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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

追放された俺が“たった一秒だけ早く動ける”スキルで、英雄になった話

作者: 天城悠真
掲載日:2025/05/04

 ――その男が剣を抜いた瞬間、戦場が止まった。


 黒き鎧に身を包んだ魔将〈バルゼグ〉率いる魔族の大軍勢。

 数百の魔獣が咆哮を上げ、砦を呑み込まんと迫る中――


 たった一人の男が、風のように飛び込んだ。


「ば、馬鹿な…………!?一体何が起きている!?」


 魔獣が弾け飛ぶ。

 雷より速く、光より鋭く。

 剣閃が、影すら裂いてゆく。


 自らが率いる軍勢が眼の前でいいように蹂躙されていく。


 つい先程まで圧倒的に優勢だったのが、たった一人の男が乱入しただけで悪夢のように戦況が一変した。


 バルゼグの部下が恐慌を引き起こし、戦線は混乱を来たしている。


 そして、その混乱の嵐の渦中の人物は疾風のようにこちらへ駆けてくる。


ーーー疾い。


 バルゼグが大剣を抜き放ち、怒りに燃える瞳で吠えた。


「来るなら来い……!この魔王様の右腕たる魔将バルゼグが相手に――」


 その叫びは、最後まで届かなかった。


 「ファストワン」


 男がそう呟いた瞬間――


 閃光が走った。


 次の瞬間、魔将の首が天高く舞い、巨体が音もなく崩れ落ちる。


 視界の中心で、男が静かに剣を鞘に納めた。


 血に塗れた兵士たちが、その姿を呆然と見上げる。


 風が止まり、音が消えた世界で。


 バルゼグの首が大地にボトリと落ちる。


 首だけとなりながら魔族の将、バルゼグは最後の力で呟いた。


「……これが……“零刻の剣皇”……ファストワン……か……」


 そのまま、瞳から光が消えた。


 ――たった一秒。


 それだけで、戦場を終わらせた。


 男の名は、レイン。


 かつて“クズスキル”と嘲笑され、ギルドを追放された男。


 これは、そんな彼が“最強”と呼ばれるに至る――もう一つの物語。





 静寂を破ったのは、誰かの笑い声だった。


「《ファストワン》だってよ……ぷっ、なにそれ。クソ地味!」


「“一秒だけ早く動ける”って、お前、冗談だろ。そんなもんで戦えると思ってんのか?」


 ギルドの受付前。

 スキル鑑定の儀式を終えた俺――レインの頭上に、冒険者たちの嘲りが降り注いでいた。


 受付嬢のルーシェは、水晶に浮かぶスキル名を見たまま固まっている。

 だが、わずかに眉をひそめ、口の中で何かを呟いていた。


「任意発動、クールなし……一秒間……連発……理屈の上では……」


 その小さな声に気づいたのは、たぶん俺だけだ。

 でも、彼女は結局それ以上何も言わず、表情を整えて無言で紙を差し出してきた。


《ファストワン》

効果:任意のタイミングで1秒間、行動速度を加速できる(クールタイムなし)


