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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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兄の主張

 アビゲイルがまっすぐにダイアナを見れば、彼女は慌てて腕で顔を隠す。

 だいたいの人がそうだ。

 アビゲイルから見つめられることを嫌がったり怖がったりする。


「その気色の悪い目で見ないで!」


「なら謝罪を。二人はグレイアムが連れてきた使用人なんでしょう」?」


「――お兄様の名前を呼ばないで!」


 キッと力強く睨み返してきたダイアナに、アビゲイルも負ける気はない。

 同じように瞳に力を込め、ダイアナと真っ向から対立する。


「グレイアムは私の婚約者よ。名を呼んでなにが悪いというの?」


「婚約なんて認めない! お兄様はここで私とずっと暮らすのよ!」


 ダイアナには婚約者がいるはずで、さらには結婚も決まっているという。

 それなのになぜ彼女はこの家にこだわるのだろうか?


「……あなたは結婚するんでしょう?」


「あんなやつと結婚なんてしないわ! ここでお兄様と一生暮らすの!」


 まるで聞き分けの悪い子どものようだ。

 今にも地団駄を踏みそうな勢いのダイアナに驚いていると、不意に足音が聞こえた。

 驚いてそちらを向けば、帰ってきたのだろうグレイアムがいた。

 彼はアビゲイルの元までやってくると、彼女を庇うように前に立つ。


「ダイアナ、お前の結婚は子どものころから決まっていただろ」


「私は一度も認めてないわ!」


「お前の意見なんて聞いてない」


「お兄様!」


 叫ぶようなダイアナの声を無視して、グレイアムはアビゲイルの腰を掴むと屋敷へと向かう。

 すぐにアビゲイルの部屋へと入ると、すでに紅茶やお菓子が用意されていた。

 グレイアムと向かい合うようにソファーへと腰を下ろして、アビゲイルは紅茶に手を伸ばす。

 乾いた喉を潤してくれる紅茶に、ほっと息をつく。


「今後ダイアナに話しかけられても無視していい。ララとリリにも伝えておく」


「もちろん、ララとリリに言ったことは許せないわ。……でも」


「どうした?」


 アビゲイルと同じティーカップを持っているのに、手が大きいからか小さく見えてしまう。

 それでも所作は上品に、優雅に紅茶を飲む姿は様になる。

 グレイアムのこんな姿に憧れて、ダイアナは嫁に行きたくないと駄々を捏ねているのだろうか?

 それだけではない気がするなと、アビゲイルは窓の外を見た。


「……ダイアナとグレイアムは兄妹なのよね?」


「腹違いのな。……アビゲイルの聞きたいことはわかる。兄に対しての執着心じゃないと言いたいんだろう?」


 少し違うがまあ似たようなものかと頷いた。

 ダイアナのグレイアムに対する態度は、少なくともアビゲイルが知る兄妹とは異なる。

 ダイアナの姿はまるで恋人を取られまいとするようで、なんだか不思議だったのだ。


「ダイアナの母親は地方に住む男爵家の令嬢だ。父が仕事で立ち寄った際の一夜の過ちで産まれた」


 母親は体が弱く、産後の肥立が悪く亡くなった。

 もちろん男爵家は激怒。

 子どもを捨てるという彼らに、父親は仕方なくダイアナを引き取ったらしい。

 まあ正妻からしてみれば気分のいい話ではないだろう。

 実際ダイアナは愛されてはいなかったようだ。


「哀れに思ったグレイアムはダイアナを妹として接した。それが彼女にとっては唯一感じられた愛情だったんだろう」


 変なの、とアビゲイルは首を傾げる。

 己のことなのにまるで他人事のようにいう。

 一瞬不思議に思ったアビゲイルだったが、そういえば彼が体に乗り移っただの言っていたことを思い出す。


「そういえば、あなたはその……。いつからこっちに?」


「こっち? ……ああ、俺がこの体に乗り移ったのは五年ほど前だな」


 よく今ので伝わったなと、己の語彙力のなさを恥じつつも五年前かと考える。

 確かちょうどそのくらいに、グレイアムが公爵家を継いだはずだ。

 詳しくは知らないが、そんなことを城の使用人たちが話していた気がする。


「小さな時からダイアナには婚約者がいて、すぐにでも結婚するはずだったんだ。だが両親が亡くなり、俺が後を継いで……バタバタしてるうちに伸びてしまったんだ」


「なるほど……」


 貴族の結婚ともなれば家同士の問題だ。

 公爵家のトップが亡くなって、その後がどうなるかわからないからこそ向こうも二の足を踏んだのだろう。


「ダイアナはそれを婚約がなくなったんだと思い込んで、そのあとは結婚はしない、家にいるんだの一点張りだ」


 彼の言うことを信じるのなら、元のグレイアムとダイアナは仲がよかったのだろう。

 だが今のグレイアムはダイアナを避けているように見える。

 唯一家族の中で自分を愛してくれたグレイアムが、突然突き放すようなことをしてきたら、テンパってしまうのも頷けた。

 もしグレイアムが今、アビゲイルに対して突き放すような態度をとったら……。

 きっとすごく狼狽えてしまうだろう。

 そんな想像をして、もしダイアナも同じだったら……と考えてしまう。


「……ねぇ、グレイアム。ダイアナなんだけれど、ちゃんと話をした? その……彼女の意見とか聞いたりした?」


「……意見もなにも、口を開けば結婚しないの一点張りだからな」


 なるほど確かにとアビゲイルは口を閉じる。

 グレイアムからしてみれば話の通じない相手、という感覚なのだろう。

 これはまず先にダイアナの方をどうにかしないと、と考えていると、グレイアムがアビゲイルの顔を窺いつつ口を開いた。


「アビゲイル。こちらの話をしてもいいだろうか?」

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