表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/157

手駒

 ことは少しだけ遡る。

 それはグレイアムから作戦の話を聞いた時だ。


「……借金!? それに違法賭博って……」


 信じられないと空いた口が塞がらなかった。

 賭博自体が禁止されているわけではないこの国で、違法賭博といえばものは限られてくる。

 そのどれもこれもが命を軽んじるものであり、数代前の国王の命令により禁止となった。

 だというのに、いまだに隠れてそれを行っているものたちがいるらしい。

 人と人を争わせるなんてなにが楽しいのだろうか?

 命を落とす可能性だって高いというのに。

 理解できないと頭を振るアビゲイルに、グレイアムはティーカップから口を離した。


「戦争のない平和な時代が続いたからな。そうすると人間は娯楽を求め始めるんだ」


「娯楽……? 人と人が争うのが?」


「自分には痛みがない。関係ない安全な立場から観れるならそれは娯楽になる」


 わからないなとは思いながらも、娯楽が欲しい気持ちは理解できる。

 毎日死んだように生きていたアビゲイルには、娯楽を欲する気持ちがあった。


「まあ王太子という身分でありながら、そんなところに顔を出していたあいつが悪いけどな」


「それはそうね」


 王妃の子どもは三人。

 ヒューバート、アビゲイル、アリシア。

 だと言われている。

 実際は王妃には浮気相手との間に子どもがいるらしい。

 だがその子は今の話には関係ないので一旦置いておくとして、国王には二人側室がいる。

 そのどちらにも男女の子どもがおり、彼らにも王位継承権がある。

 だからこそヒューバートも焦ってはいるのだ。

 だというのにつけ入る隙を与えてしまうなんて、考えなしとはこのことである。


「この件はきっと、王太子が思っているよりも大事になる」


「大事? どんなふうに……?」


「王族ゆえに周りにバレずにあいつが動かせる金銭なんて高が知れている。調べた借金の額的に、一人で解決することは不可能だ」


「そ、そんな額賭けたの……?」


 こっそりと教えてもらった額は、アビゲイルには想像もつかないものだった。

 そんな大金が、闇市ではたびたび動くという。


「これだけの額を動かすとなると、ヒューバートは王妃に頭を下げなくてはならなくなる」


「……それは無理よ。お母様が許すわけないもの……」


 体裁がなによりも大切だと思っている王妃が、そんなことを許すはずがない。


「そうだ。このことを知ったら、王妃は詐欺師どもを皆殺しにするだろうな」


「…………」


 確かにそのとおりだ。

 あの母ならやりかねない。


「それで解決はするが、王太子はそれは望まない。王妃にバレることをなにより嫌がるだろうからな」


「……でも、解決できるの?」


「金ならある。王太子に貸してやればいいんだ」


 自信満々なグレイアムの言葉に、アビゲイルの目が丸くなった。

 いくら公爵家といえども、それだけの大金を貸すとなるとさすがに大変なのでは……?

 と不安に思ったアビゲイルだったが、グレイアムは静かに首を振った。


「一年前。大寒波で食糧不足が問題になったのを知っているか?」


「え、ええ。王宮の使用人たちが言っていたわ」


「俺にはゲームの知識があるから、事前に食料を大量に貯めておいたんだ」


 またゲームというやつだ。

 意味はいまいちわからないが、アビゲイル的には予知能力的な感じだと思っている。


「それを売った金がある。かなりの額になったからな。王太子の借金くらいなら余裕だろう」


「……でも、そんな大金、本当にいいの?」


 グレイアムが儲けた金であることに代わりはない。

 ならばやはり彼が使うべきなのではと伝えたが、グレイアムは首を振る。


「必要ない。公爵家として必要な資金は十分ある。これはアビゲイルのために使おうと儲けた金だ。君が好きに使ってくれて構わない」


 そうは言われても、やはり渋ってしまう。

 ここまでおんぶに抱っこで、グレイアムには世話になってばかりだ。

 なんとか彼のためになることがあればいいのだが……。


「とにかく次は王太子の借金を肩代わりして、だな。詐欺師たちも対処しないと、あれこれ噂話を立てられたら厄介だ」


 ヒューバートには国王になってもらわなくては。

 彼がその地位に立ってくれた方が、なにかと都合がいいからだ。

 ならその障害となり得る詐欺師たちには退場してもらったほうがいい。

 そう口にするグレイアムに、アビゲイルはしばし考えたのち、いいえと声を発した。


「彼らは生かしておいてほしい」


「……なぜ? 殺してしまったほうが楽だろう?」


 確かにそのほうが手間はかからないが、都合がいいのは生かしたほうだ。

 アビゲイルの瞳が赤く煌めく。


「都合のいい存在が欲しいの。いざという時に手放せる。……公爵家の人たちに危ない目に遭って欲しくないもの」


「……なるほど」


 今後もこうやって探りを入れるなら、そういうことを専門にさせる存在が必要だ。

 公爵家の人間では下手をしたら足がついてしまう。

 いざとなれば切り捨てられる、そちら側の存在はなによりも都合がいいだろう。

 アビゲイルの言葉に頷いたグレイアムは、ちらりとエイベルへと視線を向けた。


「居場所はわかってる。ヒューバートが借金を返し終えた後、捕まえよう。――もちろん、最後まで利用した後で」


「……ありがとう。グレイアム」


 あとはヒューバートを堕とすだけだと、アビゲイルは小さく口端をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