる。

 柔和な笑みを浮かべ、手を差し出してきた。


「はじめまして、エレンディーレの姫。わたしはオルフェウス・フェンツェル。フェンツェルの国王です」


 まさかのところでまさかの人と出会ってしまい、アビゲイルは差し出された手を見つめる。

 フェンツェルの国王と、こんな場所で会うことになるとは。


「……はじめ、まして。エレンディーレ王国第一王女。アビゲイル・エレンディーレです」


 握手に応じれば、オルフェウスはにこりと人好きのする笑みを浮かべる。


「ずっとお会いしたいと思っていました。――神に祝福された姫よ」

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