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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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人探し

 エルのことをグレイアムに説明はしたけれど、元々大した情報もなかったため、あまり参考にはならなかったようだ。

 ひとまずアビゲイルが無事ならいいのスタンスらしいグレイアムは、早々に興味をなくしたようだった。


「結局どこの誰だったんですかね?」


「エルって名乗ってましたけど……」


「んー……」


 結局暇だからと、アビゲイルはまたしてもララとリリを連れて観光をしていた。

 相変わらず人が多いこの場所で、エルを見つけることは至難の業だろうと思いつつも、ついキョロキョロとしてしまう。


「なーんか、縁があるように思えるのよねぇ」


「あんなのと縁など持たない方がいいです!」


「そうです! アビゲイル様の身にもしかにかあったら……!」


 心配してくれている二人に微笑みかけつつも、アビゲイルの瞳はやはり辺りを見回す。

 あれだけの怪我をしていたのだから、今ごろ家でゆっくりしているかと諦めた時、ぽんっと肩を叩かれた。


「よ」


「――エル!? あなた……!」


「いやぁ、なんの縁なのかねぇ? これだけ人がいるのにまた会ったな」


「あなたねぇ、そんな適当な……!」


「いいじゃんいいじゃん! それよりなんか飯奢ってくれねぇ? 腹減っちまってさ」


「…………もうっ!」


 あれこれ考えていたのがバカらしくなってきた。

 アビゲイルの隣を歩むエルをチラリと見つつ、仕方ないとため息をつく。


「……なにが食べたいの?」


「アビゲイル様……!?」


「危険です。このようなもの……」


「大丈夫よ」


 エルが何かをしてくるとも思えない。

 それに似たもの同士ということもあるからか、放っておけないのだ。

 アビゲイルはこの間入った食堂へと向かい、テラス席へと腰を下ろした。


「好きなもの食べていいわよ」


「マジか! じゃあ……」


 エルは五種類ほどの料理を頼むと、満足したのかテーブルに膝をついて少しだけ前のめりになった。


「まさかまた会えるなんてな。いるかなー? なんて見てはいたけど……」


「私も探してたわ。怪我は大丈夫なの?」


「こんだけ丁寧に手当してもらえたんだから、すぐ治る」


 ぶんぶんと肩から腕を回したエルは、出された前菜のサラダを一瞬で食べ尽くした。


「あんなところに泊まってるってことは、アビゲイルは観光客か?」


「そうよ」


「なら気をつけたほうがいい。ここいらはスリが多いからな」


「みたいね」


 金銭を持っていなかったこと。

 さらには相手がまだ素人に近かったから、アクセサリー類も取られずに済んだが、あれからララとリリにも気をつけるよう言ってある。

 ここは明るいだけの街ではないのだ。


「……その様子じゃ、もうやられたか?」


「金目のものは持ってなかったし、相手が素人だったからアクセサリー類も取られなかったわ」


「ふーん……。ま、身につけてるものをとるのは難しいからなぁ」


 アビゲイルは紅茶を飲みつつ、ちらりと前にいるエルに鋭い視線を向けた。


「まるでやったことがあるような言いかたね?」


「さー? ドウデショー?」


 別にやっていたからって、エルを警備に突き出したりなんてしない。

 彼もまた生きるために必死だったのだろう。

 もちろん悪いことではあるので、しっかりと睨みを効かせておいた。


「それにしてもなにしに来たんだ? ただの観光か?」


「いえ、知り合いを探しているの」


 エルはメインのステーキを食べつつ、パンに齧り付いた。


「知り合い? ……ふーん。どんな?」


「弟よ。父親違いの」


「あー……。貴族ってのも面倒なんだなぁ」


 エルはそばを通った従業員に声をかけて、ワインを用意させた。

 それをまるで水のように飲み干すと、追加で頼んだシチューを啜る。


「んで? 見つかったのか?」


「いえ。知り合いが探してくれてるんだけど……」


「…………そいつの特徴は?」


「――え?」


 どうしてそんなことを聞いてくるのだろうか?

 不思議そうに聞き返したアビゲイルに、エルは飲み干したシチューの皿を豪快にテーブルへと置いた。


「手当の礼に俺が探してやるよ! ここら辺のこと、少しは詳しいつもりだぜ?」


「……でも」


「その弟とやら探したいんだろ? なら人手は多いほうがいい。これだけの人数の中から一人探し出すなんて至難の業だしな」


 がやがやと賑わう人の声が耳に届く。

 確かにエルの言うとおり、これだけの人数がいてはいくら土地に詳しいシリルとて簡単ではないだろう。

 人手は多いに越したことはない。


「……名前は――」


「ああ、名前はいいや。見た目の方が人が多いところではありがたい。特徴とかねぇの?」


「目立つくらい美しい青い髪をしているわ」


 エルの髪も深い青で美しいが、聞いた話によればもっと鮮やかな青色だと言う。

 なかなか珍しいのではと口にしたのだが、エルはその言葉を聞いて片眉を上げた。


「……アビゲイルってこの国の人間じゃないよな?」


「私? 私はエレンディーレからきたの」


「エレンディーレ……しらねぇな」


 まあ小国なので、庶民が知らなくても無理はないかもしれない。

 お腹が膨れたのか、野菜のスープをちびちびと飲み始めたエルは、小さく呟いた。


「他国なら関係ねぇか」


「なにか言った?」


「なーんでもねぇ」

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