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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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バイバイ

「アビゲイルっていいところのお嬢様だろ? なのになんでこんなこと知ってんだ?」


「……いいところのお嬢様だからって、愛されて育つわけじゃないのよ」


「…………あーね? それはそうだわ。俺の考えが甘かったわ」


 傷がないほうの頭をぽりぽりとかくと、エルは気まずそうな顔をした。


「まあお互い苦労した似たもの同士ってことで、仲良くしようぜ」


「仲良くするのはいいけれど……なんか嫌ね」


 まあ事実のようだからいいかとエルから差し出された手を握る。

 固く握手をしたエルは、すぐに手を離すと己の体を確認しだした。


「思ってたよりも重症じゃねぇな。アバラの一本、二本、折られてたかと思った」


「どんな目にあったのよ……」


「そりゃ怖いお兄さんたちに……いや、なんでもねぇ」


 途中まで喋りそうになっていたが、ギリギリで思いとどまったらしい。

 もうほとんど答えを言っているようなものだけれど、と思いつつもアビゲイルは後ろに控えるララに声をかけた。


「食べ物包んで持ってきてくねる?」


「かしこまりました」


「俺もう食えねぇよ?」


「今じゃなくて。持って帰って食べれるものがあったほうがいいでしょ」


 先ほどエルは自分の体を確認していた。

 最初は自分の怪我を気にしているだけなのかな? と思ったけれど、その後視線が窓や扉といったところに向かったことでなんとなくわかった。

 エルはここから去るつもりなのだと。

 きっとアビゲイルの隙をついて逃げ出そうとしていたのだろうが、気づいてしまった。

 ならせめてとララに言って食料を詰めてもらっているのだが、それを知ったエルは苦虫を潰したような顔をする。


「……本当に変わった女だな。怪我の手当てをした上に食べ物まで? ……なに考えてんだ」


「あなたが言ったんでしょ。似たもの同士って。……飢える気持がわかるから。怪我してる時くらいちゃんと食べなさい」


 怪我や病気をしている時は、いっそう心が貧しくなるのだ。

 悲しいや苦しいがいつもより増幅する。

 そのつらさがわかっているからこそ、アビゲイルはせめてもの助けと、食材を渡すことにしたのだ。


「いい? ちゃんと食べてしっかり傷をな――」


「アビゲイル? 帰ってきたのか?」


 治しなさいと伝える前に、グレイアムがドア越しに声をかけてきた。

 そういえば帰ってきたことを伝えていなかったと、ドアのほうに振り返った時だ。

 頰を風が撫でた。


 ――ガチャッ


 窓の開く音が耳に届き今度は正面を向くと、窓を開けてバルコニーの手すりに足をかけるエルがいた。


「ちょ!? 待ちなさい!」


 明らかに飛び降りる様子のエルに、慌てて立ち上がり走り寄る。


「アビゲイル? どうし――」


 その間にもグレイアムが扉を開けて、中へと入ってきた。

 彼はすぐにアビゲイルと、そして手すりに足をかけるエルを目撃する。


「世話になったな!」


「エル、待って! ここ二階――」


 エルは人懐っこい笑みを浮かべると、手すりを蹴り上げ、まるで羽でも生えているかのように空へと飛び上がった。


「――エル!?」


 だがもちろん人間飛べるわけもなく、落ちていくエルを確認しつつ、アビゲイルは手すりから身を乗り出し下を見た。

 そこには地面に足をつくエルがいて、彼はゆっくりと立ち上がるとアビゲイルの方へと振り向く。


「じゃあな、アビゲイル! もう会うことはないだろうけど、元気でやれよ!」


「エル、待って……!」


 だがアビゲイルの声に彼が止まることはなく、ふりふりと手を振りながら人混みへと消えてしまった。


「……なんなのよ、全く…………」


 だがしかし、この高さから飛び降りても生きていてよかったと、アビゲイルは安堵のため息と共にその場に座り込んだ。

 まあ急にいなくなるのはどうかと思うが、無事ならばいいかと立ちあがろうとした時、目の前に手が差し出された。


「なにがあったんだ?」


「グレイアム。……ごめんなさい、勝手に行動して」


 ここはグレイアムが借りてる部屋だ。

 そんなところに見ず知らずの人間を入れるなんて、彼からしてみればいい気はしないだろう。

 だがアビゲイルからの謝罪に首を振った彼は、ちらりとバルコニーの外を見た。


「俺には人が飛び降りたようにしか見えなかったんだ……?」


「ええ。エルって怪我を負った子を介抱してたの。けど……」


「俺がきたから飛び降りたのか……」


 ふむ、と顎に手を当てたグレイアムは数秒考えたのちに、アビゲイルの手を掴んで部屋の中へと入る。


「ひとまず目立つから中に。……大丈夫。俺はアビゲイルが無事ならそれでいい」


「私は大丈夫よ」


 アビゲイルはグレイアムに連れられながら、もう一度バルコニーのほうを振り返った。

 エルとは、なんだか縁があるように思えた。

 あそこでアビゲイルが拾ったのもそうだが、これっきりの関係とも思えなかったのだ。


「……」


 もう怪我をしなければいいのだけれど、とアビゲイルは彼のいなくなった方向を、しばしの間眺め続けたのだった。

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