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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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世論が変わる

 チャリオルトを出てエレンディーレへ向かう船の中で、アビゲイルはとある新聞を見て目をまん丸にさせた。


「……お兄様? これは一体……?」


「それか。実はな……」


 アビゲイルが手に持つ新聞の一面には【愛に生きた王女アビゲイル! 愛を貫きついに、愛する公爵の元へ帰還か!?】と書かれている。


「……愛多すぎない?」


「アリシアがな。幼なじみのアスターが新聞記者に友人がいるらしく、アビゲイルのことを書いてもらったんだ」


「…………なぜ?」


 アスターとは確か、アリシアの攻略対象の一人だ。

 誰とも一定数以上の好感度を得られなかった場合や、逆に不特定多数の好感度を上げてしまった場合、彼とのルートに入るらしい。

 アリシアを愛し抜く一途な男らしく、彼がアリシアのために動いたのはわかるが、それにしても……。


「アリシアの案にグレイアムが乗ったんだ。僕もこれを知ったのはアビゲイルを迎えにくる直前だ」


「グレイアムが? ……なおのことわからないのだけれど……?」


「グレイアムはアビゲイルを連れ戻す気でいたらしいな」


 知っていたのかとアビゲイルは頷いた。

 使用人であるララがやってきたことまでは流石に知らないだろうけれど、ヒューバートは腕を組みながら難しい顔をする。


「その際アビゲイルがただ帰ってきたのでは、お前の名前に傷がついてしまう。……国を捨てた王女と言われてもおかしくないからな」


 確かにそうだ。

 イスカリの方から離婚を申し出てくれなければ、アビゲイルはエレンディーレを捨てた女と言われただろう。


「だから大衆の考えかたを変えたらしい。アビゲイルはグレイアムを愛していたが、国のために向かった。そんな彼女は敵国で一人、愛するものたちのために涙する日々……。女が好きそうな話だ」


「……まるで物語ね」


「それが狙いだな。先入観を持たせることで、人々はアビゲイルに同情する」


 同情といえばあまりいい気はしないが、確かに今の状況ではそちらのほうが都合いいのかもしれない。


「グレイアムを愛するあまり、チャリオルト国王を拒み続けているとも。――お前とグレイアムの結婚を祝福するものは多いだろうな」


「…………」


 結婚。

 アビゲイルはどんな形であれ、一度はイスカリと結婚していたのだ。

 彼を夫としていたのに、帰ってグレイアムと結婚なんて、そんな都合のいいことがあるだろうか?

 それを、グレイアムは許してくれるのだろうか?


「チャリオルトの手前、すぐというのはどうかと思ったが、グレイアムがいうことを聞かなくてな。もういろいろ準備を進めているらしい」


「……グレイアムが?」


「そうだ。とはいえ結婚式の主役はお前だ。……帰ったら忙しくなるな」


 結婚式。

 チャリオルトへ行ったアビゲイルは、イスカリと二人で簡易的な式を挙げた。

 いや、式とも言えないようなものだ。

 ただ誓いの酒を交わしただけで、参列者もいなかった。

 アビゲイルの中では、あれが結婚式なのだと思っていたが違うのだろうか?


「結婚式ってなにをするの……?」


「――そうか。お前は知らなかったな……」


 なにやら悲しそうな顔をしたヒューバートは、すぐに表情を明るくするとあれやこれやと話し始めた。


「教会で愛を誓い合うんだが、そこの装飾やドレスなんかも決められる! 安心しろ、僕が最高級のものを用意してやろう! もちろんデザインなどは任せるが、金は出す!」


「ドレスまで決められるの?」


「そうだ。アビゲイルの好きに決めていい。そのあとはパーティーだな。食事や飲み物を嗜みながら、親しいものたちと祝い合うんだ。これも僕に任せておけ。最高に美味しい食事と酒を用意して、お前の門出を祝ってやる!」


 そんなことまでするのかと、アビゲイルは感心する。

 そういえば読んだ本でそんなシーンがあったなと思い出しつつ、ドレスか……と考えた。


「どんなドレスが主流なの?」


「形はさまざまだが、基本は純白だな。あとはベールをかぶる。そこらへんはアリシアが詳しいから聞いてみるといい」


「そうなの……」


 なんだか少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。

 実はグレイアムに会える喜びと同じくらい、不安もある。

 グレイアムからしてみれば、アビゲイルは彼が寝ている間に他の男に嫁いだ女だ。

 どう思われているのか想像するだけで、恐ろしかった。


「……結婚式、できるのなら楽しみだわ」


「できるに決まっている。安心しろ! この僕が全て滞りなく進めてやる!」


「ありがとう、お兄様」


 むふんっと鼻を鳴らしたヒューバートが、あれやこれやと案を話してくれる中、アビゲイルは改めて新聞を見る。

 アビゲイルのことがこんなふうに書かれているなんて意外だ。

 そしてヒューバートのいうことが真実なら、国民はみなアビゲイルに同情している。


 ――禁忌の赤目と嫌っていたはずなのに……。


 昔ならそんな手のひら返しを鼻で笑ったかもしれない。

 けれど今ならその気持ちもわからなくないのだ。

 なにかの拍子に捉えかたが変わるというのは、ありえないことではない。

 そしてそれは、悪いことじゃないのだ。

 前向きなものもある。

 それを知った今なら、エレンディーレでの暮らしも少しはわかるかもしれない。


「国王陛下、王女殿下。もう間もなくエレンディーレです。下船のご準備を」

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