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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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55/157

先に

 エルと会った次の日。

 グレイアムのほうが落ち着いたということで、一緒にシリルに会いに行くことになった。

 前回話をしたパティスリーへと向かえば、シリルは店の前で待っていた。


「どうも。いろいろ待たせて申し訳ないね。フェンツェルを楽しんでるかい?」


 いつも通り人好きしそうな笑顔で聞いてきたシリルに、アビゲイルは頷いた。

 ありがたいことに観光はできているほうだろう。

 そういう意味ではレオン探しをシリルが請け負ってくれてよかったと言える。

 シリルに案内されてパティスリーの中へと入り、例の個室へと通された。


「さて、単刀直入にいえば、探し人はこの街にいる、で間違いなさそうだ」


「やっぱりそうか」


「で、グレイアムが追えたところ以降の行動だけれど……」


 シリルは手元に資料のようなものを持って話し始める。


「女性のところを転々としていたのは間違いない。で、とある女性のところで事件が起きた」


「――事件?」


 なにやら不穏な言葉を聞いた気がした。

 眉を寄せたアビゲイルに、シリルは口端を優しく上げる。


「とある女性がね、まあ俗にいう裏の店で働いてる人だったんだけれど、その店のお金を横領していてね」


「度胸があるな」


「バカなだけだよ。よりにもよってそういう繋がりがある店の金に手を出したんだから」


 シリルは心底呆れていると言いたげにため息をつきつつ、手元にある書類をグレイアムに渡した。


「案の定裏の人間から追われてね。さらにはその金を男に貢ぐために盗ったってわかって、男のほうも狙わちゃったみたい」


「……なるほどな。それで借金返済のために同じ道に落ちた、と」


「今じゃ裏の手下として、あれこれ動いてるみたいだよ。だからグレイアムにはこれ以上わからなかったみたいだね」


「他国の裏事情はわかりづらいからな」


 グレイアムの言葉は、裏を返せば自国なら裏表関係なく情報を得られるということだ。

 今更ながらグレイアムが味方でよかったと痛感する。


「で、現在の行方なんだけど……。ごめん、うまく探れなかった」


「――珍しいな」


 グレイアムの瞳が大きく開く。

 本当に意外だったのだろう。

 シリルもまた、ひどく残念そうに肩をすくめた。


「いやぁ……。実はこの町の黒いことを仕切ってるサラスヴァティって組織が、彼を狙ってるようでね」


「……ごめんなさい。それがどういうことなのか、よくわかってなくて」


「ああ、もちろん。レディには無縁の話ですから。最初からお話しいたしますよ」


 シリルは長い足を組むと、まるで夢物語を語るような優しい声色で話をした。


「サラスヴァティというのは組織の名前で、実際やってることは犯罪行為という最低最悪な連中です。割となんでもやっていて、人身売買、薬物売買、武器売買。あとは売春など……多種多様です」


「……とんでもない人たちだってことはわかったわ」


 きっとアビゲイルには想像もつかないようなこともやっているのだろう。

 苦い顔をしたアビゲイルに、シリルはこくりと頷く。


「どうやら探し人はそんな最悪な連中に、手を出してしまったようですね。彼らのところからとあるものを盗み出したようです」


「……とあるもの?」


「ええ」


 シリルの美しい緑色の瞳がきらりと光る。


「――武器です。サラスヴァティが秘密裏に入手した」


「……武器」


 裏の人間にはそういったものが必要なのだろう。

 ヒューバートの元婚約者である侯爵家も、武器の流出で家を潰されていたけれど、どの国にも似たような話があるらしい。


「ですので今、探し人はサラスヴァティに血眼になって探されています。……可能なら下手に手出ししないほうがいいのですが……」


 サラスヴァティという連中と同じ人を狙っているということは、敵対ととられてもおかしくはないのだろう。

 人身売買なんてやってる連中だ。

 どんなことをしてくるかわからない。


「――その連中は、レオンをどうするつもりなのかしら?」


「武器さえ返してもらえれば下手なことはしませんよ。目的はあくまで武器ですから」


 アビゲイルは顎に手を当てて考える。

 シリルの言う通り命までとられないのなら、むしろ先に彼らの問題を終わらせてからの方がいいだろう。

 触らぬ神に祟りなし、だ。


「――わかったわ。じゃあそのサラスヴァティという連中のほうが片付いてから、レオンを探すとするわ」


「流石レディ! では私はサラスヴァティの方を探るといたしましょう。全てが終わりましたらご連絡いたしますので」


 シリルは話は終わりだと立ち上がると、アビゲイルたちにのんびりするよう伝え、部屋を後にした。

 完全に扉が閉まり、部屋の中にアビゲイルとグレイアムのみになってから、そっと紅茶に手を伸ばした。


「――アビゲイル。いいのか?」


「…………」


 グレイアムからの問いにアビゲイルは目を細める。

 シリルの言いたいことは理解できた。

 グレイアムですら自由に動けない国で、下手に危ない連中を刺激する必要もない。


「――まさか。そのサラスヴァティとかいう連中が、なにもしないなんてことないでしょ?」


 裏の人間たちが、組織にとってマイナスなことをした者を生かしておく必要はない。

 血眼になって探しているのがいい例だろう。

 よほどその武器のことを他所に知られなくないと見える。


「サラスヴァティより先に、レオンを見つけるわ。いい? グレイアム」


 グレイアムはアビゲイルからの問いに、いつものように微笑んだ。

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