第23話 なんか皆さんが魔王と対決するみたいなんです
躰が眩い光を発しドレスが掻き消え、黒い結晶体が躰に次々と張り付いていき光が収まりました。そしてそのまま空中へ天高く跳躍すると最高高度で停止します。
「どうやら変身できて良かった。この鎧肌面積多すぎて元男性の僕と言えど恥ずかしいからな。恥ずかしがってる場合じゃないか。戦いを見届けなければ」
僕の眼は特殊で作り上げた武具とその相性がいい人達は淡い光を纏います。この能力で僕は相性の良し悪しを判別するに至っていました。ここにきてその能力を用い一般人との区別が容易に可能になります。発光する色は武具毎に違いますが、このパニック状態の中で幾人かの光を視認できました。
僕自身に戦闘能力はない。この姿もただ飛行能力を持つだけであとは魔力を流し込む事で、むちゃくちゃ眩しい光を放つだけ。もし魔王の攻撃で僕が作った武具が破損したその時、早急に修復作業に移れる様に皆さんの様子を伺うことにしよう。
爆発の瞬間にソレイユのお父さんが彼とルベルさんを助け出していた様だ。
「と、父さん! どうしてこんな所に! そしてその脚は!?」
「バカ息子が、やった小遣いで剣を買えと言ったがよりによって創生の女神の店に行きやがって。家族揃ってあの人に足向けて寝られねーじゃねぇか」
「ソレイユのお父様もそうだったのですか」
「えぇ、第3王位継承者ルベル様、バカ息子が世話になっております」
「ええ! ルベル教官って王子様だったのですか!?」
「お前何にも知らねぇんだなぁ。これが俺の息子とは」
「お父様彼は素晴らしい剣士の才能を思っています。それに日夜努力を――こんな話は全て終わってからにしましょう」
「ハイ、ルベル教官!」
「ルベル様息子を頼みます。俺は野暮用があるので失礼」
そう言ってソレイユのお父さんは2人を残しどこかへ行っていまいました。
魔王は依然健在。あの爆発も物ともせず剣を振り上げ一般の人に向って行き剣を斬りつけようとした所、剣が手から抜け落ち銃の発砲音と共に全長4メートル程の剣が彼を袈裟斬りにしました。
『鉄砲隊、装填せり』
「そんな急には無理ッスよ、信長さん」
『魔王とかマジサゲじゃん手から剣すっぽ抜けててウケる。ダッサ』
「良かった間に合って! ムルウスあんたトイレ長いから出遅れる所だったじゃない!」
「しょうがねぇだろ自然現象なんだから!」
「皆無事か! やはりこの広さでは私の武器は本領を発揮できんか」
『いやでもまともにダメージいったんじゃねーか?』
魔王の躰肩からお腹にかけて深々と剣が刺さっています。血液なのか液体の様な物が流れ出ているのをここからでも確認できます。
魔王は表情をずっとニヤついたまま、刺さっている剣に手をかけました。
「斉天大聖! 剣を元に」
『あいよ!』
刺さっていた刀身が元に戻る事で短くなりました。
「ダメージはねぇみたいだねぇ」
「あの様子ではソルージェンはもう……」
「あいつは……とにかくモンスターの親玉だ。あいつは俺が殺す」
「仲間だったんだぞ!?」
「だからなんだってんでぇ? おめぇどうする気だ。お前の能力使えばあんな奴簡単に倒せるだろ」
「わ、私は……」
「ま、高みの見物といこうや。俺もまだどう出るか迷ってるからよ」
「ガヴァル貴様……目が見えないのではないのか」
「見えねーよ。けど他のもんがよぉく見えんだよ」
あんな所に学園長とガヴァルさんが一緒にいました。なるほど、彼女がガヴァルさんを保護してくれていた様です。
魔王が歩き始めました。
突如として魔王の前に魔法陣が出現し金の甲冑と銀の甲冑を着た2人の人物が現れ、剣を腹部に突き刺すが効果は薄い様です。
