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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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戦争

「ギーヴがそんなことを? アビゲイルに懐いたんだな」


「グレイアムにもね。一緒に勉強しましょうって」


「それは楽しみだな」


 今日の学院の授業は午前中に終わったため、午後は自由だ。

 そのため教室にて花や草の剪定をしていたのだが、暇を持て余したグレイアムがやってきた。

 彼はアビゲイルのそばにある空いた椅子に座ると、その手元を興味深そうに見つめてくる。


「薬草ってたくさんあるんだな」


「草だけじゃなくて、花や球根も使うから」


「すごいな」


 最初は覚えられるか不安だったが、慣れてくるとこれがまた面白い。

 同じ効能のものであっても、混ぜてはいけないものもある。

 過去の偉人たちの手によって解明された草花を、現代のアビゲイルが理解し、そしてまた解明していく。

 歴史は紡がれるのだと思うと、今度はギーヴの話が聴きたくなってくる。

 薬草学も歴史も、学びたいことは多い。


「最初はアリシアに会うためにってやってたけれど、今は来てよかったと思うわ。学ぶのって、こんなに面白いのね」


 間違えたからとて叩かれない。

 わからないからとて落胆されない。

 間違えてもいいのだとわかってからは、学ぶことが好きなった。


「アビゲイルが楽しそうでよかった」


「……ええ。ありがとう」


 薬草の選別はこれで終わりだと手を叩いた時、ふと思い出した。


「そういえばオルフェウス陛下から手紙が届いたの」


「オルフェウス陛下から? 一体なんの用だったんだ?」


 アビゲイルはフェンツェルの蝋印が押された手紙を思い出す。


「エレンディーレとの同盟が正式になされるそうよ。そしてその同盟が済んだのち、速やかにチャリオルトとの同盟も進めていくらしいわ」


「チャリオルトか……」


 隣国に戦争を仕掛け、勝ち、自国の土地を増やしていくチャリオルト。

 現在はミュンエルと戦争中であるらしいが、チャリオルトが勝つことはほぼ間違いないとのこと。

 ミュンエルを落としたとなれば、次はエレンディーレかフェンツェルのどちらかを責めるだろうと言われている。

 だからこそフェンツェルの国王オルフェウスは、アビゲイルを介してエレンディーレとの同盟を組もうとしたのだ。

 エレンディーレ国王ヒューバートは、アビゲイルの言葉に納得し同盟に前向きになった。

 その後も何度かヒューバートと話し合い、さらにはオルフェウスと手紙のやりとりもしていたが、どうやらどちらもうまく動かせたようだ。

 オルフェウスからはお礼金をもらえるようなので、そのお金でグレイアムの洋服を買おうと思っている。

 どうせお金を渡してももらってはくれないので、エイベルに聞いたグレイアム御用達のお店で買うつもりだ。

 流石にオーダーメイドの洋服なら、もらわないわけにはいかないだろう。

 うまく考えたなとアビゲイルは心の中で頷いた。

 ちなみに最初はお手製のなにかにしようとしたのだが、いかんせんアビゲイルは不器用であった。

 以前もお礼にとハンカチに刺繍をしたのだがうまくいかず、鳥が鳥に見えないできとなってしまった。

 だというのにグレイアムはたいそう喜び、公爵家にある寝室に、額縁に入れられ飾られているのだから困りものだ。

 あれを見た時にもう二度と変な出来のものは渡さないと誓った。

 まだまだ技術的には渡せるところまでいっていないので、今回はオーダーメイドという形で諦めたのだ。


「俺も少し調べてるが……。覚えてるか? 違法賭博で捕まえたやつら」


「ええ。エド、デューク、オリバー……よね?」


 ヒューバートがまだ王太子だった頃に違法賭博をさせ、借金を背負わせたものたちだ。

 ヒューバートを堕とすための手駒として公爵家に捕まったのだが、その際にアビゲイルが救いの手を差し伸べてあげたのだ。

 

 ――手駒とするために。


 彼らがどうしたのだろうか?


「あれらをフェンツェルとチャリオルトに送った。今いろいろ情報を集めてくれている。……もちろんエレンディーレにもいる」


「――そうだったの? そんなことさせてたなんて……」


「女神様のためならばーってやる気満々で出ていったぞ。……アビゲイルには感謝してるって」


「…………そう」


 彼らの悩みであった借金や家族の病気、さらには縁談まで綺麗に片付けたのだが、まさかそこまで恩を感じていたなんて思わなかった。


「届いた手紙的にも……そろそろチャリオルトとミュンヘンの戦争は終わる。その前にオルフェウス陛下のほうがうまく動ければいいんだが……」


「……実際、戦争が起こったら、エレンディーレは勝てないのかしら?」


「……無理だろうな。チャリオルトの軍事力は桁違いだ。今の平和ボケしたエレンディーレでは、戦さにもならないだろう」


 それはフェンツェルもそうなのだろう。

 一つの国では敵わないから、二つの国を合わせて戦おうというのだ。

 それもオルフェウスは一番難しい、言葉を使って。

 チャリオルトと戦争をしなくて済むよう動くというオルフェウスに、アビゲイルは賭けようと思ったのだ。

 自国の民を……アビゲイルを大切にしてくれる人々を守るために。


「今はオルフェウス陛下に託すしかないわね」


「……うまくいけばいいが」




 そんな話の三日後、ミュンヘンはチャリオルトの手に落ちた。

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