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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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ギーヴと

「もう読み終わったんですかぁ?」


「ええ。……すごく面白かった。私の知らないことばかりで、自分の無知さを恥じたわ」


「…………」


 読み終わった本を返しつつ、新たに借りた本を読む。

 どうやらギーヴは歴史を学ぼうとするものには優しいらしく、テーブルや机、さらには紅茶まで用意してくれた。

 それらをありがたくもらいつつページをめくっていたら、なにやら驚いた顔のギーヴと目があう。


「どうしたの?」


「――いやぁ。王女殿下は素敵なかたですねぇ」


 ちょっとよくわからないなと、アビゲイルは小首を傾げるがギーヴは気にした様子はない。

 すぐに意識を本へと向けると、アビゲイルの手元を眺めた。


「王女殿下は神話について調べられてるんですねぇ。やはりその赤い目が……?」


「まあそれも関係してるわね」


 死の神との繋がりである赤い目。

 確かに始まりはこれだった。

 だから頷いた時、ふと気がついた。 


「そういえば、ギーヴは最初から私のこの赤い目を怖がらなかったわね?」


「…………? もちろんですよぉ。ぼくはこの神話を知ってましたし、なにより死の神とやらに恐怖を抱くこともないですからぁ」


 アビゲイルと対峙した時、彼はこの目をまっすぐ見つめてきた。

 ここ最近そんな人が増えてきていたからすぐには気づかなかったが、ギーヴもまた特殊な人だった。


「死が、怖くはないの?」


「歴史とは死の記録ですぅ。偉人たちの死を身近に感じるからこそ、死という存在を恐ろしいものだとは思えないんですよぉ」


「……そう」


 そういうものなのだろうか?

 確かに、神話の話では人々は死を恐れておらず、むしろ終焉の神を崇拝していた。

 同じように死を恐れなければ、この瞳を恐ろしいと思うことはないのだろう。


「王女殿下も死の神を恐れてはいないと感じてますが、いかがですかぁ?」


「……そうね。……そうかもしれない」


 恐れてはいない。

 むしろ彼の存在を知った時は、恨んだと言ったほうが正しい気がする。

 死の神という、見知らぬ存在のせいであのような仕打ちを受けていたのだと知った時は、さすがに恨み言の一つも言ってやりたくはなった。

 けれど接しているうちに死の神という存在を知り、この心は変わっていった。

 なによりも彼は被害者だ。

 今は彼を恨んだりしていない。

 むしろ以前よりも親しみを感じ始めている。


「恐怖はないわ。……死の神が被害者だとわかった今、なおさらね」


「この本の内容が正しいとは限りませんよぉ」


「正しいのよ。……私は、そう思うから」


 死の神から直接言われたのだから間違いない。

 彼は終焉の神として、人々から慕われていた。

 愛する者と共にあり、その間に新たな命まで授かった。

 なのに、たった一人のわがままで全てが消えてしまったのだ。


「……ねぇ、もしよ? もし死の神が蘇ったとしたら……あなたはどうする?」


「ぼくですかぁ? ……んー、そうですねぇ」


 ギーヴは考えるように顎に手を当て数秒考え、すぐに答えを出した。


「お話を聞いてみたいですねぇ。本当の過去を知る人と話をできる機会なんてないですからぁ」


「世界が終わってしまうかもしれないのに?」


「終わるならそこまでだったということでしょう。それにぼくは、死の神が世界を終焉に導くとは、とても思えないんですよねぇ」


 ギーヴはモノクルを外すと、軽く腕を上げて伸びをした。

 肩が凝っているのだろう。

 ついでと腕を回す。


「数多の歴史書を読んできましたが、もし仮に死の神が終焉の神ならば……。エレンディーレの歴史はどこかで捻じ曲げられています。かの神は本来、人々を見守っていた存在だったはずですから」


「…………そう」


 まさかアビゲイルたち以外にも、死の神に恐怖を抱かない人がいたなんて。

 なんだか自分のことのように嬉しかった。


「私、ギーヴとお話しするの好きだわ。いろいろなことが発見できるんだもの」


「ぼくも王女殿下と話すのは刺激になって大変心地よいですぅ。……もしよろしければ、もう少し歴史をお教えしましょうかぁ?」


「――いいの? 忙しいんじゃ……」


「歴史書は大体読みましたし、この頭に入ってますぅ。人に教えることもまた、知識を深めることに繋がりますのでぇ」


「……そう? なら、お願いしようかしら」


 そこまで言ってくれるのなら、お願いしてもいいのかもしれない。

 アビゲイルも歴史に興味を持ち始めたし、お互いが納得しているのなら断る理由もない。


「……ぼくはぁ、人と関わるのはあまり得意ではないんですぅ」


「――急にどうしたの?」


 今の会話の流れから、この言葉は一体どういう意味なのだろうか?

 不思議そうなアビゲイルに、ギーヴは照れ臭そうに笑った。


「でも、王女殿下とグレイアムは、ぼくの話をちゃんと聞いてくれるので好きですぅ。生まれて初めて人と話してて楽しいと思いましたぁ」


「…………そう」


「そうですぅ。さて、王女殿下はどの歴史を知りたいですぅ?」


 ギーヴは職人気質というかなんというか。

 詳しいことにのみ集中する姿は、第三者からすると話しかけづらいのだろう。

 アビゲイルも話すことが得意とはいえないので、彼の気持ちは少しだけわかる。

 だからこそ、アビゲイルとグレイアム。

 この二人と話すのが好きだといってくれたギーヴを、どうして邪険にできようか。


「ギーヴの好きなところがいいわ。私もあなたのこと、よく知りたいし」


「ではまとめておきますぅ! ぜひグレイアムと共にきてください。紅茶を用意しておきますぅ」


「じゃあ私はクッキーを持ってくるわね」


「わぁ……! それは、楽しみですねぇ」

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