第二十六章 知己朋友(4)
(衆道が高尚なのって、戦国時代くらいまでだっけ……?)
いや、そんなはずはない。
この時代にも当然存在しているし、少なくとも蔑視されたりするようなものではないはずだ。
推測だが、問題なのは価値観でも伊織自身でもなく、佐々木の好意の表し方にこそあるのだろう。
佐々木の行動は、周囲が囃し立て易いものが多い。きっとそのせいに違いない。
「おい、いつまで畳に接吻しているつもりだ」
尾形の声で、伊織ははっと我に返る。
考え事をしていたせいで、斎藤の手が既に退けられていることに今更ながら気が付いた。
「近藤局長にも報告は済んでいるんだろう。だったらもうその件はそれで終わりだ」
慌てて顔を上げると、変化に乏しい見慣れた尾形の顔があった。
どうやら、言葉の通りにお小言は無しのようだ。
「尾形君が気にしないのであれば、俺も助かる。では、俺はそろそろ休むぞ」
「えっ!? もう行っちゃうんですか、斎藤さん」
折角、尾形との感動の再会を果たしたというのに。
すっと立ち上がったかと思うと、斎藤は大きく口を開き一つ長い欠伸をした。
「少々寝不足でな。少し寝る」
言葉少なにそう言い捨てて、斎藤は悠々と部屋を後にした。
***
斎藤が戸を閉めると、尾形はちらりと伊織を見遣る。
伊織も何となく尾形を見返すが、視線が絡むと溜息と共に逸らされてしまった。
「え、なに? 何ですか、その溜息?」
「何でもない」
「いやいやいやいや絶対何かしら含みありますよね」
「含みはない。ただ、俺もお前もまた戻って来たのかと少しがっかりしているだけだ」
「がっかりするようなことじゃないですよね!?」
そこに、どたどたと大股で急く足音が割り込んだ。
先に去った斎藤が戻って来たわけではないな、と思うや否や、スパンッと小気味良い音を立てて現れたのは満面の笑みを浮かべた沖田であった。
「お二人とも、お帰りなさい!!!」
言うが早いか、沖田は片手に尾形、もう一方に伊織を捕まえた。
肩を組むようにがっちり抑え込まれ、伊織は危うく首が締まるところだったが、その力の強さも喜びの表れだと思うと、多少の苦しさも紛れてしまった。
「ただいま戻りました、沖田さん」
「はいはい、ただいまなさい。あんた出迎えでも局長にやってたなコレ」
勿論、近藤一行の出迎えにも出たので、帰って初めて三者が顔を合わせたわけではない。
懐っこい沖田のことだから、恐らく親しい者皆に改めてこうして回っているのだろう。
一頻り一方的な抱擁を経て、沖田は漸く二人を開放する。
「もー、聞いてくださいよ! 尾形さんがいない間の高宮さんときたら、そりゃあもうひどかったんですよ!」
「えぇっ!? ちょっ、沖田さんそんな事はな──」
「土方さんと私は、高宮さんに一度捨てられたんですからね!」
(人聞きがとても悪い!)
「更に言うとですね、尾形さんだって捨てられたようなものなんですよ!」




