第24話 エピローグ
魔王が討伐されこの王国に平和が訪れて1年が経ちました。
僕は相変わらずお店で必要な人に相性のいい物を売ったりして日々を過ごしています。
「レイスおねーちゃんありがとー!」
「はーい、足元に気をつけて帰って下さいね〜」
小さなお客様を見送りし僕はいつものお気に入りの椅子に腰を掛けます。
「ねぇ、スサノオさんあれって絶対おかしいですよ」
『そうか? 別にいいんじゃねーか。特に問題ないだろう』
「ニーニャさんはどう思います?」
「えっなにごめん、今錬成中だから後にしてくれる?」
しかしあのXデーから僕の状況に少し変化が起こりました。個人的にはとても困惑しています。
僕には1つの悩みが出来ていました。あれは良いのだろうか。なぜか誰一人反対しなかったしそれどころかトントン拍子で進んでしまった。
頑張ったのは皆さんの筈なのですが王国で僕は国の災厄を救った救世主として表彰されてしまいました。この影響で僕の店の知名度は格段に上がりました。
そして天才くんのお父さんにレイスフード……なんちゃってカレーのこの国の材料で作れる様に調整したレシピを渡したら甚く感動されてしまい、僕のお店で売るべきだと熱弁を振るわれました。このなんちゃってカレーは普通のカレーと違い有り得ない位日持ちするらしく、今では素材が定期的に王城から送られてくる為格安でお店で売る事にしました。
このなんちゃってカレーを売り始めて客足が以前の倍以上となりました。食欲とは凄まじい力を持っていることを思い知りました。レイスフードという名前は恥ずかし過ぎるので、【なんちゃってカレー】と名付けて売り出したのですが、既に1年前のあのXデーよりもずっと以前の僕が非常勤講師としてカレーを皆さんと食べた後に天才くんが学園内で全クラスに布教活動を行っていたらしくカレーとは即ちレイスフードであるという図式が既に出来上がっており、あのXデーで僕が食べたレイスフードはそのほぼ完成形であった事が天才くんが店に来た時に伝えてくれました。ちなみにあの後ルーナさんと結婚前提で付き合う事になった様です。
今では僕の店のカウンターに置かれ、スサノオさんはカレーの匂いが移ると軽い嫌味を仰っています。
小気味よい音と共にドアが開き、眼鏡を掛けた白髪の青年と紫の髪をした少年が店内に入ってきました。
「レイス様おはよう御座います!」
「学校終わりに丁度彼と一緒になったので寄らせて頂きました。調子は如何です?」
「どうも御二方! ぼちぼちでんな〜と言った所です」
「レイスフードください! あれ大好きなんですよ!」
「僕にも1つ包んでくださいますか?」
「はいまいどあり〜1つ200アイゼルになります」
カウンターに置いてあるなんちゃってカレーを2つ彼らに手渡し、代わりに銅貨4枚を受け取る。
「そういえば近く王城にて王位継承式が行われるで、是非参加して頂けますか? もちろん国賓扱いとさせて頂きます」
「普通でいいですよ〜。王族の皆さんに頭下げられるとむちゃくちゃ萎縮してしまうので……。それと誰が次の王様になるんですか?」
「ハハハ……はぁ僕です……」
「えっルベル教官王様になるんですか!?」
「あぁ、ソレイユ君。どうやらそうらしい。私はガデュレリウス兄さんかエミアリア姉さんがなるのだとばかり。私の様な人間が人の上に立っていいものか」
「ルベルさんならきっと大丈夫ですよ」
「精一杯頑張りたいと思います。ソレイユ君は卒業したらどうするのかね?」
「発展組みになろうかと思います。魔王は消えましたけど、モンスターは未だに世界中にいますし、復興の手助けができればと」
遠征組みは魔王消滅に伴い解体され発展組みという新たな組織となり、遠征組の方達は前と変わらず世界中のモンスター討伐は勿論のこと新たな土地やダンジョンなんかを攻略に勤しんでいるようです。
「素晴らしい。殊勝な人なんですねぇ。僕は何一つ変わっていません。この1年で変わった事といえば商品になんちゃってカレーが増えた位です」
僕がそう言うと2人は笑いを我慢する様な動作をしてカウンターから離れました。
「レイス様、ありがとう御座いました。僕貴女に会えて光栄でした!」
「王位継承式には馬車を向かわせますので。それでは!」
そう言って2人は店から出ていきました。
「何? 誰か知り合いが来てたの?」
工房で武具を作っていたニーニャさんが戻ってきました。手には一振りの打刀が握られています。
「新しい刀ができたわ。並べていいかしら?」
「いいですよ」
彼女はカウンターを出ていつしかあったブロードソードの隣に立て掛けました。
「いやーしかし私の武具も1年前に比べるとまぁまぁじゃない?」
「えぇ、白い柄と黒い鞘がいいアクセントになっていますね」
「フフフ、褒めても何も出ないわよ。ところでさっき私に何か言わなかった?」
「はい……あれどう考えてもおかしいですよ。トドメ刺したのはニーニャさんでしたよね? 全員見ていた筈なのですが……」
「またその話ぃ? 別にいいじゃない。宣伝材料だと思って堂々としてなさい」
『ほーら、俺が言った通りじゃねぇか。気にしすぎなんだよレイスはぉ』
僕はカウンターから出て店内を歩き出入り口のドアを開けて学園の方を見ます。
僕の目に黄金に燦然と輝く僕を模した巨大な像がそこにはありました。にっこり笑顔で僕の店を仁王立ちしながら指を指しているという、珍妙な光景になんとも言えない感情が湧き上がり消えていきます。
あの黄金像は魔王討伐後、何故か私の像を作ろうという話になり国を上げての一大プロジェクトとして大変多くの人達によって僅か半年で作られました。
どこの世界に黄金像を建てられ救世主として表彰される鍛冶師がいるんでしょうか。
気恥ずかしくなり僕は店の中へと戻りました。
ベルの小気味よい音が聞こえ、僕は精一杯の笑顔を作り振り返りました。
「レイスとニーニャの武具工房へようこそ!」
今日もお客さんが僕達のお店に来てくれます。閑古鳥が鳴かなくなり、とても嬉しくて騒がしい毎日が続いて鍛冶師冥利に尽きます。これからも僕はあの黄金像の様に堂々たる態度で精一杯頑張ります!