魔王を中心に黒い衝撃波の様な物が放たれ、2人は吹き飛ばされてしまいました。
「ガデュレリウス兄さん! ファビリル! 大丈夫ですか!?」
「ダイジョウだよ兄さん」
「しかし妙だ。手応えがないのもそうだが我々の攻撃に一切関していない。奴は何を目的に現れたのだ……」
魔王は再び歩きだし一般人の女性に手をかけようとしてその女性に顔面を思いっきりぶん殴られて2メートルは垂直に吹っ飛んでいきました。
「お前か……私のソレイユちゃんをイジメたやつはああああああ!!」
「母さん!?」
「流石あいつのパンチはいつ見ても豪快だなぁ」
「父さん! 母さんがなんでいるんだよ!」
「知らん。街で魔王が復活したから絶対家を出るなと街中で声がけしてたら偶然母さんと出会って『ソレイユちゃんをイジメる奴はぶん殴ってやる』と行って勝手に付いてきた」
「母さんもレイスさんから武具を貰っていたのか。魔王が吹っ飛んでいった」
「いや、母さんは元バーバリアンで普通の主婦だ」
「えぇ……」
「考えてみろ主婦が武器屋に行く訳がないだろう」
「確かに」
「ソレイユちゃーん! 怪我はない?」
「ないよ。母さん凄いやありがとう」
「ママはソレイユちゃんの為なら魔王だろうがなんだろうがぶっ飛ばしてやるわよ」
「今しがたお前が殴り飛ばしたのがその魔王なんだがな」
一般女性が魔王を殴り飛ばしました。女性はソレイユくんに近づくや否や抱きついて離れません。今のは何だったんでしょうか。おや、後方から列を成して騎士の人達がやってきました。
先頭にピンクの悪魔の様なデザインの甲冑を着た人がいます。
彼女はいつかの嵐の様な人。なるほど騎士団の方だったようです。
「兵士達よ! 今こそ我らが満願成就の時! 民を護れ! 壁となれ! 血となれ! 肉となれ!」
「「「イエス! エンプレス!」」」
兵士さん達が巨大な盾を持ち、一般人の前に躍り出て盾を構え、学園内の出入り口は人間で作られた堅牢な鉄の壁が出来上がりました。
「私だけ除け者にして皆だけで魔王相手に戦おうなんてやるじゃない! ロイヤル放置プレイね! グッジョブよ! あのおじさんが来てくれなかったら気付きもしなかったわ」
「お久しぶりですエミアリアお姉さん」
「相変わらずだな。我が妹よ」
「ガデュレリウス、ファビリル本当に久しいわね。貴方達がいない間ルベルを好きなだけ独占して主従関係を結んだわ」
「記憶を勝手に改竄しないで頂けますか? 僕がいつ貴女と主従関係を結んだって言うんです!?」
「そんな! あんな激しいスパンキングを忘れたの? 私のケツを思いっきりぶっ叩いてくれたじゃない」
「ルベルお前マジか」
「ルベル兄さん……」
「勘違いしないで下さい! あの時は切羽詰まってて仕方なく彼女のお尻を1回叩いたんですよ! 主従関係なんて結んでません! いい加減にしてください姉さん!」
「冗談よ。それより兄弟全員揃うのなんて何年振りかしら」
「そうだな。おっと魔王が再びこちらへ来たぞ。我らの攻撃は一切通用していない様だ」
何やら王族の人達が話しているようです。
魔王が再び立ち上がり、歩いてこちらへ近づいてきます。
そろそろ僕が行くべきだろうか。
そんな事を考えていると肩に何かが乗っかってきました。
「うぉなんだ!?」
「わりぃね嬢ちゃん、ちょっくら協力してくんねぇかい」
「ガヴァルさん!?」
「あいつの至近距離まで近づけるか?」
「多分可能だと思いますが」
「嬢ちゃんなんで素っ裸なんだい」
「いやいやちゃんと乳首と後ろと前の方は隠れてますよ。実はこれはダークネスダイヤモンドと言いまして、錬成するのがすこぶる難しく顔を覆うフルフェイスヘルメットしか満足に作れなかったんです。今も暇を見ては錬成に挑戦しているんですが、これが中々」
