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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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見捨てないで

「……はは、うえ?」


「そうです。お母様です」


 幼いころから支配され続けてきたヒューバートにとって、母という存在は大きすぎた。

 ただ母にバレたくないというだけで、大嫌いなアビゲイルに頭を下げたほどに。


「お母様が私が参列することを、お許しになんてならないでしょう……?」


「そ、それは……」


 そんな母に歯向かって、アビゲイルが参列することに頷けるかどうか。

 試したかったのはこれだ。

 アビゲイルと母親。

 その二つを天秤にかけた時、ヒューバートはどうするか。

 ここで母を選ぶようでは、完璧に堕ちたとは言えないだろう。


「お兄様。本当に、私が参列してもいいとお思いですか?」


「……ぼ、僕は……っ」


 俯くヒューバートに、アビゲイルは冷めた視線を向ける。

 悩んでいる様子の彼に、やはりまだダメだったかと落胆した。

 ヒューバートのためにかなり動いたつもりだが、まだ母の呪縛には勝てなかったようだ。

 アビゲイルが大きくため息をついた時、ヒューバートの肩が大袈裟なくらいビクついた。


「――あ、アビゲイル?」


「はい? どうなさいました?」


 思ったよりも低い声で答えてしまった。

 目元も少し冷たい印象を与えてしまったのだろう。

 途端にヒューバートの顔が青ざめた。


「あ、アビゲイル! 大丈夫だ! 母上なんて僕が黙らせてみせるから……!」


「……お兄様?」


「な? 母上なんて気にしなくていい! 僕が王だ! 僕より上のやつなんていないんだから……!」


 ヒューバートはアビゲイルの両腕を強く握ると、青ざめた顔のまま何度も大丈夫、大丈夫と告げた。


「――」

 

 真正面からそんなヒューバートの顔を見て、アビゲイルはふと頭の中にとある景色が浮かんだ。

 それは幼いころのアビゲイルだった。

 母と顔を合わせたことがある数回。

 その時に母に少しでもいい顔をしたくて、少しでもいい子だと思われたくて、必死になっていた時を思い出したのだ。

 見放されたくない。

 自分を見て欲しい。

 そんな思いから泣きそうになりながらも縋ったあの日々。

 今のヒューバートは、そんな顔をしている。


「…………」


 ぞわり、と背筋をなにかが通った。

 それはアビゲイルの頰を赤らめ、瞳をゆらゆらと輝かせる。

 口元に笑みを浮かべたアビゲイルは、自身に縋り付くヒューバートの頭を優しく撫でた。


「――大丈夫よ、お兄様」


 ぱっと顔を上げたヒューバートに、アビゲイルは優しく語りかける。


「お兄様が私を大切にしてくださっていること、わかっていますから」


「……アビゲイルっ」


「たとえお母様が私を拒絶しようとも、私にはお兄様がいます。それだけでじゅうぶん心強いです」


 アビゲイルの言葉を聞いたヒューバートの顔が、ぱあっと晴れ渡る。


「そうか! そうだな! 僕だけはなにがあってもアビゲイルの味方だ! だから安心していい」


 うんうんと頷き、ヒューバートはまるで演説でもするかのように両腕を広げた。


「母上がなんだ! しょせんは王妃――いや、王太后! 国王に叶うわけがない!」


「そうです。その通りです。この国でお兄様に勝てるものなんていないのですから」


「そうだ! 僕が一番なんだ!」


 鼻息荒くしているヒューバートは、そのままアビゲイルを見るとテーブルに置かれた宝石たちを指差した。


「アビゲイル! 必ず即位式に参列してくれ。大丈夫、僕が守るから」


「――ええ、お兄様。本当に嬉しいです」


 結局ヒューバートは、お付きのものから声をかけられるまでアビゲイルと共にいて、名残惜しそうに公爵家を後にした。

 アビゲイルは最後まで笑顔で見送り、応接室に戻ってきてからソファへと倒れ込んだ。


「疲れた……」


「ものすごい饒舌でしたね……」


「話が途切れることがなかったですね」


 呆れた様子のララとリリに頷きつつ、アビゲイルはノロノロと体を起き上がらせる。

 ヒューバートを堕とすことには成功したようだが、まさかあそこまで態度が変わるとは思わなかった。

 今の彼はとにかくアビゲイルに見放されたくない、見限られたくないようで、必死に機嫌をとろうとしてくる。

 そこまでしなくても大丈夫なのにとは思いつつも、まああれで本人が幸せそうだからいいかと一人頷いた。


「……アビゲイル様。この宝石やドレスはどうなさいますか?」


「お部屋にお運びしてもよろしいですか?」


 ララとリリに言われて思い出したように宝石を見る。

 光り輝くその姿は確かに美しいが、なぜか心踊ることがなかった。

 どうしたものかとしばし見つめ、ふと思いつく。


「ララ、リリ。あなたたちにあげるわ」


「え!?」


「いえ! さすがに受けとれません!」


「私にはグレイアムがくれたものがあるから……。彼からもらったもの以外、身につけたくないの」


 グレイアムからたくさんの贈り物をもらっていて、それ全て袖を通していないのに、他の人からのプレゼントを身につけたくなかった。

 グレイアムからの好意にちゃんと応えたいと伝えると、ララとリリは深く頷く。


「確かに。ご当主様そういうところ気にされそうですもんね」


「アビゲイル様のお心遣い、しかと受け取りました」


 うんうんと頷いたララとリリは、しかし……と宝石を眺める。

 これではいつまで経っても手にとってもらえなさそうだなと、アビゲイルは二人の手に次々と宝石を乗せていく。


「いらないものは換金してくれていいから」


「そ、そんなもったいない! アビゲイル様からいただいたものをそんなこと……!」


「家宝にいたします! 子々孫々まで語り継ぎます!」


「いいから。好きにすればいいのよ」


 ドレスはアビゲイルに合わせて作っているだろうから、あれらはあとで換金しよう。

 本当は宝石類もお金にしてグレイアムに返したいのだが、彼は受け取ってくれないのだ。

 なら普段お世話になっているララとリリにあげたほうがいい。


「他の使用人にあげてもいいわ」


「――かしこまりました! いかにアビゲイル様がお優しいか伝えておきます!」


「アビゲイル様を毎日拝むよう伝えておきます!」


「やめてね?」

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