 それだけしか書かれていない紙切れ。

 攻撃力も防御力もない。ただ、一秒だけ速くなる。

 俺のスキル。それだけのもの。


「レイン、悪いな」


 ギルドマスターのヴァルドが机越しにため息をついた。

 声に含まれるのは、憐れみと事務処理の匂い。


「うちは実戦重視だからな。正直、そのスキルじゃ今後の依頼に……対応は厳しい。分かってくれるか?」


 要するに、戦力外通告だ。


 俺は無言で認定証を受け取り、背を向けた。


「せいぜい荷運びでもやってな、クズスキル野郎!」


 誰かの捨て台詞が背中に突き刺さる。

 別に、慣れてる。

 けど、そのとき。


「ま、待って!」


 小さな声が俺の足を止めた。


 振り返ると、エリナが駆け寄ってきていた。

 同い年の見習い治癒士で、ギルドの同期。

 俺が唯一、名前で呼んでいた相手。


「私、そんなの信じない……! レインさんは、そんな風に笑われるような人じゃない!」


 息を切らしながら、まっすぐ俺を見てくる。

 ……その目だけは、昔から変わらない。


「このスキルが、クズだなんて……私には、そう思えない」


「おい、やめとけよエリナ」


 背後で誰かが呆れたように言う。


「せっかく“期待の新人”なんて呼ばれてんのに、そんなクズに肩入れとかバカだろ」


「そうそう。レインなんてすぐ消えるよ。今のうちに切っとけって」


 俺には向けられなくなった好意と、エリナへの社交辞令が混ざる空気。

 ……それが、何よりも鬱陶しかった。


「見たろ。『一秒だけ早く動ける』、だとさ。どう使えばいいか、俺にもわからん」


 俺はエリナの前で、認定証をひらひらと見せてみせた。


「……でも、それだけじゃない。レインさん、誰より努力してた。ずっと剣の訓練してて……。だから……」


「だから?」


 問い返すと、エリナは口をつぐんで、小さく首を振った。


「……ありがとう、エリナ。でも、俺はもう決めてる」


 背を向けて歩き出す。


 誰にも信じてもらえなかったスキル。

 でも、エリナだけは。

 あの視線だけは――俺を疑わずに、見ていてくれた。


 



 ギルドの裏手にある、誰も使っていない古い訓練場。

 俺はそこに一人で足を運んだ。


 人の気配がないことを確認し、中央の枯れた土の地面に立つ。

 腰の剣をゆっくりと引き抜いた。


「……じゃあ、やってみるか」


 スキル名を、口の中で呟く。


「ファストワン」


 ――世界が遅れた。


 空気が重くなったように感じる。草の揺れも、落ち葉の舞いも、妙に鈍く見える。

 体が、考えるより先に前へ出る。

 一歩踏み込む。剣を振る。踏み直す。もう一度――

 ……いや、わからない。どれだけ早いのか、本当に一秒なのか。


 俺は剣を納め、地面に転がっていた古い藁束を拾い上げた。

 それを手元で軽くほぐして、宙に向かって放り投げる。


 藁が宙に舞う。


「ファストワン」


 加速の感覚が襲いかかる。

 視界が歪むほどに、藁の落下がゆっくりに見えた。


 一歩踏み出す。斬る。

 すぐさま反転し、二度目の斬撃。


 斬り終えた直後、藁は地面に落ちた。


 ……二度が限界。三度目を振り始めたときには、感覚が通常に戻っていた。


「……そういうことか」


 一秒の加速中に、斬撃は二回。

 条件次第では三回に届くかもしれないが、それには精密な調整が必要だ。


 そして、一秒の加速時間は俺に急激な負荷がかかる。空気抵抗、衣服の重み、普段なんでもないものが重りとなって俺にのしかかる。


 そんな感覚だ。


 単純に、普通に剣を振るのに一秒かかるとして、《ファストワン》で加速して一回振ると通常の二回分の負荷がかかる。


 二回振るなら四倍の負荷。

 上手く使わないとすぐ疲労困憊になってしまう。


 それでも――十分すぎる。


 任意発動、クールなし、連発可能。

 状況に応じて繰り返せば、間合いも制圧も思いのままになる。


(……ルーシェの呟き、あれは本物だった)


