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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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勝ち負け

「みなのもの、よく聞け。今回のフェンツェルとの同盟、無事すんだのはアビゲイルの尽力が大きい」


 どういうことだと周りがざわつく。

 アビゲイルとオルフェウスにいったいなんの関わりがあるのだと騒がしくなる中、当人のアビゲイルはずっとアリシアを見つめていた。

 もちろん、向こうからも見つめられている。

 いや、睨まれているといったほうが正しいかもしれない。

 お互いいろいろな思惑を秘めたまま、人前で見つめ合っている。


「アビゲイルとフェンツェル国王は以前より友好を築いており、彼女の手引きによりこの度の同盟を果たせた。――この功績は大きい」


 絶対に負ける戦争を、五分五分まで持ってこれた。

 さらにオルフェウスの手際次第では、そもそもその戦争を行わずに済むかもしれない。

 そこまで持ってくることができたのは、アビゲイルのおかげだとヒューバートはいう。

 だがもちろん、それにいい顔をするものばかりではない。


「アビゲイル王女が手を出さずとも、陛下の手腕でいかようにでもできましたでしょう」


「そうですとも。……余計なお世話、というやつですな」


 同意は大きな声で。

 批判は小さな声で。

 しかし周囲に聞こえるように言えば、周りは同調するようにくすくすと笑いだす。

 さすがに貴族たちはまだ、アビゲイルに対していい印象を持っていない。

 こういう反応をされるのも当たり前かと、そっと瞳を伏せようとした時だ。

 ヒューバートが強くテーブルを叩いた。


「――それは、我が妹に対する侮辱ととっていいか!?」


「い、いえ! 陛下……っ。そのようなことはっ!」


「なぜアビゲイルが行ったことを、お前たちは素直に認めない!? フェンツェル国王の前で恥ずかしいと思わないのか!」


 まさかヒューバートからそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。

 先ほどまでの楽しげな雰囲気はどこへやら。

 静まり返った会場内で、ただ一人オルフェウスだけが口を開いた。


「――確かにエレンディーレ国王とでも、話を進めることはできたでしょう。しかしここまでスムーズにことを勧められたのは、アビゲイル王女の尽力あってのこと。わたしはアビゲイル王女だからこそ、信じ待つことができた。……エレンディーレの貴族がたは、それを認めることすらできない……と?」


 オルフェウスの鋭い視線が会場内に向けられる。

 黙り込んでいたものたちがさらに息を飲み、なんとも言えない空気が流れ出す。

 それでも誰一人としてアビゲイルの功績に声を上げることはせず、ヒューバートは大きくため息をついた。


「申し訳ない。この国の悪しき風習をなくそうとはしているのですが……」


「わかっております。少なくともヒューバート陛下の家族に対する愛情はよくわかりました。……家族を大切にするかたは信頼に値すると思っております」


「そういっていただけるとありがたい。……こちらも、妹のことをオルフェウス陛下はとても信頼してくださっているようで……。感謝いたします」


 王同士の話し合いはにこやかに進む。

 そのことで少しだけ会場の雰囲気がよくなったからか、音楽家たちが音を奏ではじめる。


「――ありがとうございます。オルフェウス陛下、お兄様。……私のようなもののために」


「やめろ。お前は素晴らしいことをしたのだ。自分を下げる必要はない」


「その通りです。……あなたは素晴らしい人だ。少なくともあなたのおかげで、わたしはヒューバート陛下を信頼できました」


 それは取引のことなのか、今のやりとりによるものなのか。

 多分どちらもだろうが、そういうことなら素直に賛美を受け取ろう。


「この後もろもろの話し合いもある。アビゲイル、共に来てくれるか?」


 戦争の件だろう。

 どうやってチャリオルトの国王と話し合いをするか、そこがメインになるだろう。

 そういうことなら共をしようと頷くアビゲイルの耳に、能天気な声が届いた。


「それなら私もご一緒したいです! お姉様がいいなら私もいいでしょう? お兄様」


「アリシア。お前には関係ないだろう。これは遊びじゃないんだ」


「お姉様がいいのに私がダメな理由がわかりません!」


「先ほども言っただろう。アビゲイルはこの同盟の立役者。同席する権利がある」


 ヒューバートはごほんと大袈裟に咳払いをする。


「お前は大人しく薬草学について学んでおけ。……最近如実に成績が落ちていると聞いているぞ。男と遊ぶ前に己が選んだ道くらいはきちんと歩め」


「――なっ!」


 ヒューバートの言葉にカッと顔を赤らめたアリシアは、慌ててオルフェウスを見る。

 彼に聞こえていないことを望んだのだろうが、残念ながらヒューバートの声はオルフェウスどころか会場にも届いていた。


「……アリシア王女は薬草学に長けているとお聞きしております。よき女王となるためにも、どうぞ勉学にお励みください」


「………………あ、ありがとうございます」


 アリシアはそっと顔を伏せ、膝の上にある拳を強く握った。

 強すぎて腕がブルブルと震えているのが見える。


「それに比べてアビゲイル。薬草学の先生が褒めていたぞ。成績もいいようだな」


「ありがとうございます」


「最近は歴史にも興味を持っているとか。先生から特別に科目を増やすこともできると言われているぞ? お前にやる気があるならどうだ?」


「そのお話もぜひさせていただければと思います」


 アビゲイルはちらりとアリシアを見る。

 ここ最近は攻略対象者とのやりとりばかりで、勉学をおろそかにしていたせいだろう。

 だからこの展開は必然。

 アリシア自身のせいなのに、彼女はそうは思わないらしい。

 アビゲイルを睨みつけてくる目元は、もはや天使のような王女の面影はない。


「わたしも歴史には少々詳しいのです。……よろしければ、お話しさせていただければと思います」


「楽しみにしております」


 どうやらこのパーティーも、勝ったのはアビゲイルのようだ。

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