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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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踏み出す決意

 雪斗達が戻ってきたのはアレイス襲来からおよそ二日後。既にアレイスが迷宮へ入っていると知り、雪斗はギリッと奥歯を噛みしめた。


「ごめん、本来ならこうなる前にどうにかすべきだったのに……」

「まだ最悪の事態に至ったわけではない」


 そう諭すのはジーク。場所は広い会議室で、雪斗以外にはリュシールやシェリス、ナディに加えイーフィスやディーン卿達と、迷宮に入り込んだメンバーが勢揃いしている。

 ただし今回は翠芭達を呼んでいない。ひとまずクラスメイト達のフォローをお願いしたのと、何よりどうするのかをアレイスを知る者達だけで相談しなければならないということで意見が一致したためだ。


「アレイスが迷宮に入り二日……外から計測した結果、まだ最深部に到達し『魔紅玉』を手に入れてはいないようだ」


 ジークの言葉に雪斗は内心安堵しつつ、


「けど、いつ何時それが現実となるかわからない。すぐにでも迷宮内へ踏み込むべきだが……」

「無論だが、戻ってきてすぐである以上、少しは休め……ユキト」


 そのアドバイスに雪斗は黙する。

 昼夜問わず移動し続けたために、確かに疲労が残っている。加え、アレイスにしてやられたという精神的な疲労もあり、雪斗自身、パフォーマンスが落ちていることは明確にわかっていた。


「こちらとしては雪斗達が勝てると信じたため、アレイスの策略に乗ったんだ。そんな状態では迷宮に行かせるわけにはいかない」

「ごめん……なら一日休んで、きちんと体調を整えてから行動開始か」

「ああ、そういうことになる……アレイスの目論見がわかっていないことが何より問題だ。迷宮に入り何をするのか……くれぐれも、気をつけて欲しい」


 雪斗は頷く。これで話は終わりかと思ったが、ジークの話はまだ続きがあった。


「そして、他の来訪者達についてだが……」

「何か懸念が?」

「少なくとも、何もできないことで責任を感じているらしい……城側の者達も決して戦ってくれなどと言っているわけではないし、そこは徹底させているが……生来の気質などもあるんだろう。現状に対し無力感を抱いているようだ」

「正直、そこは仕方がないと思う。前回の戦いは……それこそ、多数の犠牲と引き替えに得られた力だった。あれを強いるのは、いくらなんでも無茶だ」

「そうだな……当然迷宮内へ入れるわけにはいかないため、留守番をお願いするのだが……そちらが迷宮に入っている間、何かしておくことはあるか?」

「いや、変に干渉すると逆効果ってこともあり得るし……ここは申し訳ないがレーネに任せようと思うけど、どうだ?」

「ああ、わかった」

「もう一つ、協議しておかないといけないことがあるわよ」


 と、ここでナディが一つ指摘する。


「最悪のケースを想定するべき……例えばアレイスの部下が城へ来るとか、ね」

「ユキト達が城に入っている間、こちらも戦闘になる可能性を想定しておくべき、というわけだな」


 ジークの言葉にナディは深く頷く。


「正直、どうなるのかまったく予想がつかない……できることなら避けたけれど、犠牲者が出る可能性も、きちんと考えた方がいいわ」

「……そうだな」


 雪斗は同意しながらも苦々しい表情で応じる。


「ジーク、そちらは考え得る最大限の手段で都の防衛の準備をしてくれ。それこそ、邪竜と戦う時のように」

「それを認識して応じるべき話ではあるな……わかった、時間は少ないが、できる限りの備えをしよう」


 ジークの言葉の後、雪斗達は解散する。とにかく体を休めなければ――雪斗はそう思いながら部屋を後にした。






 部屋に戻り、一人窓の外を眺め黄昏れる。一度仮眠をとったため時刻は夕方。眠ったことで体調もだいぶ戻ったのだが、それでも迷宮に入るには足りず、やはり明日を待つしかなかった。


『……ねえ、雪斗』


 そんな中、頭の中でディルの声が聞こえた。


『無茶するのはわかりきっているけどさ、せめて全部自分のせいだと思うのはやめなよ』

「……わかっている、つもりなんだけどさ」


 苦笑する雪斗。


「でもまあ、確かにそうだな……けどディル。例えばクラスメイトの誰かに犠牲が出てしまったら……それはきっと、この世界のことを知る俺の責任と言えないか?」

『それはさすがに無理矢理じゃない?』


 と、そこでノックの音が。雪斗が声で応じると扉が開き、レーネが姿を現した。


「ユキト、食事の時間だが」

「わかった……どうした?」


 難しい表情をするレーネに問い掛けると、


「そちらこそどうしたんだ? 顔が怖いぞ」


 指摘され、雪斗も気付く。心なしか表情に力が入っていた。


「……明日の戦いに対し、緊張しているのかな」

「無理もないが……食べられるか?」

「病気じゃないから問題ないよ。行くか」


 部屋を出ようとする――と、レーネの背後に新たな来訪者が。


「あ……」

「翠芭? 何か用?」


 目を丸くして雪斗が尋ねると、彼女はやや戸惑った表情で、


「あー、えっと。夕食の時間だから呼ぼうと思って」


 今までそんなことはなかったのだが――言及しようとした時、レーネの小さな呟きが聞こえた。


「そうか、踏み出す決意をしたか」


 すると彼女は突如雪斗に背を向け、


「私は呼びに来ただけだから失礼させてもらう。スイハ、ユキトを頼んだ」

「は、はい」


 レーネが立ち去る。そして残された雪斗と翠芭は少しの間黙った後、


「……行こうか」

「うん」


 両者は歩き出す。何気なく雪斗が翠芭の横顔を窺うと、何か緊張した面持ちだった。


 どうしたのかと問いたかったのだが、雪斗としてはその雰囲気に圧され、口に出せない。と、ここでディルの声が聞こえてくる。というか、声を押し殺して笑っている。

 彼女も翠芭の行動がどういうものなのか理解できているのか――わかっていないのは雪斗だけ。


 ディルに質問してみれば答えが返ってくるのかと思ったが、さすがにこの場で会話をするのは難しい。

 これはどうすべきなのかと多少なりとも困惑していると、一瞬翠芭が雪斗の方へ首を向けた。


「あ……」


 目が合う。なんとなく雪斗が立ち止まると、彼女もまた歩みを止める。


「何か、あったか?」


 雪斗は先んじて声を上げる。翠芭はそれに対し口をつぐんだ。そこで雪斗は悩みがあるのなら、相談に乗る――と言おうとした矢先、


「……あのね、雪斗」


 意を決したように、翠芭は口を開いた。


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