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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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50/157

わけあり

「……ひとまず、命に別状はなさそうね」


「はい。見た限りは打撲と切り傷のみという感じでしたので、大丈夫かと」


「口内を確認しましたが、喉を通っている血は見えませんでした。口内が切れたことによる血のみですので、内臓も一旦安心していいかと」


 リリとララの言葉に頷き、アビゲイルは使っていた包帯を片付ける。

 怪我を確認し、可能な限り手当てをした。

 頰や手足の切り傷。

 一番ひどかったのは腹にあった打撲跡だった。

 切り傷もそうだが、明らかに誰かに殴られたような跡を見て、アビゲイルは思わず眉を寄せてしまう。

 本当になにがあったのだろうかと、眠る男性の額から流れる汗を拭った。


「――ぅ、う……んっ」


「――! 目が覚めた!?」


 呻き声とともに男性が体を動かす。

 アビゲイルが顔を覗き込めば、ゆっくりとその紺色の瞳を露わにした。


「…………だ、れだ?」


「私はアビゲイル。あなた、道に倒れてたのよ?」


「…………道? ――っ!」


 呆然と会話を繰り広げていた男は、突然思い出したように起き上がった。

 しかし腹部にある打撲痕が痛んだのか、腹を押さえてベッドへと倒れ込む。


「ちょっ! 傷だらけなんだから無理しちゃダメよ」


「…………っ」


「ほらお水でも飲んで落ち着いて?」


 男性の頭を支えつつ口元に水を持っていけば、渋々といった様子ながら喉を潤している。

 物が飲み込めるなら、リリの言ったとおり臓器にダメージはない可能性が高い。

 男性も水を飲んで落ち着いたのか、ベッドの上からアビゲイルへと視線を向けた。


「…………どうして俺を助けた?」


「倒れてたから。……正直悩みはしたけれど、放ってもおけないと思って」


「…………はっ。金持ちが道楽で人を助けたのか? 馬鹿なやつだな」


 その言葉を聞いたララとリリの顔色が変わる。

 鋭い視線を男性に向ける二人に優しく微笑みかけながら、アビゲイルはそばにあるりんごへと手を伸ばした。


「面倒ごとに巻き込まれるぞ? 偽善事業なんてやめちまえ」


「――りんご、食べる?」


「…………お前、人の話聞いて――」


 男性が呆れながら口を開いたが、途中でぐるるるっとお腹が鳴った。

 よほどお腹が空いていたのだろう。

 アビゲイルは簡単に皮を剥くと、男性へと差し出した。


「食べれそうなら食べたほうがいいわ」


「…………ちっ!」


 バッと奪い去るように皿を奪うと、皮の剥かれたりんごをものすごい勢いで食べ尽くす。

 ケガの手当てをしている際に思ったけれど、彼はたぶんまともな暮らしをしていない。

 普通の人よりも肉付きが悪く、まるで少し前までのアビゲイルを見ているかのようだった。

 だからお腹が空いているだろうなと思ったのだが、やはり正解だったようだ。


「……ララ。なにか食べ物を持ってきてくれる?」


「かしこまりました」


「――金持ちの施しなんて受けねぇよ!」


 ララが頭を下げて部屋を出ていくのを、男性は睨みつけるように見つめた。


「惨めだと思ってんだろ? そこらへんの犬猫みてぇに餌でもやってる気分なんだろ!? ふざけんなっ!」


「…………」


 確かに猫のようだなと、アビゲイルは毛を逆立てる男性を眺める。

 最近公爵家に野良猫がやってくることがあり、手懐けようと試みているのだがこれがなかなか難しいのだ。

 確かに似たようなものだなと思いつつ、他のフルーツも差し出した。


「食べれる時に食べておかないと、死ぬわよ。――少なくとも私はそうだった。……あなたは違うの?」


 カビの生えたパンや傷んだ野菜。

 冷めきったスープに、腐りかけの肉。

 それでも食べねばこの体は生きていけない。

 だから口にした。

 生きるためには必要なことだから。


「…………」


 アビゲイルに差し出されたフルーツを見て、男の瞳がぐらりと揺れる。


「……あんた、金持ちのお嬢じゃないのか?」


「さあ。それで? 食べるの? 食べないの?」


「…………あんたも訳ありか」


 ぼそりとつぶやかれた言葉は空に消え、男性は手を伸ばしフルーツをとる。

 先ほどまでの対抗心はどこへやら、おとなしくフルーツを食べる姿にほっと息をつく。

 男性はフルーツでは足りなかったのか、ララが持ってきてくれたパンにもかぶりついた。


「…………あんたいいところの嬢ちゃんだろうに、なんでこんなボロ切れ拾った?」


「さっきも言ったけど、見過ごすには夢見が悪すぎたのよ」


「……ふーん」


 パンを頬張りつつ温めたミルクでそれを流し込む。

 まるでとにかく早く腹を満たしたいと言わんばかりの食べ方に、アビゲイルはため息をつく。


「誰も奪ったりしないから、ゆっくり食べなさい。……ここではそれができるから」


「…………ほんと、変な嬢ちゃんだな」


「さっきから嬢ちゃん嬢ちゃんいうけれど、たぶんそこまで年齢変わらないわよ?」


「……十二、三の子どもじゃないのか?」


「失礼ね。私はこれでも十九よ」


 確かに小柄ではあるけれど、まさかそんなに小さいと思われていたなんて。

 ムッとするアビゲイルに目を見開いた男性は、手に持っていたパンをぽとりとシーツの上に落とした。


「……年上? 嘘だろ?」

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