「ふーんまぁどんな格好でも良いからよ。頼んまぁ」
「アッハイ、すいません。つい愚痴をこぼしてしまいました。いいですよ、行きましょう。あっ凄い今から眩しくなるんですけど問題ないですよね?」
「おらぁめしいだぜ? 好きなだけ光ってくんなぁ」
「よし、じゃあ行きます!」
僕は蒸着されたダークネスダイヤモンドに魔力を流し込み躰が光に包まれます。
そして魔王と接敵します。魔王が両手で顔を覆い隠すとたじろぎました。
「俺の目ン玉を食ったのは……失策だったな!」
ガヴァルさんがそう言って錫杖を額に覆い隠す手ごと突き刺すと、黒い煙が噴出し彼は錫杖を引き抜き口を開きました。
「嬢ちゃんもういい下がれ!」
「はい!」
僕は魔王から思いっきり距離をとるとガヴァルさんは僕から降りました。
錫杖の先には紅い眼球がぐりぐりと蠢いています。
「な、なんですか……それは」
「こいつが魔王の本体よ」
「この目玉がそうなのか……」
皆が集まり、蠢く目玉に注視しますがすぐに全員僕の方を注視し始めました。
「それよりもレイスさん……その姿は一体」
いつか僕の店でブロードソードを買ってくれた少年が顔を赤らめながらチラ見してくる。
「なんで僕だってバレた!?」
「レイス様のプラチナブロンドの長髪はその……目立ちますので……」
今度はルベル王子が僕の顔をそっぽを向きながら話てくれます。
「ソレイユちゃんの教育に悪いわ! 下の毛丸見えじゃない!」
先程の魔王を殴り飛ばした女性が声を荒げて僕を見ながら右手のスナップを利かせてシッシと虫扱いしてきます。
「違うんです! これには深い訳がありまして」
「全くもおおおお! 人が工房で待ってても人ッコ1人来やしない! せっかくレイスから教わった技術を披露できると思って楽しみにこの日を待っていたのに! なんなのよ! 何の騒ぎよ! さてはあんたらが原因なのね!」
ニーニャさんが怒りながらこちらへ近づいてきました。
「うわっ変態がいる! 校舎に痴女がいる!」
「ニーニャさん変態じゃありません! 痴女でもありません! 僕ですレイスです!」
「すっぽんぽんじゃないの!? どうしたの!?」
「一応大事なところは全部隠れてますよ!」
「いや下の毛丸出しじゃないの。下の毛まで白っぽい色してるのね。――それよりもレイスこの状況は何? 何で大人達だけで集まってんのよ」
ニーニャさんは僕のに近づくと魔王の目玉の側までやってきました。
すると突如として目玉が触手を伸ばし、彼女と同じ背丈になりました。
「何こいつ気持ち悪いわねぇ」
「ニーニャさん危ない!」
『木の棒拾ってー』
「ハイハイ」
ニーニャさんは側にあった木の棒を拾うと、伸びてきた触手を木の棒一本でいなし始めました。
『右左右右左』
「ハイハイハイハイハイ。弱〜VR鍛冶の初級以下じゃないの」
『左左左右左』
「ハイハイハイハイハイ」
『おしまーい、言う事聞いてくれてありがとニーニャおねーちゃん』
「はぁ……あんた、頭上注意したほうがいいわよ」
この瞬間ニーニャさんを除く僕含め全員が空を見上げました。
どこからともなく現れた10メートル程の超巨大な金の延べ棒が空から飛来し凄まじい轟音と共に土煙を上げ、魔王を潰してしまいました。
「ねぇガネーシャ」
『なぁにニーニャおねーちゃん!』
「昔々、おじいさんは洗濯におばあさんは薬草採取にいきました」
『グゥ』
「さてと、で何の話だったかしら? どうしたの皆変な顔して……あっ金の延べ棒は私何も悪くないわよ! 不可抗力だから!」
かくして魔王は皆さんと何も知らないニーニャさんによって討伐されたのでした。




