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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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お誘い

 そうと決まれば行動だと、アビゲイルたちは街の至るところを探し回った。

 レオンという青髪の男を知らないか? と会う人会う人に聞いて回ったが、残念ながら目星はつかなかった。

 誰も彼もがそんな人は知らないと言う。

 レオンはこの街にいるとシリルが断言していたのに、誰一人として彼のことを知らない。

 そんなことがあり得るだろうかと、アビゲイルは考える。

 観光客ならばわかる。

 けれどこの街に住むものですら、見たことも聞いたこともないという。

 最初は口裏でも合わせているのか? と疑ったが、彼らの話し方的にそれもなさそうだった。


「――名前と姿を変えている可能性があるな」


「……やっぱりそう思う?」

 

 ホテルの一室にて、グレイアムの言葉を聞いたアビゲイルは眉を顰めた。

 そもそもレオンは裏の組織だという、サラスヴァティとやらに狙われている身。

 他人になりすましている可能性に、もっと早く気づけばよかったと奥歯を噛み締める。


「そうなると他国の地で俺たちだけで探すのは至難の業だな……」


「顔だけでもわかればいいのだけれど……」


 そこまで言って、いや、顔も変えている可能性もあるかと口を閉ざした。

 およそ手術とも言えない無理やりな手段で、顔の造形を変えることは可能らしい。

 もちろん元の顔に戻ることは不可能で、さらに失敗率も高い。

 目も当てられないような顔になることもあるようだ。


「……顔を変えたってことはないかしら?」


「わからないな。だが命の危機がある今の状態、俺なら視野に入れるな」


 顔か命かなら、確かに命をとるだろう。

 これは根本から見直さなくてはならないのかと頭を抱えそうになっていると、そんなアビゲイルを横目で見ていたグレイアムが口を開く。


「……アビゲイルはシリルをどう思う?」


「――シリルさん?」


「そうだ。率直な意見を聞きたい」


 アビゲイルはグレイアムからの問いに、口淀んでしまう。

 シリルはグレイアムの友人だ。

 この国にきてよくしてくれている。

 レオン探しも率先してやってくれている、アビゲイルにとってはありがたい存在だ。

 彼がいなければ、そもそもフィンツェルに入ることすらできなかった。


「……ありがたい存在だとは思うわ。…………思う……けど」


「大丈夫だ。思うことをそのまま伝えてくれ」


 優しいグレイアムの笑顔を見て、アビゲイルは覚悟を決める。


「……しょうじき得体が知れないわ。あまり信用できないというか……味方って感じがしないというか……。ごめんなさい。上手く言葉にできなくて」


「いや。むしろよくわかった。アビゲイルにとって、あの男は掴みどころがないって感じなんだな」


 確かにその通りだ。

 人のよい笑顔をしながら、なぜか信じるに値しない存在。

 掴みどころがないという言葉が、アビゲイルの中でしっくりきた。


「そうかも。なんかのらりくらりというか……。言ってることを信用できないというか……」


「――アビゲイルは人を見る目があるな?」


「……そう?」


 こくり、と頷いたグレイアムは優しく口端をあげる。


「シリルは友人だから信頼はしているが信用はしていない。あれは笑顔でとんでもないことをやるやつだ。俺がこんなことを言うのはおかしいが、あまり近づかないほうがいい」


「……わかったわ」


 まあグレイアムを通してしか会わないだろうから、そこは不安に思う必要はない。

 こくりと頷くアビゲイルの耳に、ララの声が届いた。


「失礼致します。アビゲイル様、あの……」


 なにやら言いづらそうなララの手に、一通の手紙があった。

 彼女はしばし視線をさまよわせたあと、おずおずと手紙をアビゲイルへと渡す。


「例の男から、お手紙です」


「――男?」


 地を這うような声が耳に届き、アビゲイルはぱちくりと目を瞬かせた。

 グレイアムから発せられる空気が一瞬で下がった気がする。

 明らかに怒っている様子のグレイアムに、アビゲイルは慌てて弁明した。


「この間助けた子よ! レオン探しを手伝ってもらってるの」


「……まだ関わってたのか?」


「あのあとたまたま街で出会って……。詳しそうだったから」


「…………ふむ」


 なにやら考えるように黙り込んだグレイアムを横目に、アビゲイルはララから手紙を受け取った。

 封筒などには入っておらず、切り裂かれ薄汚れた古紙にぐちゃぐちゃの文字が書かれている。


「えっと……あ、あ……?」


「ここはたぶんし、だと」


「――あ! あした、ね」


 独学で文字を習ったか、もしくはなにかを見て書いたのか。

 とにかくお世辞にも読みやすいとは言えない文字を、アビゲイルはなんとか解読していく。


「えーっと……み、せ、まえ? ……じゅう……に、じ?」


「――店とはどこのことでしょう?」


「んー……」


 港町であり観光地でもあるこの街に、店はごまんとある。

 その中でもエルが指定してくるところと言えば、自ずと答えは出てきた。


「この間、ご飯食べたところじゃないかしら?」


「可能性は高いですけど……。行かれるおつもりですか?」


「捜索を頼んだのは私よ? 行かなくてどうするの?」


「――ですが!」


 どうもララとリリはエルを嫌っているようだ。

 明らかにアビゲイルに行ってほしくなさそうな顔をしていたが、こればかりは無理だと心の中で謝る。

 サラスヴァティより先にレオンを見つけるためには、エルの力を借りなくては難しいだろう。


「明日、会いに行ってくるわ」


 今なお難しい顔をしているグレイアムは、しばしの沈黙ののちララへと視線をうつした。


「俺は明日動けない。アビゲイルを必ず守れ」


「――は! この命に変えましても」


 なんだか騎士のような大袈裟な返事に、アビゲイルは苦笑いを浮かべた。

 別に知人に会いにいくようなものなのに、そこまで厳重にしなくてもいいのに。

 心配性だな、と呆れるアビゲイルは知らない。


 ――このあととある事件に巻き込まれることを。

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