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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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誰がために

「……ゆめ、じゃない?」


 目が覚めたアビゲイルは、ベッドの上から周りをきょろきょろと見回した。

 いつもの埃被った室内ではなく、落ち着いた色合いの手入れの行き届いた部屋だ。

 寝ているベッドもふかふかで、アビゲイルはいい香りのするシーツを何度も撫でる。


「……ゆめじゃ、ない」


 よかった。

 本当によかったと、アビゲイルは体から力を抜きベッドへと寝転んだ。

 長い髪がシーツを流れる。


「……私、あそこから出られたんだ」


 一生あの部屋で生きていくのだと思っていた。

 日の光があまり入らない、薄汚れた部屋。

 天井には蜘蛛の巣がはり、床には埃が積もる。

 一日の大半を呆然として過ごす日々は、もうここにはない。

 日の光差し込む明るい部屋に、ノックの音が響く。


「――はい!」


「――起きたか。おはよう、アビゲイル」


「お、おはよぅ……」


 慌ててボサボサの髪を撫で付けつつ、近づいてくるグレイアムに返事を返す。

 彼はゆっくりとベッドへと腰を下ろすと、アビゲイルのぴょんっと跳ねた髪に触れる。


「体の疲れはとれたか? まだつらいようなら寝てていいんだぞ?」


「大丈夫。むしろぐっすりすぎて……びっくりしたわ」


 体が疲れることがないからか、夜も眠れないことが多かった。

 一瞬落ちたと思えばすぐに目が覚めて、それから何時間も寝れないことがある。

 夜中に一度も目を覚まさないなんて、久しぶりの感覚だった。


「それならよかった。朝ごはんは食べられそうか? 軽めのものを用意させたが……」


「……食べる」


 正直あまりお腹は減っていない。

 昨日満腹まで食べたからだ。

 だが昨晩のご飯を思い出し、お腹の片隅が少しだけ空いた気がした。


「なら部屋に用意させるから、ゆっくり食べよう」


 立ち上がったグレイアムが部屋の外へと向かえば、どうやらそこでララとリリが待っていたらしい。

 彼女たちに一言二言伝えれば、すぐに食事が用意された。

 テーブルに料理が置かれれば、部屋の中にいい香りが広がっていく。


「……いい匂い」


「ご飯を食べながら、少し今後について話そうか」


 グレイアムの提案にこくりと頷いて、アビゲイルはベッドから出る。

 そういえばいつの間に部屋着に着替えていたのだろうか?

 不思議に思いつつもソファーに座り、テーブルに置かれた食事を見る。

 昨日とは入っているものが違うサラダに、ほかほかと温かそうなパン。

 野菜が細かく刻まれたスープが置かれており、美味しそうな見た目にアビゲイルの口元がむにむにと動く。


「美味しそう……!」


「好きなだけ食べるといい。量は少なめにさせたから」


 昨日のアビゲイルのせいだろう。

 残すのがもったいなさすぎて、寝ろ、いや食べる、の攻防を繰り広げた結果、元からの量が減ったらしい。

 それでもアビゲイルからすればお腹いっぱいになる量だ。

 心の中で感謝を伝えつつ、スプーンを手にとった。


「――美味しい!」


「おかわりもございますので、お気軽にお申し付けください」


 たぶんできないだろうけれど、心遣いがとても嬉しい。

 何度も頷いたアビゲイルは、頑張って食事に手を伸ばす。

 パンを味わっていると、同じように食事をしていたグレイアムが口を開く。


「アビゲイル。昨日の話だが……」


「昨日……?」


 どれの話だろうか?

 なんだか昨日はいろいろなことがありすぎて、脳の処理が追いついていない。

 明らかにわかっていない様子のアビゲイルに、グレイアムは優しく微笑む。


「復讐のことだ」


「――」


 そうだった。

 そんな話をしたなと、アビゲイルはフォークを置く。

 真剣な話になるだろうと身構えるが、グレイアムがそれを否定した。


「そんなに重たい話じゃない。食事をしながら聞いてくれ」


「……うん」


 まあ彼がそういうならと、改めてフォークを持ちサラダを食べる。

 今日のドレッシングはさっぱりとした果実の香りがする。

 美味しい美味しいと必死に口を動かすアビゲイルを確認してから、グレイアムは話を続けた。


「国王陛下の葬儀が行われる。――アビゲイル。君も出席すべきだ」


 ぴたり、とアビゲイルの手が止まる。

 ごくり、と大きな音を立てて野菜を飲み込めば、そこから体は動きを止めてしまう。

 溢れんばかりの大きな瞳でグレイアムを見つめれば、彼は静かに頷いた。


「君は王女として、人前に出るべきだ」


「……む、無理よ……。私は――っ」


 国王の葬式となれば王族貴族が集まる。

 そんな中に自分がいるなんて。

 想像するだけでアビゲイルは体を硬直させ、しかし視線だけはあちこちへと飛び回らせる。


「わ、たしは……っ」


 思い出すのはいつだって暗い記憶だ。

 母親の凍てついた瞳に射抜かれ、兄にバカにされ嘲笑われる。

 妹は母の背後からアビゲイルを恐ろしそうに見つめ、貴族たちからは指さされた。

 青ざめる小さな子どもの姿を、まるで他人事のように思い出す。


「……ぃ、かない。……私なんかが行っても、迷惑になるだけだもの」


 誰にも望まれないのに、わざわざいく必要なんてない。

 葬式の後、墓に花を添えることすら父は喜ばないだろう。

 だから行かないほうがいいのだ。

 フォークを握り締めた手が震える。

 整えられた爪が手のひらに食い込んだ時、優しい温もりが手を包み込む。


「他人なんて関係ない。これはアビゲイル、君のためだ」

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