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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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信じる

「――ごっそさん! はー腹いっぱい!」


「よく食べるのね?」


「アビゲイルが食わなさすぎなんだよ。もっとデカくなんねぇといつまでたってもガキに見えるぞ?」


「……余計なお世話よ」


 気にしていることをズケズケと言ってくるエルに、アビゲイルはじとっとした視線を送る。

 最近は食事も多く食べるようになり肉もついた。

 外に散歩に出るようにもなったことで、病的なまでに白かった肌も少しだけ健康的な色味に近づいてきている。

 とはいえ元が元だったからか、まだまだアビゲイルの見た目は大人の女性とは言い難いだろう。

 せめてもう少し肉がつけばいいのにと、お腹まで簡単に見えてしまう胸元を眺めた。


「……男の人って、やっぱりこう……ふっくらしてるほうが好きなのかしら?」


「そりゃガリガリのチビよりは、豊満なねーちゃんのほうがよくねぇか?」


「――くっ」


 アビゲイルはフォークを力強く握りしめた。

 その通り過ぎてなにもいえない。

 アビゲイルは己の体を見つめつつ、ふとグレイアムのことを思い出す。

 結局あれから同じ部屋で寝泊まりはしているものの、ベッドを共にすることはない。

 やはり己に魅力がないからかと落ち込んでいると、そんなアビゲイルに気づいたエルが言いづらそうに口をひらいた。


「あー……まあ、そういう特殊なやつもいるだろ! 大丈夫大丈夫!」


「慰めるの下手くそすぎじゃない!?」


 対して効果のない大丈夫を繰り返されて、アビゲイルは苦虫を潰したような顔をした。

 他人事だと思って……と心の中で呟きながら、頼んでいたデザートのケーキを食べる。


「それにしてもアビゲイルは貴族なのに話しやすいな! 貴族ってのはもっと平民を見下してるもんだぞ?」


「そんなことないと思うけど……」


「甘い!」


 エルは人差し指を立てると、よく聞けと前置きをした。


「いいか? 貴族ならもっと偉そうに、平民なんて芋虫みたいに思え。そんな奴らばっかりなんだからな!」


「貴族との間になにかあったの……?」


「……別に。上のやつは嫌なやつって相場が決まってんだよ」


 スッキリしない物言いに、なにかあったんだなと察した。

 まあ貴族というだけで平民をバカにする人は一定数いるのだろう。

 そういう人に嫌な思いをさせられたのなら、彼の反応にも納得だ。


「まあ舐められないように頑張りな」


 それだけ言うと、エルは立ち上がった。


「んじゃ、青髪な? あ、年齢は?」


「私の一個下だから、十八だと思うわ」


「――…………十八、ねぇ」


 なにやら思うところがあるのか、視線をさまよわせたエルは少しだけ言い淀む。


「…………アビゲイルさぁ、その……」


「……どうしたの?」


「…………いや、やっぱなんでもない。そんなわけねぇし」


 なんなのだろうか?

 エルは言いにくそうに口を開いては、話すのをやめた。


「……アビゲイルにとって、その弟って大切な存在なのか?」


「…………そうね」


 ふむ、と考える。

 最初の目的はもちろんカミラへの復讐のためだった。

 ただ彼女の弱みを握っておきたいがために探していたのだが、弟―レオン―のことを知れば知るほど自分と似たところがあると思えてくる。

 親の愛情を知らずに生きてきた見知らぬ弟。

 今は少しだけ、話をしてみたいのだ。


「大切よ。だって家族なんだもの。会ったこともないけれど、きっと仲良くなれると思うの」


「…………ふーん」


「妹はいるけど、仲良くないの。だから弟ってどんな感じかわからないのよね。……一緒に買い物とか、行ってくれるかしら……?」


 お互いの洋服を選んだり、一緒にデザートを食べたり。

 そんなたわいないことができればいいのだけれど……。


「……アビゲイルの弟なら、そんなガキっぽいことにも付き合ってくれるんじゃねぇの?」


「またそういうこと言う……!」


 むうっと唇を曲げたアビゲイルに、エルは意地悪そうな笑みを浮かべた。


「嘘嘘。アビゲイルはいい姉貴になるな。俺が保証してやるよ! ――じゃあな!」


「あ、ちょっと!?」


 言うだけ言ってエルはその場を去っていった。

 初めて会った時もそうだけれど、まさに風のような存在だなと、思わず笑ってしまう。


「すごい行動力よね」


「笑い事ではございません」


「身元もわからぬ者ですから、警戒したほうがよろしいかと」


「……そうねぇ」


 ララとリリの言いたいこともわかる。

 エルはあきらかになにかを隠している。

 名前もそうだし、今なにをしているのかも、彼は秘密にしたいのだろう。

 まあどちらにしても『普通』ではないことは明白だ。


「……まあ、大丈夫でしょ」


「アビゲイル様!」


「お気をつけくださいませ!」


 ララとリリの言葉に頷きつつも、アビゲイルの心は決まっていた。

 エルを信じる。

 なぜかそうできるという確信があるのだ。

 どこの誰でなにをしているのかもわからないのに――。

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