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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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不安

 ヒューバートとの話し合いを終えたアビゲイルが教会に向かうと、その入り口でグレイアムが待っていた。

 彼の隣にはアリシアがおり、あれこれと彼に話しかけている。

 グレイアムは聞いているのかいないのかわからないような表情をしており、そのあまりにも興味のなさそうな雰囲気に、思わず安心してしまった。


「…………」


 アビゲイルはグレイアムのことをどう思っているのだろうか?

 と、まるで他人事のように考える。

 お互いの存在を知ってはいたものの、話をしたのはこの間が初めてだ。

 いくらアビゲイルにはじめて愛をくれた人とはいえ、そんなに簡単な話なのだろうかと己の胸の内を探る。


「……うん」


 グレイアムをどう思っているかはまだわからない。

 彼に対する感情はあれど、それは名前をつけられるほど大きくなってはいなかった。

 ただ芽吹いただけのそれは、まだまだ小さな芽である。


「――グレイアム」


 とはいえ、だ。

 楽しげに話すアリシアとその隣にいるグレイアムを見た時、確かにアビゲイルの心の中には靄が生まれた。

 ならその靄を晴らすために行動しなくては。

 アビゲイルが彼を呼べば、先ほどまでの表情が一変し、嬉しそうな優しい笑顔で迎えてくれた。


「アビゲイル!」


「お兄様とのお話は終わったわ。……帰りましょう?」


「ああ、もちろん」


 帰ってきたアビゲイルの腰を抱き踵を返そうとするが、そんなアビゲイルの背後からトボトボと帰ってきていたヒューバートと遭遇してしまう。

 彼はグレイアムの腕を見てうげっと顔を歪ませた。


「グレイアム。まだそんな遊びやってるのか? おい、アリシア! グレイアムに謝ってさっさと仲直りしろ」


「お兄様! 私たちは喧嘩なんてしてないわ。そうよね? グレイアム」


 グレイアムの腕に自分の腕を絡めたアリシアは、少しだけ力を込めて引っ張った。

 しかし体格のいいグレイアムはそれにいっさい動じることはなく、アリシアの腕から逃れるため腕を上げる。


「喧嘩などしていないと言っているだろう」


「…………じゃあなんだ? 本当にアビゲイルのことを好きだとでも言うのか?」


 冗談だろうと鼻で笑うヒューバートに、アビゲイルの瞼がぴくりと動く。


「冗談よせよ。今日のこともあって、お前うわさされるぞ? 公爵家のご当主様は頭がおかしくなったんだ、って!」


「…………グレイアム? どういう、こと?」


 呆然としているアリシアは、どうやら初耳だったらしい。

 グレイアムとアビゲイルの関係性を。

 いや、そもそもアビゲイルがいなくなったことすら気づいていなかったのかもしれない。

 今日この時も、アビゲイルはあの部屋にいると思われていたのだ。


「俺はアビゲイルと結婚する。頭は正常に働いてる」


「ほらやっぱり! なあ、医者に見てもらったほうがいい。それともアビゲイルに呪いでもかけられたのか?」


「――お兄様……?」


 流石にもう我慢できないと、少しだけ音を下げて囁いた。

 アビゲイルの逆鱗に触れたことに気づいたのか、ヒューバートは気まずげに視線をずらす。

 これ以上言えば願いを叶えてもらえないと気がついたのだろう。

 あれだけ鼻高々に口を滑らせていたヒューバートが黙り込むなんて……。

 これだけでもアビゲイルにとっては大きな違いだった。


「……どうして? グレイアムは私と…………」


 アビゲイルがヒューバートの変わりように喜んでいると、アリシアがぼそりとつぶやいた。


「グレイアム、嘘よね? お姉様と結婚なんて……!」


「事実だ。今は国王陛下のことがあるから、婚約者という形だが」


「……こん、やく? ……うそ。うそよ……わたしとだって……こんやくなんて、してくれなかったのに……」


 アリシアが呆然とつぶやく中、グレイアムは興味を失ったのか、アビゲイルの腰を抱き歩み出す。


「俺とアビゲイルの婚約の件進めておいてくれ」


「え? あー……うん」


 しぶしぶといった様子で頷くヒューバートの隣で、アリシアが顔に影を落としていた。

 本当にグレイアムのことが好きなのだろうか?

 なんだか気になってしまい振り返ったアビゲイルの瞳には、光のない瞳でこちらを見てくるアリシアが映った。


「――」


 恨みではない。

 憎しみでもない。

 なんともいえない感情を秘めたその瞳は、見たことがないからこそとても恐ろしいものに思えてしまった。

 アビゲイルは瞬時に顔を背けると、思わず隣にいるグレイアムの服を掴んだ。


「アビゲイル? どうかしたか?」


「……ううん。なんでもないわ」


「疲れたんだろう。屋敷に戻ろう」


 そう、きっと疲れただけだ。

 人の目にさらされて、負の感情をぶつけられたから、敏感になっていただけだ。

 わけもわからず不安に苛まれている自分にそう言い聞かせて、アビゲイルは歩みを進める。


「……ええ、帰りましょう」


 早く、早く帰りたい。

 あの居心地のいい屋敷に。

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