 けれど、この力を“武器”として扱うには、俺自身が追いつかなきゃ意味がない。


「なら、やるしかねぇな」


 《ファストワン》


 誰もが笑ったこのスキルは、俺にとって希望の光だ。


 その日から、俺のたった一人の修行が始まった。


 毎日、訓練場に通い、誰にも見られず剣を振り続けた。

 基礎の型を徹底し、動体視力と反応速度を鍛え、

 《ファストワン》を使うたび、どこに力が流れるかを感覚で覚えていく。


 地を蹴る瞬間の足の角度。

 柄を握る強さ。

 気配の流れ、目線の誘導、無駄な動きの排除。


 そうやって、一秒にすべてを詰め込む技術を、俺は磨き続けた。



 気づけば、季節が二つ、過ぎていた。


 ――誰にも見られないまま、俺は速くなった。






 街へ出るのは久しぶりだった。

 ギルドの荷運び仕事に駆り出された俺は、荷物を抱えて街路を歩いていた。


 すると、前方からにぎやかな声が聞こえてくる。

 数人の冒険者たちが連れ立って歩いてきて、その中に――見覚えのある後ろ姿があった。


「……エリナ?」


 思わず声をかけると、彼女はぱっと振り返る。


「――レインさん!」


 笑顔が弾けた。

 半年ぶりに見るその顔は、かつての“見習い治癒士”のものじゃなかった。

 少しだけ日焼けしていて、迷いのない瞳で俺を見ていた。


「久しぶりです! どうしてここに……」


「仕事のついでだ」


 言いながら、視線が彼女の装備へと移る。

 上質な布地のローブ、膝までの軽装鎧、腰には小さな治癒魔石のポーチ。

 冒険者ランクもすでに昇格しているようだ。


「ふーん……随分立派になったじゃないか」


「えへへ……なんか、半年の間に色々あって。回復も攻撃もできるってことで、最近じゃ“若手のホープ”なんて呼ばれちゃってます!」


 得意げに笑うエリナに、後ろの仲間たちが声をかける。


「エリナー! ダンジョン行くんだろ、早くしろよー!」


「ごめんなさい、ちょっとだけ!」


 そう言ってから、彼女は俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「また、ゆっくり話しましょう! レインさんが元気そうでよかった!」


 そう言って手を振り、仲間のもとへ駆けていった。

 その背中が、どこか遠くなったように思えた。



 


 夕方。

 最後の荷物の返却を終え、ギルドへ戻ると、外が騒がしくなっていた。

 ただ事じゃない空気。

 受付に目をやると、ルーシェが珍しく焦った表情を浮かべていた。


「……どうした?」


 俺が声をかけると、ルーシェは驚いたように顔を上げ、急いで答えた。


「レインさん……! エリナさんたちのパーティーから、さっき緊急の応援要請が入りました。ダンジョン内で不測の事態に遭ったと……でも、それっきり連絡が……!」


「座標は?」


「第七迷宮、外周層です……けど、通信水晶が反応しなくなっていて……」


 それだけ聞いて、俺は駆け出していた。


 第七迷宮。

 冒険者なら誰でも知っている、魔力の濃い天然のダンジョン。

 外周でも油断すれば死ぬ。そこへ向かったのなら――


「……ったく、何やってんだよ……!」


 既に太陽は傾き始めている。

 だが、足は止まらない。

 ギルドに許可など要らない。救いたいだけだ。



 


 ダンジョン入口。

 既に数パーティーが戻ってきていた。

 皆疲弊しており、その表情には緊張と不安が滲んでいた。


 俺は剣を握り直し、ダンジョンへと踏み込む。


 中は湿った空気が満ちていた。

 ウヨウヨと湧き出るモンスター――小型のゴブリン、スライム、無数のトラップ。


「ファストワン」


 踏み込んだ瞬間、視界が開ける。

 魔物の攻撃はすべて後手に回り、こちらの剣が先に届く。


 一撃、二撃、移動、また一閃。

 半年間の訓練は無駄ではなかった。

 反応速度も、持久力も、すでに冒険者の域に達している。


「……こいつら程度じゃ、止められねぇよ」


 踏み込みながら、敵を抜いていく。

 深く、さらに深くへ。


 


 中層手前、通路の分岐で、一人の冒険者が倒れていた。

 荒い呼吸、裂けた服、血の跡。


「おい、生きてるか!」


「……レ、レイン……? うそ……なんで……!」


 昼間エリナの後ろにいた、弓使いの男だった。

 ボロボロの体で、それでも口を動かす。


「オークの群れに……囲まれて……! 俺たち、逃げたんだ……エリナが、囮になって……!」


 言葉の途中で、俺は襟首を掴んでいた。


「逃げた? あいつを置いてか?」


「し、仕方なかったんだよ! あの数は……!」


 言い訳は聞かない。

 振りほどいて、俺はダンジョン奥へ向けて走った。


 エリナを――置いて、逃げた。

 そんな真似をしておいて、生きてるだと?


