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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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急変

「思ったよりも早かったな……」


「…………」


 アビゲイルは険しい顔をして、馬車の中で新聞を読んでいた。

 内容はチャリオルトとミュンヘンの戦争の件だった。

 一年近く続いた戦争は、チャリオルトの勝利で幕を閉じたらしい。


「……きたわね」


 チャリオルトの若き王は野心家らしい。

 ミュンヘンという国はなくなることはなかったが、チャリオルトの属国となり、王族は一人を除いて全員処刑されてしまったらしい。

 小さな子どもですら。

 アビゲイルはくしゃりと新聞を握ると、強く唇を噛み締めた。


「……チャリオルトの国王は、血も涙もないのね」


 ミュンヘンで唯一生き残った女性は、十四歳の王女メリア。

 チャリオルトの国王は彼女を側室として迎えたらしい。

 それだけ聞けば戦争の檻にはよくあることだが……。


「ミュンヘンの王女メリアは国民にも人気の高い女性だったらしいな。……国民たちの心は、荒れてるだろう」


 こんなのただの人質だ。

 国民たちが野心を抱かないように。

 反乱を起こさせないために。

 ただそれだけのために王女は生かされ、その生涯を敵国で幽閉される。

 アビゲイルも他人事ではないなと、眉間に皺を寄せた。


「……王女は無事だといいけれど」


「聞いた話では、目の前で家族の処刑が行われたらしい。……少なくともまともな精神状態ではないだろう」


 戦争とはそんなものだ。

 残酷残忍。

 それが戦争だ。


「……次はエレンディーレかフェンツェルか」


「その件で呼ばれたんだろうな」


 馬車は今、急ぎエレンディーレの王宮へ向かっている。

 学院に届いたヒューバートからの手紙には、急ぎ王宮へやってくるようにとだけ書かれていた。

 どうしたのかと疑問に思っていたところに、チャリオルトの勝利で確信した。

 いろいろなことが動き出すのだと。


「もうつくな。アビゲイル」


「わかってるわ」


 頷いたアビゲイルが軽く服や髪を整えた時、馬車が止まった。

 エレンディーレの王宮。

 アビゲイルの生まれ育ったところ。

 決して好きな場所ではないけれど、もし戦争になったらここもまた血の海になるのだろう。

 真っ白な大理石の床は傷だらけになり、そこを赤い血が流れる。


「……行きましょう」


 そんなのは嫌だ。

 アビゲイルはここを死の場所にしたいのではない。

 誰も彼もが幸せを感じながら堕ちていく、そんな場所にしたいのだ。

 それを邪魔なんてさせない。

 アビゲイルはやってきた護衛を引き連れ、王宮の中を歩む。


「……空気が変わったな」


「ええ」


 普段ならアビゲイルを見て眉を寄せる侍女たちが、こちらを一切気にしていない。

 みなが不安そうに肩を寄せ合い、王宮の中はいつもよりずっと暗く重苦しい雰囲気だ。

 誰も彼もがわかっているのだろう。

 戦争が起こるかもしれないと。


「……」


 アビゲイルたちは謁見の間ではなく、ヒューバートの私室へと通された。

 フェンツェルとの件はヒューバートとアビゲイル、グレイアムしか知らないことだからだろう。

 下手に聞かれたり、探られるのを避けるためだ。

 ヒューバートの私室には紅茶やお菓子が準備されていたが、とても手を伸ばせる状態ではない。

 アビゲイルたちはソファに腰を下ろしながらも、表情は固いままだった。


「……国王も忙しいだろうな」


「この状況じゃ、さすがに呼び出しておきながら遅れるなんて……とは、叱れないわね」


 国はもうバタバタだろう。

 こればかりは気長にヒューバートを待つしかないと、アビゲイルたちが黙って待っていた時だ。

 侍女が一人部屋へとやってきた。


「失礼いたします。ブラックローズ公爵様。宰相様がお呼びです」


「――宰相が? 俺を?」


 グレイアムが怪訝そうな顔をする。

 エレンディーレの宰相がグレイアムになんのようだろうか?

 一向に動こうとしないグレイアムに、侍女が困ったように視線を彷徨わせる。


「なんのようだ……?」


「いえ……。御用まではわかりかねます。お呼びするようにとのご命令でして」


「理由を聞いてきてくれ。俺は……」


「グレイアム。行ってきてちょうだい。ここは私一人で大丈夫だから」


「しかし――」


 ここは王宮のヒューバートの私室。

 そんなところでおかしなことをするやつはいないだろう。

 少なくともヒューバートと王太后であるカミラはアビゲイルの味方なのだから。

 下手に断るほうが、目をつけられる可能性がある。

 未だ渋るグレイアムに頷けば、彼は渋々といったようすで動き出した。


「すぐ戻る」


「お願いね」


 侍女に連れられてグレイアムが去り、静まり返った部屋の中にはアビゲイルのため息だけが響く。


「……うまくいくといいのだけれど」


 こればかりはフェンツェル国王、オルフェウスの手にかかっていた。

 彼がうまく動いてくれなければ、この国は戦争に巻き込まれることになる。

 そうなったら、たくさんの死者が出るだろう。

 死の神云々言っている場合ではなくなる。


「……頭が痛いわね」


 はあ、と大きくもう一度ため息をついた時、突然ドアが開かれた。

 ゆっくりと扉が動き、予想外の人が部屋の中へと入ってくる。


「ため息は幸せが逃げるって、あなた知らないの?」


「――……アリシア? どうして……」


 学院にいるはずのアリシアが、そこにいた。

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