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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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知識

「……腹膨れた。傷も……礼を言う」


「……人間て、お腹空いてたり痛かったりすると、思ってもないこと言ったり、攻撃的になるものよ」


「……ほんと、変な嬢ちゃ……あー」


「アビゲイルでいいわ」


「アビゲイル、ね」


 なんとなくやりづらそうにぽりぽりと頭をかいた彼は、しかしすぐに傷に触れてしまったのか痛そうに顔を歪めた。


「馬鹿ね。あちこち傷だからなんだから、触らないの」


「………………ん」


 せっかく頭に包帯を巻いたのに、これでは意味がなくなってしまう。

 アビゲイルが軽く怒ると、男性は静かに頷いた。


「――そういえば、名前を聞いてなかったわね?」


「名前? …………エルだ」


「エル? ……不思議な名前ね?」


「本名なわけないだろ。みんながそう呼ぶってだけだ」


「本名は教えてくれないの?」


「…………教えない」


 ちょっとだけ考えたのちに断られてしまった。

 まださすがにそこまでの信頼度はないらしい。

 割と手当とか頑張ったんだけどなと思いながらも、水を飲むエルへと視線を向けた。


「それで? なんであんな怪我をしていたの?」


「…………ちょっと失敗して、殴られただけだ」


「――殴られたって……」


 打撲の痕や切り傷の具合的に、そうなんじゃないかと思っていた。

 だが実際本人からそれを告げられると、思わず口ごもってしまう。


「……あなた、危ないことしてるの?」


「…………」


「無言は肯定ととるわよ」


「ならなんだよ。捕まえるとでも言うのか?」


 先ほどまでのちょっと気まずそうな雰囲気はどこへやら。

 むしろ開き直ったかのような態度で言うエルに、アビゲイルは大きめなため息をついた。


「心配しただけよ。これだけの怪我負ってるんだから」


「――…………心配? ………………おれ、を?」


 エルはぽかんと口を開いて、まるで信じられないことを聞いたかのような反応をする。

 どうしてそんなに驚くのかと不思議に思いながらも、アビゲイルはこくりと頷いた。


「厄介ごとだってわかってても助けたのよ? そんな人が危険な目に遭ってるってわかったら、さすがに心配くらいするわよ」


「………………そうか」


 アビゲイルの話を聞いたエルは、なんだかぽやんとし始めたように感じる。

 なんどもまばたきと『心配』と言う言葉を繰り返す。

 まるでそれが信じられないことのように。


「……」


 その姿が、公爵家にきたばかりのころのアビゲイルと重なった。

 受けとる優しさを信じられず、夢から醒めたくないと駄々を捏ねたあの時。

 思い出すと少し恥ずかしいのだが、エルの今の姿はその時のアビゲイルに少しだけ似ていた。


「……怪我はどう? 包帯キツくない?」


「…………大丈夫。普段こんなふうに手当てなんてしないから、あっという間に治りそうだ!」


 ニカっと屈託なく笑う姿に、アビゲイルもまた微笑む。


「手当てって自分でするの限界があるものね?」


「そうなんだよ! 背中とか……あと太ももの裏とかやりにくいってのなんの」


「脇腹もやりづらかったわ。無理すると攣りそうになるし」


「わっかるー! こうさ、片手あげてなんとか傷見ようとして……首がグキってなりそうなんだ」

 

 うんうんと二人で頷きつつ、話が合うなとあれこれ進めてしまう。

 最初はケガの話だったが、途中から食べ物の話にまでなった。


「野草は食ってみて大丈夫か確認してたな。毒があった時は舌が痺れたり腹下したが、少量ならなんとかなった」


「あなた……すごいことしてたのね」


 さすがのアビゲイルも草は食べたことがなかった。

 というより部屋から出ることを許されていなかったアビゲイルには、草を手に入れる手段すらない。

 まさかそこらへんの草でお腹を満たすことができるなんて……。

 目から鱗の話に、アビゲイルは己の無知を恥じる。


「今度どんな草が食べれるか教えてくれない?」


「いいぜ! いざって時に食べれる草とか木の実とか知っとくと、飢えを凌げるからな」


「木の実……なるほどね」


 山の中にあるものが有害か無害かを区別できるなら、これほどありがたいことはない。

 この知識と水さえあれば、一週間は余裕で生きられるはずだ。


「アビゲイルからはなんかいい情報ねぇの?」


「いい情報……?」


 彼のように外に出ていたわけではないので、そこまで有益な話はできないだろう。

 けれどまあ、そう言われるならばと思考を巡らせた。


「そうね……。パンはカビの生えたところをのぞけば食べれるものが多いわ。 パサパサでも牛乳につければ食べれるし。あ、牛乳はだめよ。腐ってたら諦めたほうがいいわ。あれはほぼお腹を下すから」


「わかる! 牛乳はダメだよなぁ。それで言うと……」


 エルはそこまで言うとはたと動きを止めた。

 なにやら驚いたようにアビゲイルの背後を見ていたので振り返れば、そこにはララとリリが口元を押さえ沈痛な面持ちで立っていた。


「……二人ともどうしたの?」


「いえ。申し訳ございません」


「己らの無力さを痛感していたところでございます」


 二人の答えを聞いたアビゲイルはエルと目を合わせ、苦笑いを浮かべつつ口を閉ざしたのだった。

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