「……だったら、俺が助けに行くしかねぇだろ」


 ファストワン。

 体が加速し、空気が遅れる。


 重くなる疲労を振り切って、俺はただひたすらに走った。


 


 ――そして、見つけた。


 広間の奥。

 十体を超えるオークの群れに囲まれた少女が、傷だらけで倒れていた。


 杖を構え、片膝をつき、それでも睨み続けるその瞳。

 ――エリナだった。


 オークたちはエリナを弄ぶように包囲し、じりじりと間合いを詰めていた。


「……く、来ないで……!」


 震えた声。けれど、その目だけは折れていない。

 杖の先に微かに魔力が灯っている――まだ、戦う意志がある。

 

 俺の怒りが、臨界を超えた。


「……よくも、エリナを………!」


 静かに、剣を抜く。


「ファストワン」


 一瞬で視界が変わる。

 地響きのような足音が、鈍く遅れて聞こえてくる。


 一体目の背後へ踏み込む。

 剣を突き立て、抜きざまに返す。


 二体目が気づいて振り向くより早く、横腹へ斬撃。

 そのまま勢いを殺さずに地を蹴る。


「ファストワン」


 連続発動。骨に響く疲労が、脳天まで駆け抜ける。

 だが関係ない。今は止まれない。


 咆哮を上げた三体目に、真っ向から斬りかかる。

 厚い皮膚を裂き、喉元を断つ。


 残りのオークたちがようやくこちらを認識し、一斉に吠える。

 巨体が殺到する中――


「ファストワン」


 斜めに跳躍し、空中で体を捻って避け、着地と同時に一閃。

 四体目の膝を断ち、転倒させたところへ追撃を入れる。


 五、六、七……疲労は倍々に蓄積していく。

 けれど半年間、これに耐える訓練をしてきた。


 “速さ”に体を慣らすために、何千回とスキルを使った。

 この程度で倒れるような体じゃない。


「ファストワン」


 前方に立ちはだかった巨体のオークを斬り裂きながら、エリナへと距離を詰める。


 彼女の前に立ち、剣を構え直す。


「待たせたな、エリナ」


「……レ、インさん……っ!」


 涙と驚きが入り混じったその声に、答える暇はなかった。


 残ったオークたちが、怒号と共に襲いかかってくる。


「ファストワン」


 一秒だけ、世界が遅れる。

 その一秒で――俺はすべてを断つ。


 斬る、避ける、捌く、走る、斬る。

 剣が風を裂き、返り血が飛ぶ。


 一体、また一体。

 重ねるごとに、体は悲鳴を上げるが、心は一点に澄み渡っていた。


「ファストワン」


 最後の一体の顎を斬り飛ばしたとき、俺はようやく動きを止めた。


 静寂が訪れる。

 全身の感覚が重い。体は鉛のようだ。


 だが――終わった。


「す、すごい…………あれだけいたオークを一瞬で………」


 呆然とした呟きに振り返ると、エリナがそこにいた。


 驚きながらも、泣きそうな顔で、でもどこか誇らしげに、俺を見ていた。


「……本当に、来てくれたんですね」


「ああ」


「レインさんがこんなに強くなってるなんてびっくりです」


 窮地を脱したことで安堵したのか朗らかな笑顔を見せるエリナ。


 俺は小さく笑い、剣を収めようとした、その瞬間だった。


 ――ズズン。


 地の底から響くような低音。

 広間全体が震え、奥の壁が崩れた。


 現れたのは、一際巨大な影。

 群れを統べる者――オークキング。


 体格は通常のオークの倍以上。

 筋骨隆々の腕には棍棒を携え、その目は赤く爛れていた。


