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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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運命とはうまくいかないものである

「複雑な心境ね……」


「はい……。とても……」


 イスカリがメリアの家族を殺したことは変わらない。

 もちろんそれが戦争だといえばそうなのだが、メリアの心中は計り知れないだろう。

 なのにまさかそのメリアがそうなるよりも前から、イスカリのことを好きだったなんて……。

 なんて運命なんだと、アビゲイルは頭を抱えそうになる。


「…………実は、戦争が始まる前から、イスカリ陛下はミュンヘンに逃げる道を示してくださっていたんです。チャリオルトの属国になれば、命だけは助けてやると」


「なるほどね。けれどそれを飲むのは難しいわよね……」


 エレンディーレもフェンツェルもそれを飲むことはできなかった。

 だから気持ちはわかると伝えれば、メリアは静かに首を振る。


「エレンディーレとは違います。……ミュンヘンでは絶対に勝てない戦争だったんです。だからせめて命だけは助かる方法をとろうと、父を諭していたんですが……」


 確かに、エレンディーレも単体ではあの話し合いすら設けることはできなかっただろう。

 戦争になったら確実に負けていた。

 ミュンヘンでも同じ状態だったのだろう。


「最後まで抵抗し……最後には負けてしまいました。……それでもイスカリ陛下は属国となれば命だけは助ける方法を見出してくださいました」


「……え? でも、確か……」


 イスカリは王族をメリアを残し全員処刑したはずだ。

 その時のことを思い出したのか、メリアの顔色が悪くなる。


「……はい。けれどあれは父たちが悪いんです」


「どういうこと?」


 青ざめた顔のまま、メリアはゆっくりと口を開く。


「降伏するふりをしてイスカリ陛下を王城に迎え入れ、剣を向けたのです」


「――…………それは…………」


「はい。激昂したイスカリ陛下は、その場で全ての王族を処刑しました。……自業自得なのだと、理解はしています。私自身殺されてもおかしくないことをしたと……。けれどイスカリ陛下は私を生かしたのです」


 なんということだ。

 ただ暴虐不尽に剣を振るったわけではなかったのか。

 イスカリのしたことは、ある意味で当然のことだった。

 降伏したフリをして内に引き入れ、剣を向け殺そうとする。

 それだけのことをしたのだから、その後の報復は妥当だと思われてもおかしくはない。

 むしろメリアを生かしたことで、ミュンヘンの王族の血筋を途絶えさせなかっただけましだと思われるだろう。


「ただ暴虐の限りを尽くしたのなら、イスカリ陛下を憎むこともできました。けれどその前提にはミュンヘンの落ち度があります。……いえ、落ち度などという言葉では表せないほどのことをしました」


「…………なるほどね。……あなたの気持ち、少しわかるわ」


 憎むだけならどれほど楽だろうか。

 もちろんイスカリのしたことを肯定することはできないけれど、それだけではないことを知ってしまったのだ。

 特にメリアは、どれほど悩んだことだろうか。

 今彼女の命があるのは、イスカリのおかげなのだから。


「……だから私は、ここでイスカリ陛下を支えて生きたと思っています。…………それが、生かされた私ができる唯一のことだから」


「……メリアは強いのね。私は…………」


「もちろん、アビゲイルが寵愛を得たとしても、私はそれでいいと思っています。……イスカリ陛下にとって幸せな選択をして欲しいので」


 本当にメリアは強い。

 愛した人が別の人を愛そうともいいと言っているのだ。

 少なくともアビゲイルには、そんなふうに思うことはできないだろう。


「けれどあれほど苛烈なかたです。……いつかそばから人がいなくなってしまうのではないかと、少し不安もあるんです」


 暴君であることに間違いはない。

 イスカリの側近に対する態度を見ていたからこそ、その可能性がゼロだとは思えなかった。


「だから最後まで……。私はおそばにいようと思っています」


「……素敵だわ。とても」


「ありがとうございます」


 照れくさそうに微笑むメリアは、弱々しい女性ではなかったのだ。

 もちろんたくさん悩んで泣いて……そしてやっと覚悟を決めたのだろう。

 ほんのりと色づいた頰の丸みに、アビゲイルはほっと息をついた。


「こんなに素敵な女性がいるのに……イスカリは気づかないのね」


「アビゲイルの方がずっと素敵です。……あなたはまるで宝石です。人々の視線を奪う、輝く宝石」


「……そんなことないわ」


 イスカリがアビゲイルに執着するのは、終焉の神の力のせいだ。

 もちろんそれをメリアに伝えることはできないが、けして愛だの恋だのではない。

 否定するアビゲイルに、メリアはどこか悲しそうに微笑む。


「アビゲイルは自分の魅力に気づいていないだけです。……私ですら、あなたに魅入られたんですから。イスカリ陛下なら、きっと…………」


 人の想いとはどうしてこれほど複雑なのだろうか?

 イスカリがメリアの想いに気づき、受け入れさえすればすべてうまくいくのに。

 そうならないのが運命というものなのだろうか?


「とにかく、そういうことなのでぜひ、これからも仲良くしていただければと思います。……その節は、本当にありがとうございました。アビゲイルのおかげで、今は平穏に暮らせています」


「……なにもしてないけれど。私も、味方がいてくれるのはとても嬉しいわ」


 そう言って握手を交わした二人は、お互いに優しく微笑みかけた。

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