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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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姉弟

「アビゲイル、入っていいか?」


「どうぞ」


 扉の前でかけられた声に応えれば、ガチャリと音を立ててグレイアムとレオンが入ってきた。


「――本当に髪を染めてたのね……?」


「……まあ、そうだな」


「体の調子は? 大怪我してたと思うけれど……」


「打たれ強いからへーき」

 

 レオンがガシガシと頭をかくと、目を見張るような美しい青髪がバラバラと動いた。

 彼は手や顔に包帯やガーゼをつけつつも、ちゃんとした足取りでベッドのそばへとやってきた。


「あー……話、聞いてたから、だいたいわかってる。……でも、マジなのか?」


「マジ?」


「お、俺が……アビゲイルの……弟って」


 最後の弟だけはものすごく小さな声でつぶやかれて、アビゲイルは思わず聞き返しそうになってしまったほどだ。

 だがなんとか聞き取れて、気まずそうなレオンに思わず笑ってしまう。


「レオンは嫌? 私が姉で」


「――そんなわけない! 俺は――っ!」


 力強い声に、出した本人も驚いたのだろう。

 ぱちくりと瞬きを繰り返し、力拳をゆっくりと解くと、そばにあった椅子に勢いよく座り込んだ。


「……俺、家族がいるなんて思わなかった。……ずっと捨てられたんだと思ってたから」


「……レオン」


「施設でもお前は捨てられたんだって、ずっと言われ続けてたから……。家族なんていない。俺はずっと一人だって……」


 当時のことを思い出しているのか、レオンは遠い目をした。


「実際今でも親とかどうでもいい。なにがあったのかは知らねえけど、俺が一人で生きてきたって事実は変わらねぇだろ?」


「……そうね」


 この言葉を聞いたら、母であるカミラはどんな顔をするだろうか?

 しかしこの件を許すか許さないかは、レオンが決めることだ。

 アビゲイルが口出しすることではない。


「でもさ……アビゲイルから弟を探してるって話を聞いて、すげぇ羨ましく思った。そんなふうに心配してくれる家族がいるなんて、いいなぁって……」


「……そっか。これからたくさん心配してあげるわ」


「――へへっ。心配かけないよう気をつけまーす」


 照れくさそうに笑いながらも、どこか嬉しそうな顔に、アビゲイルもまた表情が緩んだ。

 無事見つけられてよかったと安堵したところで、疑問に思っていたところを聞くことにした。


「そういえば、どうして私が探してるの自分だと思わなかったの? 青髪だって伝えたわよね?」


「あー。俺マジで自分の出自? っつーの知らなくてさ。この国の人間だと思い込んでたんだよな。だから他国の、しかもお貴族様のアビゲイルが姉だなんて思いもしなかったんだよ」


「――まあ、あなたはこの国の人ではあるけど……」


 なるほどなと頷くアビゲイルを、レオンは少しだけ悲しそうに見返してきた。


「……あー、な。もしさ、よかったら……聞かせてくれねぇか? 俺の……親のこと」


 アビゲイルはちらりとレオンの後ろにいるグレイアムへと視線を向けた。

 彼は目が合うと小さくこくりと頷く。

 どうやら全てを話す時が来たようだ。

 彼にとっては、決してよい話ではないのだろうが……。


「あなたの両親の話をする前に、少しだけ私の話をしてもいい?」


「ん? ……うん、もちろん」


 レオンは話を聞くため、少しだけ背筋を伸ばした。

 どことなく緊張した面持ちのレオンに、アビゲイルもなんだか緊張し始めてしまう。

 自身の話をするというのは、少なくともアビゲイルにとっては楽しいことではないからだ。


「……私の名前は、アビゲイル・エレンディーレ。エレンディーレ王国の第一王女よ」


「………………………………は?」


 たっぷり十秒は固まったであろうレオンは、絞り出すように声を出した。

 まあ、そういう反応になるよなと、アビゲイルは話を続ける。


「安心していいわ。立場は確かに王女だけれど、誰からも認められてないから」


「……それって、どういう……?」


「エレンディーレでは、赤は禁忌の色とされているの。人が亡くなった時に身に纏うものだから」


 アビゲイルは真っ直ぐにレオンを見つめる。

 その、赤い瞳で。


「赤い目を持って生まれた私は、両親からも、兄弟からも……国民からだって忌み嫌われているわ」


「…………なんだ、それ」


「だからね。私は生まれは王女ではあるけれど、育ちは王女じゃないと思ってもらって大丈夫よ。そんなたいそうな存在じゃないから」


 レオンは顔を伏せた。

 まあ、聞いていて気分のいい話じゃないよなとその姿を見て思う。


「あなたと私は姉弟だけれど、あなたは王族ではないわ。以前も言ったけれど、父親が違う。国王の子ではないから……」


「――それって、つまり……」


「あなたの母親は、エレンディーレの元王妃。現王太后よ」


 ぎりっと歯を擦るような音が響いた。

 レオンの手が強く握られ、小刻みに震えている。


「父親はこの国の伯爵よ。元は男爵で、今は婿養子になっているわ」


「…………」


 レオンは顔を伏せたまま、黙って話を聞いている。

 このまま話してもいいものか迷いはしたけれど、下手に隠す必要もないだろうと続けた。


「……父親はわからないけれど、母親のほうはあなたを探していたわ。あなたを孤児院に預けてからも、その身を案じていたそうよ。だから――」


 もしレオンさえよければ、会わせてあげることができる。

 そんな提案をしようとしたアビゲイルの言葉は、大きな音を立てて倒れた椅子に阻まれた。


「――ざっけんな! なにが親だ……っ! ただの最低最悪な奴らじゃねぇか!」

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