「……まだいたか」


 疲労が限界に近い中で、自然と足が前に出る。


「レ、レインさん! もう無理です。逃げて――!」


「駄目だ。あれは誰かが止めなきゃ、いずれ外に出る。そうなる前に、ここで………倒す!」


 そう言って、俺は一歩前へ。

 オークキングも、咆哮とともに棍棒を振りかぶった。


「ファストワン」


 世界が遅れる。


 その隙に、地面を蹴り飛び込む。

 巨大な棍棒が轟音を立て空を裂く。


 当たれば間違いなく即死の一撃が、俺には死にかけの蚊のようにゆっくりと見え、難なく躱す。


 しかし、避けるのは造作もないが攻撃に回ると思うようには行かなかった。


 一撃。二撃。刃は確実に当たっているのに皮膚を通らない。まるで鋼鉄の鎧だ。


 舌打ちし、俺は距離を取る。


 息を整え集中する。


ーーーここで俺が死んだらエリナまで殺される。


 そう思うと頭が冷えた。

 腹の底から必殺の炎が燃え上がる。


 一か八か。

 俺は剣を構え駆け出す。


 ダンッ!


「ファストワン!」


 再加速して跳躍。棍棒をかいくぐり剥き出しの首へ剣を薙ぐ。


 ドス!


 肉を裂く確かな手応えと鈍い音。しかし木の幹のような太い首には剣が三分の一ほどめり込み止まる。


 この程度ではオークキングは止まらない。

 一秒の加速が解ける。


「があああああああああ!!」


 激怒の咆哮を上げるオークキング。


 俺は空中で素早く剣を抜き、力の限り叫ぶ。


「ファストワン!!」


 再び訪れる神速の刻。


 俺は体を思い切りひねり回転する。

 まとわりつく時の抵抗を受けながらも遠心力を加えた渾身の斬撃をオークキングの血の滴る首に叩き込む。


 ズバン!!


 振り抜いた剣は音を立て砕けた。


 そして、空中を舞うオークキングの首。


 時間が正常に戻り俺は受け身も取れずに地面に叩きつけられる。


 加速時間に無茶な動きをしたせいで披露が一気に襲いかかっていた。


 それでも、俺は力の入らない体を叱咤し起き上がる。


 立ち上がって眼の前にあるのは首のないオークキングの身体。


 離れた所に首があった。

 舌がだらしなく伸び、完全に息絶えているのがひと目でわかる。


「……終わった」


 力なく呟く。

 本当に俺がやったのか?


 あの、A級冒険者でさえ束になっても倒せないと言われるオークキングを?


 信じられない思いで振り返ると、膝をついたエリナがこちらを見ていた。

 その目には、涙と驚きと――何より、安堵があった。


 ……もう、大丈夫だ。今はとにかくエリナが無事ならそれでいい。


 そう思った時、広間の奥に続く通路から、足音が響いてきた。


「遅れてすまん!!」


 ギルドからの増援だ。

 ルーシェの報せを受けて駆けつけた冒険者たちの中には、ギルドマスターのヴァルドの姿もあった。


「応戦体勢――って……な、なんだこれは……?」


 視界に広がる死体の山。

 大量のオークと、その中心に胴体と首が泣き別れした異形の王の死骸。


 そして――血に塗れたまま、剣を手に立つ男の姿。


「……まさか、レイン……お前がやったのか……?」


 ヴァルドが呟くように言った瞬間、後方からざわめきが広がる。


「おいおい、ありゃ追放された奴だろ?」


「冒険者資格なしで、勝手にダンジョンに入ったってことかよ」


「モンスター討伐は登録者以外、禁止されてるはずだぞ!」


 


