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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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不可思議な迷宮

 店内に足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような魔力を感じ取り雪斗は目を細める。


「これは……」

「普通の魔法店ではないわね」


 リュシールがコメントする間に雪斗は室内を見回す。

 品揃えそのものは、他の店と大差はない。しかしそういった品々が現在感じ取っている魔力を発することはできない。つまり、異常というわけだ。


 なおかつ店員らしき人物がいない。どこかに隠れたか、それとも――


「たぶんだけど、当たりだと思う」

「私も同感」


 雪斗の言葉にナディが続く。


「どう考えてもおかしい……で、リュシール様が察知した怪しい場所は?」

「この下に間違いなく地下空間が存在しているけれど……これは……」


 口元に手を当てながら話すリュシール。その表情は幾分厳しい。


「ともかく、先へ進みましょう。おそらく奥に下へ行くことができる道があるはず」

「肝心の魔力を遮断する物については?」

「地下空間にはあるみたいね」

「なら調べよう……ただ、さすがにこれほど怪しい場所があるんだ。城側へ連絡しておこう」


 リュシールが使い魔を用いて城へ連絡を行う。これで大丈夫ということで奥へと進もうとしたのだが、


「ここで見張る役と地下に入るとで二手に分かれよう。人選はこちらでしてもいいか?」


 雪斗の問いに誰もが頷く。よって、


「ならシェリスとダイン、ディーン卿達はここで待機して、もし地下から誰かが出てくれば捕まえてくれ。ここに増援が来たら事情を説明してどうするか考えて欲しい」

「その判断はこちらがやろう」


 ディーン卿が述べる。雪斗は頷くと、


「残る面々は地下へ……リュシール、いいか?」

「私の心配はしなくてもいいわよ。そもそも下に行くつもりだったし、私がいなければ地下の案内はできないわよ?」

「そうだな……よし、進もう」


 雪斗、ナディ、イーフィスにリュシール――その四人が店の奥へと進む。リュシールがまとわりつく魔力について調べていると、地下への階段を発見した。


「進むわ……この魔力は迷宮ほどの力はないにしても、警戒に値するものであることは間違いない。気を引き締めて」

「敵はやっぱりアレイスの配下かな……」


 ナディは首を傾げながら呟く。それに応じたのは、イーフィス。


「どうでしょうね。そもそも疑問点が多すぎます」

「まずは地下空間に関する調査ではなく、如月さんがいるかどうかの確認を優先だ。そこだけは間違えないでくれ」


 雪斗の言葉にナディ達は頷き、いよいよ地下へと入る。木製の階段を下りると、少しばかり直進した後、また下り階段を見つけた。


「ひたすら地下へ向かう構図なのか?」

「そのようね」


 リュシールが応じる。彼女は進行方向を見定め、


「多少下った後、少しばかり複雑になるようね……誰が何の目的で生み出されたものなのかわからないのが不気味ね」


 さらに雪斗達は階段を下る。そこから先にあったのは、左右へ伸びる道。なおかつ、石造りの小迷宮と呼べるものが存在していた。


「ここは一体……?」

「誰かが密かに作った地下施設ね。ただ、その目的は不明だけれど」


 雪斗の呟きにリュシールは律儀に応じる。


「石造りの迷宮である以上、間違いなく邪竜と戦うより前に存在しているわね」

「訳がわからないな……城側に調べてもらえば何かわかるのかな?」

「情報が不足しているし、調べるのは後に回しましょう」

「そうだな……で、どちらへ行くか」


 雪斗は左右を見回す。相変わらずまとわりつくような魔力を感じているわけだが、その濃さは左右どちらが多いのか。


「左ね」


 しかし雪斗が何かを口にする前に、リュシールが発言した。


「この魔力がどこから生み出されているのかわからないけれど、左が少しばかり強い」

「滞留している可能性もありそうだけど」

「そうね……ここで魔法を使って調べるから少し待って」


 リュシールは呼吸を整え魔法を行使。その間に他の面々は周囲を見回し敵に備える。

 とはいえ、まとわりつく魔力が多少なりとも不快ではあるのだが、敵意があるようにも感じられない。一体この空間は何の目的で――興味は尽きなかったが、雪斗は首を左右に振る。とにかく優先すべきは――


「……怪しい場所は見つけた。どうする?」

「進む」


 雪斗の決断にリュシールは深く頷き、先導を開始する。それに追随した雪斗達は、石造りの通路をずんずんと進んでいく。

 決して複雑な構造というわけではない。最初に分岐はあったのだが、リュシールが魔法で調べたところによると、片方の道は行き止まりらしい。


 この都に存在する迷宮と比べれば規模はだいぶ小さいため、探索そのものは楽だろう。ただこの場合は敵が深部にいるのなら、十中八九どこかで遭遇することになり交戦は免れない。


「ここの店主がどうなったかも気になるけど……如月さんがここにいるのなら、店主が犯人になるわけだが」

「私達が来るとわかっているのになぜこんなことをするのか……」


 ナディは呟きながら後方を一瞥。


「考えれば考えるほど意味がわからないけど」

「その検証は後に回そう……リュシール、どうだ?」

「いくつか怪しい場所はあるけど、その内の一つに辿り着く……この部屋ね」


 木製の扉が目の前に現われる。雪斗は扉に近づいて気配を探り、何もないことを確認して開ける。鍵は掛かっていない。

 扉の向こうは小部屋。棚やベッドが置かれており、壁際に黒い箱のような物が一つ。


 間近で見れば雪斗にも理解できる。確かに魔力を感じ取る事ができない物。


「……これを開ければいいのか?」

「そうね」


 リュシールの言葉に従い雪斗は箱に近づき手を掛ける。鍵などは扉と同様掛かっていないようで、縁に手を振れ開けることができた。

 その中身は――人が入っていた。それは雪斗にとって見覚えのある顔。


「いた……!」


 静かな寝息を立てて眠る登美子がいた。幸い怪我などもしていないようだ。


「見つかって、これでこの店が主犯だということが明瞭になったけど……目的は何だ?」

「どうでしょうね。ともあれ彼女を保護してからね」

「そうだな」


 雪斗は頷き、登美子を抱える。


「それじゃあ急いで戻ることにしよう――」


 その時、わずかだが部屋内に揺れが生じた。一瞬地震かと思ったが、おそらく違う。


「今のは……?」

「もしかすると、これが目的だったのかもしれないわね」


 リュシールが苦い表情で語る。それと同時、新たな魔力を雪斗は感じ取った。


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