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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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次の手

 公爵家にヒューバートがやってきた。

 彼は一応お忍びという体らしく、王室の馬車は使っていない。

 そこらへんは頭が回るのかと、グレイアムは少し驚いていた。

 そんなわけでやってきたヒューバートを迎え入れた公爵家は、彼を応接室へと案内した。


「…………アビゲイル、なんだその格好は」


 応接室へと通されソファーに座ったヒューバートの第一声がそれだった。

 怪訝そうな顔をしてくるヒューバートに、アビゲイルともまた似たような顔で己の姿を確認する。

 アビゲイルは今、白と紫を基調とした美しいドレスを身に纏っていた。

 基本は白だがグラデーションのようになっており、下にいくにつれて紫が濃くなる。

 キラキラと光る宝石がまるで星のようで、このドレスを見たアビゲイルはたいそう喜んだ。

 さらにこれを用意したのがグレイアムだというのだから、このドレスはアビゲイルのお気に入りになった。

 ララとリリのおかげで美しく輝く白髪にも、紫色の宝石が輝く髪飾りがついており、一応王太子という身分であるヒューバートの前に出てもなんら恥じることのない装いだ。

 だというのになにが不満なのか、ヒューバートは軽く舌打ちをした。


「ずいぶん似合わないかっこうだな。公爵家にいるからって調子乗ってるんじゃないか? お前みたいな赤目は、ボロがお似合いだろ」


 場の空気が五度は落ちた気がした。

 見守っている使用人たちはなにも聞いていないと言うような顔をしつつも、ただ静かに冷めた視線をヒューバートへ向けている。

 そしてそれはグレイアムもだった。

 今にも射殺さんばかりの強い視線をヒューバートに向けているのに、当の本人は気づいていないようだ。

 いかにアビゲイルの服が似合わないかを熱弁する様子に早々に嫌気がさしたため、彼の言葉を遮った。


「お兄様。それで? お話があったのでは?」


「――……そうだったな」


 遮られたことにムカついたのだろう。

 唇を軽く尖らせながらも、彼の興味は別の方へ向いたようだ。


「侯爵家の件だ。……どうやった?」


「どうもなにも、ご存知なのでは?」


 侯爵家になにが起こったのかは、もう知っているはずだ。

 ヒューバートが探りを入れたと、グレイアムから聞いている。


「知ってはいる。侯爵家の悪事を暴いたんだろう? だがどうやって、どこからその情報を仕入れたんだ?」


 なるほどヒューバートは情報源を知りたいらしい。

 きっとヒューバートも侯爵家をどうにかできないかと、いろいろ探りを入れていたはずだ。

 だがそれがうまくいかなかった。

 だというのにアビゲイルが上手くことを起こせたというのが、納得いかないようだ。


「グレイアムの仕業だろう? 公爵家はいつからそんな便利屋みたいなことをしてるんだ?」


 アビゲイルはすーっと瞼が落ちるのを感じる。

 あれこれ言ってくることは予期していたし、自分のことなら我慢できた。

 だがよりにもよって公爵家のことを馬鹿にするなんて。


「使用人も何処の馬の骨ともわからない奴らばかりなんだろう? そんなやつらと暮らすだなんて、グレイアム。お前も落ち――」


「――お兄様」


 アビゲイルは優しい声色でヒューバートに語りかける。

 ちゃんと聞いてもらえるように声色に注意しつつも、アビゲイルはにこりと笑う。


「それよりもお兄様? 婚約破棄は無事できたのでしょうか?」


「――あ、あぁ。もちろんだ! 侯爵家があんな状態で、王妃になんてなれるわけがないだろう。父上が亡くなったばかりとはいえ、そこはちゃんとせねばな!」


 まるで自分に言い聞かせるようにしているヒューバートに、アビゲイルは内心呆れてしまう。

 あれだけ自分勝手に侯爵家との縁を切りたがっていたのに、それが実現したら不安や焦りをみせるなんて。

 結局この兄は非情にはなりきれないらしい。

 これが国王なんてこの国は大丈夫なのだろうかとは思うが、まあ心無い王よりは多少マシかと納得した。


「ではお兄様の願いは叶ったのですね?」


「……そうだな」


 叶ったのに不服そうなのは、アビゲイルのおかげだと思いたくないからだろう。

 だがそれではダメなのだ。

 ここで攻めの手を緩めてはならない。

 彼には思い知ってもらわないといけないのだ。

 全てがアビゲイルのおかげだと。


「よかったです。お兄様の願いが一つ、叶ったようで」


「…………まあ、そうだな」


「なら、次はタチの悪いご友人がたですね……?」


 しんっと、部屋の中が静まり返る。

 ヒューバートは息を呑みまるで石像のように固まった。

 それを見てアビゲイルは確信する。

 グレイアムの作戦に間違いがないということを。

 隣にいるグレイアムも同じことを思ったのだろう。

 ヒューバートにバレぬよう小さく鼻を鳴らした。


「……どういう意味だ?」


「お兄様。賭博に手を出されてますね? 借金もかなりあるようで……。お母様にバレたらどうなりますかね?」


 がだっと大きな音を立ててヒューバートが立ち上がる。

 信じられないと言いたげな視線を向けられて、アビゲイルはただ静かに笑い返すだけだ。

 本番はここからなのだから。


「――よろしければお兄様? そちらも解決して差し上げますしょうか?」

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