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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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手紙

「――ごめんなさい、私」


「いや。アビゲイルが俺の家族まで気にしてくれてとても嬉しい。ありがとう」


 にこにこと微笑むグレイアムは本心から言ってくれているのだろう。

 だが彼はアビゲイルのために動いてくれているのだ。

 そんな人の話を止めてしまうなんて。

 もっと周りを見なくてはと、自らの変えなくてはならないところを頭の中に書き記していく。


「それで、侯爵家のことだ」


「ええ。どうなったの……?」


「大丈夫。成功した」


 成功。

 とはつまりだ。

 侯爵家は罪を白日のもとに晒されたということだ。


「掘り出したらキリがない。無数の罪を証拠と共に提出した。これであとは俺たちが寝てるだけで、侯爵家は綺麗さっぱり消え去る」


「それじゃあ……」


「そのうち王太子から連絡がくるはずだ。アビゲイルにはそこを頑張ってもらいたい」


「もちろんよ!」


 むしろそれだけしかできないなんて。

 お膳立てしてもらって、アビゲイルはやっと動くことができるのだ。

 こんなに情けないことが他にあるだろうか?

 これはアビゲイルの復讐であって、グレイアム自身にはなに一つプラスなことなんてないのに。

 険しい顔をするアビゲイルに気付いたのか、グレイアムが優しく笑う。


「ヒューバートと話をつけることができるのはアビゲイルだけだ。それでもじゅうぶんすごいことなんだぞ?」


「……ありがとう。私、絶対に成功させるわ。そしていつか必ず、グレイアムにお礼をする」


 グレイアムはなにを望むだろうか?

 彼の望みを、叶えてあげたい。

 それだけのことを彼はアビゲイルに与えてくれているのだから。

 安心して眠れる場所。

 美味しいと思える食事。

 アビゲイルに怯えず微笑みを返してくれる人々。

 そしてなにより、復讐を目指せるこの環境。

 グレイアムは与えてくれるばかりだ。


「……グレイアムはなにを望むの? 私にできることなら」


 彼のためになにができるだろうか?


「――俺の望み?」


「ええ。私に叶えられることなら」


 グレイアムは考えるように顎に手を当てた。

 しばしの沈黙。

 視線を下げたグレイアムは、ふと思いついたようにその黒曜石のような瞳をアビゲイルに向けた。


「俺はアビゲイルに愛されたい」


「――え?」


「アビゲイルを愛して、アビゲイルに愛される。それが俺の一番の願いで、幸せの形だ」


 アビゲイルは口をあんぐりとさせた。

 これは無欲と言えるのではないだろうか?

 いや、ある意味強欲なのか?

 誰かの愛が欲しいと思ったことはあれど、それだけを望むなんてアビゲイルには言えない。


「アビゲイルが隣で笑ってくれているだけで幸せだ」


「…………ぜ、善処します」


 もちろんアビゲイルの中でグレイアムは特別だ。

 とはいえ愛しているかと問われれば、答える前に口を閉ざしてしまう。

 けれど大切な存在ではあるので、そのうちこの感情が大きくなっていく可能性はある。

 自分が恋愛……。

 恋に恋する姿が自分では想像できなかった。


「まあ気長に待つさ。アビゲイルの気持ちが一番大切だからな」


 グレイアムがそう口にした時だ。

 家令のエイベルが声をかけ、部屋の中に入ってきた。

 彼の手には一枚の手紙があり、それを見たグレイアムの口元がニヤリと歪む。


「アビゲイル。これは君宛だろう」


「……私?」


 アビゲイルに手紙が届いたことなんて今まで一度だってない。

 だから手紙系は無関係だろうと思っていたのだが、まさか自分宛がくるなんて。

 受け取った封筒には、この国の紋章が蝋印されていた。


「…………」


 その紋章を見た瞬間、アビゲイルはグレイアムへと視線を向けた。

 彼はその視線を受け、優しく微笑みながら頷く。

 もしだ。

 もしこれがアビゲイルの想像通りなら。

 エイベルからナイフを受け取り封筒を裂き、中の手紙を取り出した。

 手紙には見慣れぬ文字であれこれと書かれていた。

 その大半が不要なものであり、アビゲイルは斜め読みして必要な情報だけを手に入れていく。


「……お兄様から」


「だろうな。それで?」


「……会いたいって」


 侯爵家の話を聞いたのだろう。

 ヒューバートはあれこれと己の持論を書きつつも、とにかくアビゲイルに会いたいと言っていた。

 そして可能なら王宮ではなく、公爵家でと。

 それをグレイアムに伝えれば、彼は小馬鹿にしたように笑う。


「王宮ではどこに誰がいるかわからないからな。こんな話聞かれては、王になろうとしている人間にとってはマイナスだろう」


 グレイアムの話に頷くと、アビゲイルは今一度手紙へと目を向ける。

 手紙にはどうやったのか、なにをしたのか、これらは全てグレイアムの指示なのかとあれこれ聞いてきた。

 まだまだ堕としきれてはいないということだろう。

 だがいい一歩にはなった。

 ヒューバート自ら会いにこようとするなんて。


「ヒューバートを公爵家に招待しよう」


「……うん」


 この手紙の様子ではすぐにでもやってくるだろう。

 ひとまずヒューバートと話をしなくてはと思っていると、グレイアムがふっ、と鼻を鳴らす。


「きっとヒューバートは他の問題も解決して欲しいと言ってくるだろう」


「他の問題……?」


 そういえばヒューバートは他にもいろいろやらかしていると言っていた。

 グレイアムは頷くと、愉快そうに口を開く。


「――次の作戦だ」

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