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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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プレゼント

「それで、男たちは解放したのですか?」


「ええ、借金は肩代わり。病気の母親は医者に見せて薬もあげた。身売り間近の妹にはいい嫁ぎ先を案内」


「さすが素晴らしい手腕です。……ですが男たちはその後逃げたりは……?」


 ララとリリからの問いに、アビゲイルは穏やかに微笑む。


「大丈夫。助けられたってことは、同時に彼らの『大切なもの』も握られてるってことよ? そう簡単に逃げられたりしないわ」


 自分だけなら捨て身でもこれるだろうけれど、家族も巻き添えになると思うと動けないものも多いだろう。

 それにアビゲイルだって彼らが逃げ出すようなことをさせるつもりはない。

 いざという時に少しだけ情報を流してくれればいいのだ。

 裏の人間にしか手に入れられない情報は、時に貴重な財産となる。


「いざとなれば切り捨てるけれど、それまでは甘い蜜の中で飼い殺してあげるのよ」


「なるほど……。さすがはアビゲイル様です!」


「ええ。そのような考えにまで至られるなんて……素晴らしいです!」


 アビゲイルは読んでいた本を閉じて、うんうんと頷く二人に困ったような笑みを浮かべた。

 なんだかこの二人、だんだんアビゲイルのやることなすこと全てを全肯定しているような気がする。

 まあきゃっきゃと話す二人が可愛いからいいかと納得していると、使用人が現れ客人が来たことを知らせてくれた。

 アビゲイルはソファから立ち上がり、客人を快く受け入れる。


「――お兄様」


「ああ、アビゲイル……! 我が妹よ!」


 ヒューバートは両手を広げて入ってくると、そのままアビゲイルを抱きしめた。


「今日も元気でやっているのか? ちゃんと食べてるのか?」


「もちろんです」


 ぎゅっと抱きついてきたヒューバートをさりげなく引き剥がしつつ、彼をソファへと誘導した。

 しかしヒューバートは座ることなく、廊下に向かって合図を送る。


「ああ、愛しの妹アビゲイル。今日はお前にプレゼントを持ってきたんだ」


「……プレゼント、ですか?」


 ヒューバートから何かをもらうなんて初めてで、目をぱちくりさせていると部屋の中に大小さまざまな箱を持った使用人が入ってくる。

 彼らはテーブルの上に箱を置き、蓋を開けてから部屋を出ていく。

 さらには壁際にもドレスが飾られ、一体何事だろうかと使用人たちを見つめていると、隣にいたヒューバートがこっそりと声をかけてきた。


「もちろん、これは借金とは関係ない。必ず返すから、少しだけ待っていてくれ」


「…………」


 どうやら今回のこと、よほど堪えたらしい。

 アビゲイルに対する態度もそうだけれど、このプレゼントも。

 一応いろいろ考えてはいるようだ。

 全ての荷物を置き終えたあと、ヒューバートは今度こそソファへと腰を下ろした。


「愛しのアビゲイル。君には是非とも、この兄の即位式に参列して欲しいんだ」


「――私が?」


 ヒューバートの提案には、さすがのアビゲイルも自身を指差し固まる。

 ヒューバートの即位式を数日後に控えた今日、忙しいであろう彼がわざわざやってきたのは、違法賭博の件だと思っていた。

 もちろん解決したと手紙を送った時は、返事で何度も礼を述べていたし、会って直接お礼を言えないのを悔やんでいた。

 それだけでも彼が変わったとわかったのだが、まさかこんなことを言い出すなんて……。


「もちろんだ! アビゲイルは僕の大切な妹。そんな君に即位式に参列し、祝って欲しいんだ」


「…………」


「これはその時に着るものを用意したんだ! 好きなものを選んでくれ。残りもまた別のタイミングで着てくれたらとてもと嬉しいよ」


 なるほど、とテーブルの上を見つめる。

 決して小さくはないテーブルを埋め尽くす装飾品の数々に、壁際に飾られたドレスたち。

 どれもこれも最高級品で、確かにこれを身に纏えば即位式に出ても恥じることはないだろう。

 だがしかし、とアビゲイルは表情を曇らせる。


「ですがお兄様。私のようなものが即位式に参列するなんて……お兄様のお名前に泥を塗ってしまいます」


「ああ、アビゲイル! お前はなんて慎ましいんだ。お前の爪の垢をアリシアにでも飲ませてやりたいよ」


 アリシアとなにかあったのだろうか?

 ヒューバートはやれ金がかかるだの、やれわがままがすぎるだのぶつぶつ言っていたが、アビゲイルと目が合うと途端に話を変えた。


「愛しい妹が、兄の輝かしい第一歩を祝うのに、なんの遠慮がいるというんだ。文句をいう奴なんて、この僕がその場で切り伏せてやるさ!」


 鼻高々に宣言するヒューバート。

 もちろんそんなことできるわけないと思いつつも、アビゲイルはちょうどいいと一つテストをすることにした。

 彼が本当に堕ちたのか。

 探る簡単な手がある。

 アビゲイルは涙の出ていない目元を拭いながら、ヒューバートの隣へと腰を下ろした。


「――ああ、お兄様。なんてお優しいお言葉。このアビゲイル、感激いたしました!」


「そうか! 安心するといい。お前はこの僕が守ってみせるから」


 アビゲイルの手を強く握るヒューバート。

 彼の瞳を見つめつつ、アビゲイルはふと顔を伏せた。

 もちろんテストをするためだ。


「ですが本当に許してもらえるでしょうか……?」


「もちろんだ! 国王に誰が文句を言えると? 安心していい、アビゲイル」


「……ですが、お母様が…………っ」


 その瞬間、ヒューバートの体がぴくりと跳ねた。

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