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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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お食事にはご注意を

 メリアとそんな話をしたあと、アビゲイルは身の回りに目を向けるようになった。

 今まではなあなあにしていたが、自分の命がかかっているとあっては、そう適当なこともできないだろう。

 アビゲイルの身の回りを世話するものは全部で十五人。

 ここに外から荷物を運んできたり、新たに料理を作ってくれるものなどを合わせれば軽く三十は超えるだろう。

 この全ての人間の過去を洗い、金銭的に困っていないか。

 さらにはほかの妃と接点がないかを洗った。

 結果的には全員特に異常はなかったが、とはいえ安心はできない。

 いつどこで誰が牙を剥いてくるか……。

 不安は尽きなかった。


「――料理を作らせているそうだが……ここの食事に不満か?」


 そう聞いてきたのは、むしろ自分が不満そうな顔をしているイスカリである。

 彼は運ばれてくる料理を眺めながら、アビゲイルに鋭い視線を向けてきた。


「そうじゃないわ。…………あなたがあの日、私を看病したことを知る人はいない」


「だからなんだ? そんなことのなにが関係ある?」


「私が寵愛を受けたと思う妃がいるってことよ」


「――ウェンディか」


 アビゲイルの言いたいことがわかったらしく、イスカリは口をつぐんだ。


「ただ少し警戒してるだけよ。別になにかされたわけじゃ……」


「――いや、お前の行動は正しい。ここはそういう場所だからな」


 まさか納得されるとは思わなかった。

 イスカリは提供された食事を眺めつつも、アビゲイルに忠告してくる。


「ウェンディは過去、侍女を毒殺している。もちろん公には出ていないが……一度ではないからな」


「…………そんな」


 アビゲイルは思わず黙り込んでしまう。

 まさかそんな前科があったなんて驚きだ。


「侍女が俺に色目を使ったとかなんとか……。まあそれ自体は事実だったがな」


「……事実だったの?」


「ここの女たちは基本的に王の目につくことを目標にしてる。誰も彼もが俺に擦り寄ってくるものばかりだ」


 まあ実際そういう場面はなんどか見ているから知っているが、思ったよりも大変そうだなとイスカリに哀れみの目を向けてしまう。


「……大変ね」


「そうだな。面倒だ」


 やっとテーブルに食事が全て揃い、食事を進めていく。

 こうやってイスカリと向き合うことにもなれた。

 彼と話をすることにも。

 時間とは偉大だなと思う。

 慣れることなんて、ないと思っていたから。


「最近ほかの妃たちには会ってるの?」


「必要ない」


「必要ないって……」


 必要はあるだろう。

 これ以上アビゲイルに面倒ごとを押し付けないでほしい。

 彼がほかの妃にも気を払ってくれていれば、こんなことにはならないのに。


「…………そういえばメリアだけれど、元気になったわ」


「そうか」


「あなたのおかげよ。……たまには、会いに行ったらどう?」


「…………」


 あ、しまったとアビゲイルは気がついた。

 イスカリの眉間に盛大に皺が寄っている。

 余計なことをしてしまったのだと、一瞬で理解した。


「お前はなにがしたい?」


「……ごめんなさい。失言だったわ」


「――わかったならいい。二度とそんな余計なことを言うな」


 余計ではないと思うのだが、これ以上言ったところで逆効果だろう。

 アビゲイルに言われたからって、素直に従うような男ではない。

 むしろ逆のことをし出して、アビゲイルのそばに居座ってしまいそうだ。

 無駄口を叩くことなく黙って食事をしていると、部屋にカチャンっと金属音が響いた。


「――……どうしたの?」


 珍しくイスカリが銀食器を落としたのだ。

 地面に落ちた箸が、大きな音を立てた。

 それに驚いてイスカリに声をかけたが、彼は俯いたまま口を開かない。


「……ねえ、ちょっと……?」


 なにかが変だ。

 慌ててイスカリに近寄り、彼の肩に触れた時だ。

 その体がぐわりと揺らぐ。


「――ちょっ! ちょっと!?」


 倒れ込みそうになるイスカリを慌てて支える。

 一体なにが起きたと彼の顔を覗き込めば、彼の薄い唇は真っ青に染まっていた。


「――っ!」


 まさかと思いイスカリが落とした銀食器を見れば、口をつけたであろう場所が黒くくすんでいた。

 ということはつまり、イスカリは毒をとりこんでしまったということだ。

 アビゲイルはすぐに己の食べていた銀食器を見る。

 だがそちらは変色しておらず、アビゲイル自身も体に特に違和感を感じていない。

 ということはつまり、イスカリだけが狙われたということだ。

 なぜ……? と考えていると、突然大きな悲鳴がアビゲイルの耳に響いた。


「きゃぁぁあぁぁ! だ、誰か! 陛下が……っ!」


 悲鳴を上げたのは飲み物を持ってきたランカだ。

 彼女は倒れているイスカリを見て腰を抜かしている。


「ランカ! 急いで医者を呼んできて!」


 そう伝えたがランカは気が動転しているのか、聞こえていないようだ。

 座り込んだままのランカからすぐに視線をイスカリへと戻す。

 どんどんと息が弱くなるイスカリを見て、アビゲイルは強く唇を噛み締める。

 どうすればいい?

 アビゲイルになにができる?

 なにをするのが正解だ?


「…………――っ」


 悩んでいる時間はない。

 ここで選択をミスすれば、彼の命はないのだから。

 ならやることは一つだと、アビゲイルはイスカリの頰に触れる。


「死ぬんじゃないわよ――!」


 アビゲイルの手に光が灯る。

 母である新生の神の力。

 それを使い、彼の体を毒に侵されていない状態に新しく作り変えるのだ。

 イスカリの体が光に包まれていく。

 その神々しい輝きに、ランカが息をのんだその時だ。

 イスカリがゆっくりと目を覚ました――。

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