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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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ランカの野望

 アビゲイルはイスカリとともに牢獄にきていた。

 チャリオルトの王宮にある牢獄は、他の建物と繋がってはいない。

 湖の右端にあるそこに行くためには、船に乗るしかないのだ。

 そんなわけで小さな船に乗ってやっていたアビゲイルは、じめじめとした石レンガの塔を降っていく。

 イスカリはランカを犯人と確定したらしく、彼女を地下へと投獄したようだ。

 そんなランカに会いにいくために階段を下がっていくアビゲイルの表情は固い。

 心の中ではまさかランカが、という言葉が繰り返されていた。

 このチャリオルトで信頼を寄せていた人の一人だったため、正直ショックが強い。

 とはいえ話を聞かないと真相はわからないため、アビゲイルは顔に力を入れて地下牢にいるランカと対峙した。


「話してもらおうか?」


「………………」


「指を一本一本切り落とそうか? いや、まずは爪か。どちらにしろ痛みで話すようなら、早々に口を開いたほうがいいぞ」


「――ひっ!…………わ、わかりました」


 ランカは元々イスカリに対して恐怖心を抱いていた。

 そんな人に目の前で凄まれて、ランカは小さく悲鳴を上げる。


「……わ、私が話したらっ」


「お前の家族は国外追放で済ましてやろう。話さなければ一族皆殺しだ」


「――…………わ、わかりましたっ。すべてお話ししますから……どうか家族だけはっ!」


「なら話せ。全て、洗いざらい」


 国王に毒を盛ったのだ。

 彼女はそれ相応の罰を受けることになるだろう。

 本来なら一族みな命を奪われてもおかしくはないが、ランカが口を開けば家族は救われる。

 しばしの沈黙ののち、仄暗く唯一の灯りである蝋燭がゆらゆらと揺らぐ中、ランカはゆっくりと口を開いた。


「……私は元々、ウェンディ様に仕えていました。きっと国王陛下より寵愛を受け、国母となられると信じて……。けれどあの方は傲慢で……どれだけ酷い目に合おうとも、それだけを信じて我慢していました」


 ランカは震える声で続ける。


「けれどいつまで経ってもご懐妊されることはなく……。そんな中、新たな妃がこられると聞いて……私は賭けることにしました」


 アビゲイルは静かにその話を聞きながら、ランカのことを思い出す。

 確かに彼女は過去、他の妃に仕えていた。

 まさかそれがウェンディだったなんて……。


「新しい妃は自分から動くこともせず、寵愛も望めない。……絶望しかけたその時、陛下はアビゲイル様の元へと訪れるようになった。私は自分の選択が正しかったことを知り、次こそは国母となられるかたに仕えられるのだと本気で思いました」


 ランカは束の間黙ると、やがて感情のない声で語り始めた。


「……けれど結局、アビゲイル様は妃としての責務を果たすことはなかった。ずっとずっと……ずっと! 願いはいつまでたっても叶わなくて……っ。そんな時、ウェンディさまから計画を持ちかけられました」


『あの女の元にいても、陛下のお子を成すことは不可能よ。そうでしょう?』


『そ、そのようなことは……っ。アビゲイル様はご寵愛を受けて……』


『ならなんであなたはそんなに、不安そうな顔をしているのかしら?』


 ウェンディは知っていたのだ。

 アビゲイルとイスカリが、そういう関係ではないことを――。


『最後にチャンスをあげる。――これを陛下の食事に混ぜるの』


『これは……?』


『毒よ。――ああ、安心なさい。陛下はそれくらいの毒では死なないから。……いい? これを陛下が口にすれば、その責任は全てアビゲイルが背負うことになる』


 ウェンディは朗らかに微笑むと、ランカの耳元で囁いた。


『そうしたらあなたは戻ってくればいい。今度こそ国母となる……私の侍女頭として』


「侍女にとっての夢は二つです。陛下のお手つきとなり妃となるか、未来ある方に仕えるか……。私は後者を選びました。それが私の夢です。――その夢を叶えてなにが悪いんですか!?」


 ランカは叫ぶ。

 まるで今までの鬱憤を全て晴らすかのように。


「せっかく可能性があるのに……自ら手放すバカな女が嫌いっ! 努力もせずにその地位にいる女もっ、なにもできないのに偉そうにしてくる女もっ、全部全部全部! 大っ嫌いっ!」


「…………俺からしてみれば、お前も自ら手放したように思えるがな。――沙汰は追って伝える。誰でもいい。――ウェンディもここに入れろ」


「かしこまりました」


 兵士が急ぎ階段を駆け上がる。

 彼らはそのままウェンディの元へと向かうのだろう。

 まさかこんなふうに彼女の悪行が表沙汰になるとは思わなかった。

 これで彼女の毒牙にかかったものたちも浮かばれるといいのだがと思った時だ。

 ――ランカと目があった。

 彼女はアビゲイルを強く睨みつけると、吐き捨てるように言う。


「この化け物がっ。気味の悪い女っ! 一体なにをしたというの……? 陛下のことも妖の術でたぶらかしたんでしょう!? お前みたいな化け物さえいなければ――っ!」


 それ以上は言わなかった。

 いや、言えなかったのだ。

 アビゲイルの前に立ち塞がったイスカリが、ランカの首目掛けて剣を振り下ろしたのだ。

 ビシャっとまるで水が飛び散るような音がして、あたりに鉄のような匂いが充満する。

 その瞬間はイスカリの背中に守られていたから見ることはなかったが、なにが起きたのかはわかってしまった。

 アビゲイルは震える手でイスカリの服を掴むと、軽く引っ張る。


「お願い。……もう外に出ましょう」


「――わかった。始末しておけ」


「はっ!」


 イスカリはアビゲイルの肩を掴むと、ランカの遺体が見えないよう誘導してくれた。

 小刻みに震える手を握ってくれて、そのあたたかさに少しだけ落ち着きを取り戻していく。


「…………ありがとう、とだけ伝えておくわ」


「俺の妃をバカにしたんだ。――だからやった。それだけのことだ」


 結局王宮にある自分の住まいに戻るまで、イスカリの手が離れることはなかった。

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