 冷たい視線と非難の声が、俺に向けられる。


 だが――その一切を、ヴァルドの怒声が一喝で吹き飛ばした。


「黙れ、愚か者ども!」


 空気が張り詰めた。


「たしかに、レインは冒険者ではなかった。だが! 誰がこの場を救った? 誰が仲間を見捨てず、誰がオークの王を倒した!?」


 誰も、何も言い返せなかった。


「ルールが命を救うのではない! その場に立った者の覚悟と力が、命を繋ぐんだ!」


 ヴァルドは一歩、俺の前に出た。

 その目には、揺るぎない決意があった。


「……よって、本件の独断行動については、緊急時の判断として不問とする。俺が責任を取る」


 息を呑む音が、あちこちで漏れる。


 ヴァルドは、さらに続けた。


「そして、レイン。貴様を正式に“冒険者”として再登録する。……いや、もはやそれだけじゃ足りんな」


 彼は短く息を吸い――宣言した。


「レインを、うちのギルドが誇る“最上位戦力”として認定する。異論は、あるか?」


 誰も何も言えなかった。


 俺は何も答えず、ただ静かに剣を背に戻した。


 復讐のためでも、見返すためでもない。

 ――誰かを守るために戦った。

 それだけで、十分だ。


 横に倒れていたエリナが、泣きながら笑っていた。


「……やっぱり、レインさんは……すごい人です」


 俺のスキルは、たった一秒だけ早く動けるだけだ。

 だけどその一秒は――誰かの命を救うのに、十分だった。


 こうして、俺はもう一度、“冒険者”になった。


 今度こそ、誰にも笑わせない。

 このスキルが“最強”だと証明してやる。


 ――そして、これは。

 たった一秒が、世界を変えた物語の、始まりだった。




 


 翌日。

 晴れ渡る空の下、ギルドの扉をくぐる俺の隣には、エリナがいた。


「レインさん、ちゃんと髪整えて……ほら、服もしわ伸ばして!」


「お前な……ただの再登録だろ、落ち着けって」


「“ただ”じゃないでしょ。英雄の再出発なんだから!」


 苦笑しながらカウンターに歩み寄ると、そこには受付嬢のルーシェが待っていた。


 いつもより丁寧に整えた髪。微妙に強調された胸元。

 そして、何より満面の笑顔で、俺に登録証を差し出した。


「お待たせしました、レインさん!こちらがあなたの新しい冒険者登録証です。昨日の活躍、本当に……素敵でした」


「……ああ、ありがとう」


 受け取ろうとしたその手を、エリナの指がすっと割って入る。


「ルーシェさん、ありがとうございます。それ、私が代わりに預かりますね」


 自然な笑顔。けれど、声は一ミリも笑っていなかった。


 ルーシェは一瞬だけ固まり――それから苦笑いで引き下がった。


「ふふ、そっか。……じゃあ、大事にしてあげてくださいね」 


 登録証を受け取ったあと、俺たちはカウンターを離れた。

 ギルドの視線が俺たちに集まる。誰も、もう俺を笑っていなかった。


 外へ出たとき、エリナがぽつりと言った。


「私、昨日であのパーティーを抜けました」


「……そうか」


「これからは――レインさんと一緒に戦いたいって、そう思ったから」


 そう言って、彼女がそっと俺の手を握った。


 あたたかい。

 どこか照れくさくて、でも嫌じゃなかった。


「じゃあ、まずは簡単な依頼からだな。肩慣らし程度のやつで」


「えー、つまんないのは嫌ですよ。せっかく“最強のパートナー”になったのに!」


 からかうように笑うエリナの顔が、いつもより明るく見えた。


 俺たちは並んで歩き出す。

 繋いだ手は、しっかりとしたぬくもりを持っていた。


 余談だが、この後、俺は色々やらかして名を上げ、″零刻の剣皇″なんて呼ばれるようになるんだが、まあそんなことはどうでもいい。


 今、隣で笑う女の子が遠い未来でも俺の隣で笑顔でいてくれるならーーー


 ――たった一秒。それだけの力で、俺だけの未来を勝ち取ってやる。


 


 了

【あとがき】


 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!


 「クズスキル」と呼ばれた《ファストワン》――

 たった1秒だけ早く動けるだけの能力が、もしも“最強”だったら?

 そんな妄想から生まれた物語でした。


 今回の短編は、試験的な作品として執筆しました。

 もしご好評いただければ、この先のストーリーを連載形式で展開していくことも検討しています。


 ですので、読後の感想やブックマーク、評価が何よりの力になります!

 特に感想では「連載希望!」の一言だけでも、めちゃくちゃ励みになります!


 「続きが読みたい」「エリナかわいい」「1秒チートの成長をもっと見たい!」

 ――そんな声をお待ちしています。


 応援の一つひとつが、次の物語への一歩になります。

 よければぜひ、ワンクリックと一言感想でレインたちの冒険を後押ししてください!


 それでは、また別の物語でお会いしましょう!


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