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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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一つの戦いの終結

「……まずは何より、お礼を言わないといけないね。助けてくれてありがとう」


 シェリスの言葉を聞いて、雪斗は小さく息をついた。


「完全に魔神の魔力を消し去ることができたみたいだな……それと、お礼については別にいいさ。もっとも礼を言うのなら、全て終わってからにしてくれ」

「前もお礼を言おうとして、いつのまにか消えていたのは誰?」

「うっ」


 雪斗は小さくこぼす――どうやら彼女もまた邪竜との戦いで置いていった事を根に持っているらしい。


「し、仕方ないだろ……俺としてはどう考えても連れて行くことはできなかったさ」


 雪斗の言葉にシェリスはじっと視線を合わせていたが――やがて、


「ま、ユキトが言いたいことはわかるからこれ以上の言及は控えるよ。それで、今回のことだけど――」

「まずシェリスが悪いわけじゃない」


 雪斗は告げる。


「今回のことでシェリスに何かしら罰を与えるとか、そういうことは一切ない。というかそっちは罠に掛かったわけだし、俺達が何をするというわけでもないだろ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」

「何か負い目があるのなら、以降の戦いで少しでも協力してもらえればいいさ」

「わかった」


 決意に満ちた瞳。それは明確に雪斗に全面協力しようとする意思。


「黒の騎士団の活動再開かな」

「……俺は解散を言い渡したはずなんだけどな」

「なら改めて再結成する?」


 そう述べたのはナディ。


「名前も黒の騎士団改め、黒白の騎士団はどう?」

「……どうするかは今後の話し合いで決めるとして、だ」


 雪斗は周囲を見回す。遠方にはまだ魔物が残っていて、ディーン卿達が交戦している。


「残っている魔物を掃討しよう。司令塔とも言うべきシェリスが解放された以上、撃破はそう難しくないはずだ」

「そうだね……さっさと倒そう」


 シェリスの言葉はどこか刺々しいもので、操られていたことについて少なからず怒りを抱いている様子。

 まあそれは仕方がないか――そんな風に雪斗は思いながら、仲間達に告げた。


「戦いの総仕上げだ。ただ魔物相手だからといって気を緩めれば怪我をする。最後まで全力で……邪竜との戦いでも常々言っていた。それをきちんと心がけ、戦い抜こう――」






 魔物の掃討は、戦場を離脱する魔物などの存在もあって完全に滅するまでは時間を要した。とはいえ雪斗達の尽力により夕刻になる頃には全て撃破し、騎士達の歓声がやや遠方にいる雪斗の耳にも響いた。


「終わったわね」


 ナディが近寄ってきて告げる。雪斗は一度頷き、


「シェリスをどうにか無事に救えたことは大きい……が、今後こうした形で敵に操られる仲間が現われれば、アレイスの思うつぼだな」

「そこは別に対策を立てないといけないわね。リュシール様は何か言っていた?」

「最後にあったのは状況がわかっていない時だったからな……大陸の状況を見て対策の一つも立てているかもしれない。一度話がしたいな」

「そう。ところでユキトはこれからどうするの?」

「大きな戦い終わったわけだし、ひとまず城に戻ってアレイスの出方を窺うとするよ。もしかしたらリュシールが手がかりを得ているかもしれないし」

「そっか。なら私はどうしようか」

「シェリスを救う意味合いもあって、協力していただろ? 目的は達成したし、一度国に戻っても――」

「そうはいかないわね」


 と、ナディは意味深な笑みを浮かべた。


「それに、もう一つ……召喚者達とも色々話をしてみたい」

「それは軍事的な意味で? それとも単なる興味か?」

「両方。迷宮攻略をする場合は大なり小なり彼らにも協力してもらう必要があるでしょ? なら少しでも交流を持って、なおかつ指導とかしてあげられないかなと思って」


 指導――つまりナディが戦い方を伝えるということか。


「迷宮を攻略するための処置となれば、ナディだって大変じゃないか?」

「大丈夫よ。前の戦いで結構慣れた」


 肩をすくめるナディ。そういえば前回召喚された面々はナディを始めとした王族の霊具使いとも面識があり、共に鍛錬のために剣を振っていたことだってある。

 ナディは再びその役目を担おうとしている――それは彼女だけの話ではないだろう。間違いなくシェリスやイーフィスもまた協力する意向を示すはずだ。


「……正直、俺としてはクラスの皆を戦わせたくはないと思っているけど、さすがに無理な話か」

「霊具を持った以上、覚悟はできていると私は思うけど」


 ナディの指摘に雪斗は俯き、


「俺一人でどうにかなる……なんて馬鹿なことを考えているわけじゃないけど、なんとかならないかと思うことはあるな」

「一人で背負いすぎなのよ、ユキトは」


 そんなさらなる言及に雪斗は苦笑するしかない。


「邪竜との戦いが激しかったことで、ユキトはできることなら悲惨な戦いを経験させたくないと考えているんだろうけど、私としては彼らの協力がなければ犠牲が大きくなるとは思っている……不本意ではあるけど」

「本当なら、こちらの世界にいる人々で決着をつけたい、と」

「そうね……でも、相手がアレイスであるなら、あらゆる可能性を想定して戦わないといけない」


 そんな言葉と共にナディは厳しい視線を投げる。

 相手が以前の仲間――それだけでなくアレイスの目的すらわかっていない状況。邪竜の力を得て動き始めている彼を止めるには、相応の力が必要となる。


「ユキト、一ついい?」

「何だ?」

「私なんかより、ユキトはアレイスと仲が良かったはず……彼を目の前にして、戦うことはできるの?」

「アレイスは、あの戦いで死んだ」


 ユキトは明言する。


「今動いているのは、魔神に体を乗っ取られた存在であって、アレイスじゃない。彼の記憶が残っているからといって、あれがアレイスそのものだと認識するのは間違っている」

「そっか……アレイスは表舞台に出てくるかな?」

「俺の力を目の当たりにしている以上、直接戦うかどうかはわからないな。けれどもし前に出てきたのなら……それはきっと策略が完了したことを意味する。だから裏で動いている間に、仕留めなければならない」


 今回の戦いでアレイスの動きを捉えることがほとんどできなかった。リュシールが動いているにしろ、魔神の力を持つアレイスを見つけられるかどうか。


「今後は魔神の魔力を取り込まないよう対策するのと、一刻も早くアレイスの居場所を特定すること、だな。俺を含めクラスメイトの帰還については、後回しにするしかない」

「迷宮攻略はまだ先かな?」

「あれこそ最大の難関だけど……な」


 雪斗は頭上を見上げる。少しずつ赤い空が黒く染まっていく。

 それを見ながら雪斗は歩き出す。進行方向からは、騎士達の歓声が聞こえ続けた。


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