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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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堕とす

 アビゲイルたちの予感は的中した。

 その日はグレイアムも執務が休みだといい、二人で公爵家を散歩していた時のことだ。


「その日傘似合ってる」


「ありがとう。グレイアムがくれるもの、全部私のお気に入りよ」


 くるくると日傘と共に回るアビゲイルは、花柄の黄色が目立つスカートをふわりと広げた。

 これもグレイアムが選んでくれたもので、アビゲイルが身につけるものは全てそうだ。

 センスがあるのだなと驚きつつも、アビゲイルは花壇のところまで向かうと腰を折った。


「この花、昨日まで咲いてなかったのに」


「なら、今朝咲いたんだな」


「……綺麗」


 花を楽しむということがわからなかったが、今なら理解できる。

 懸命に咲く花の美しさには、ほっと息をつける。

 ほんのりと甘いような香りもまた、心を落ち着かせてくれた。

 花を楽しむアビゲイルを見ていたグレイアムの元に、急ぎエイベルがやってくる。


「ぼっちゃん! 実は……」


 エイベルが急ぎ伝えてきたことに、アビゲイルとグレイアムは目を合わせる。

 どうやら想像通りの展開になったようだと、二人で頷き合う。

 すぐに屋敷の中へと戻れば、応接室に落ち着きなく歩き回るヒューバートがいた。


「――アビゲイル!」


「お兄様? 一体なにが……」


 事前に訪問の知らせもなくやってきた彼は、本当に慌てているのだろう。

 アビゲイルを見つけると涙目になりつつ駆け寄り、その足元に縋りついた。


「助けてくれ! アビゲイル!」


 ――ああ。


 アビゲイルは歪みそうになる口元に力を込め、なんとか表情を整える。

 兄を心配する妹を演じるため、ヒューバートの腕を優しく掴む。


「どうしたのですかお兄様。一体なにがあったのです?」


「ああ、アビゲイル! 僕にはもう、お前しかいない――っ!」


 ひどく狼狽しているヒューバートを、グレイアムが掴み立ち上がらせる。

 ヒューバートはフラフラしつつもソファへと腰を下ろすと、青ざめた顔を手で隠した。


「あいつら! 僕を脅してきやがったんだ!」


「…………脅す? どういう意味ですか?」


「借用書があると! ちゃんと借金全部返したのに、違法賭博をやってたとバラしてやるって!」


「借用書の破棄をさせなかったのか?」


「…………知らなかったんだ」


 呆れたと、グレイアムは軽く肩をすくめた。

 本当に詐欺師たちにとっては、なにも知らないぼっちゃんというのはいいカモになるのだなと、今のヒューバートを見て納得する。


「つまり今のお兄様は、借用書を証拠として、違法賭博を行なっていたことをバラすぞと脅されている、と」


「金を倍額持ってこいと……! 王太子ならできるだろうって……っ! あいつらなにも知らないくせに!」


 まあ普通の人ならば、王太子という身分ならば好き勝手できると思うものだろう。

 実際のヒューバートは、王妃にバレたくないという思いでがんじがらめになっているのだが。


「即位式前にこのようなことがバレれば……」


「僕が王位を継がなければ誰が継ぐというんだ!? 母上が側室の子どもなんて認めるわけないだろう!」


 そんなことになったら王宮はかなり荒れるだろう。

 それこそ血で血を洗う戦いが始まってしまうはずだ。


「僕が……僕が王位を継がなくては……!」


 なら違法賭博になんて手を出さなければいいのに。

 とは思ったけれどもちろん口には出さない。

 アビゲイルは隣にいるヒューバートの背中を優しく撫でながら、ブルブルと震える彼を優しく諭す。


「もちろんです。お兄様が玉座に座られるのを、私は望んでいるのですから」


「……そ、そうか? 本当にそう思うか?」


 微笑みながら頷けば、ヒューバートの瞳はきらきらと輝きだす。


「そ、そうだよな? 僕こそこの国の王に相応しいよな!」


 なんども頷くヒューバートは、自分自身に言い聞かせているようだった。

 まるで希望を見出したような表情のヒューバートに、アビゲイルは静かに告げる。


「ですがこの件がバレたら……難しいかもしれませんね」


「――」


 絶望に染まったヒューバートの顔を、アビゲイルは穏やかな面持ちで見つめる。

 そうだ。

 その表情が欲しかったのだ。


「でも大丈夫です。私がお兄様を救ってさしあげます」


「――……本当か?」


 ヒューバートは王妃の息子として生まれたその時から、王になると決まっていた。

 それは周りが、母が、父が、そして自分自身が当たり前に思っていたこと。


「……アビゲイル。僕を、助けてくれるのか……?」


 そんな当たり前がもし消えてしまったら。

 周りからの蔑んだ瞳。

 侮蔑の言葉。

 呆れた表情。

 そのどれにも、ヒューバートは耐えられないだろう。


 ――なんて弱い生き物なのだろう。


 だからこそ、慈しんであげなくては。

 大切に大切に愛してあげて、ゆっくりと堕としていく。

 それが、アビゲイルのするべきことだ。


「もちろんです。お兄様には、この私がついていますからね?」


「…………」


 ほろり、とヒューバートの目から涙がこぼれた。

 よほど切迫詰まっていたのだろう。

 ヒューバートは鼻を啜りながら、アビゲイルに縋りついた。


「ありがとう……! ありがとう、アビゲイル!」


「……大丈夫ですよ。お兄様」


 優しく微笑むアビゲイルの瞳は、赤くぼんやりと光っていた。

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