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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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再会

 魔法陣を破壊し始めておよそ十五分後、イーフィスが捕捉した箇所を全て周り、破壊に成功した。


「気配は途切れました。おそらく魔物の生成も止まったはず」


 雪斗とナディはディーン卿達の所へ戻ると、イーフィスが開口一番そう告げた。


「ディル、そっちは何か感じるか?」

『魔物の動きが鈍っているね。魔法陣は命令とか発する役割だってあったのかも』

「いけそうだな……ディーン卿」

「問題ない」


 そう答えた彼は出力の変わらない無数の刃を放つ。ゼルもまた青い刃を拡散し、二人の動きは戦闘開始直後と何ら変わりがない。


「とはいえ、ここからが問題だ。シェリス王女はこの状況を把握しているはず……私達を狙って攻撃してくる可能性は高い」

「そこは俺とディルが常に観察しているよ……動きはあるか?」

『現時点ではなし。というか、動かないつもりかも』

「どういうことだ?」

『奥へ進めば進むほど魔力が濃くなっている……たぶん自分が立つ場所を中心に、色々と魔法を仕込んでいるのかもね』

「準備は万端というわけだな……さて」


 雪斗は目を凝らし最奥を見据える。徐々にシェリスの気配が濃くなっていく。


「ディーン卿、どこかのタイミングで二手に分かれよう。俺とイーフィス、ナディがシェリスと対峙し作戦を遂行するから、二人は退路の確保を頼む」

「わかった……無理はするなよ」

「ここで無理しなきゃいつ無理するんだよ」

「……ユキト殿もまた、この戦いに欠かせない存在だ。仲間も待っていることだろう。だから、無理はするな」


 念を押すような口調だった。邪竜との戦いで幾度となく雪斗の戦いぶりを見たが故の、助言。

 雪斗前回召喚された際に死力を尽くし、それこそ命を賭けるような戦いだって経験した。だからこそディーン卿は助言する――


「……ありがとう、ディーン卿」

「ナディ様やイーフィス様も、絶対に無理はなさらず」

「わかってるわ。でもまあ、ユキトの主張も理解できるけどね」


 呟きながら両の拳に力を入れる彼女。


「もう少しで分かれましょう。あまり近づきすぎるとディーン卿が標的になりかねない」

「俺のタイミングでいいか?」

「ええ、私は構わないわ。イーフィス、遅れないようにね」

「わかっていますよ」


 やり取りを挟みながら雪斗達は進んでいき――シェリスの存在が目視できる距離にまで到達した。

 魔物の群れの中にいる彼女は、以前見た時と何ら変わらない姿――雪斗は一瞬懐かしさがこみ上げ、それをすぐに振り払う。


「……行こう」


 雪斗の小さな号令。それにより二手に分かれ、雪斗は魔物へ向け剣を薙いだ。

 風をまとわせた斬撃が、真正面に炸裂する。それにより大気が弾け、目の前の魔物達が吹き飛んでいく。


「ご武運を」


 ディーン卿がそう声を上げると同時、雪斗達は三人がまったく同じタイミングで走り始めた。そして雪斗を先頭にして、シェリスが待つ戦場最奥へと突撃する。

 さすがに魔物も黙ってはいないが、雪斗はその全てを例外なく一蹴する。ナディもまたすれ違いざまに殴打や蹴りを放ち魔物を吹き飛ばし、イーフィスも光弾や炎で魔物をいなし、滅していく。


 見た目的に決して派手さはない。けれど雪斗達の攻撃はその全てが魔物を平等に滅するだけの威力を持つ。力を必要最小限に敵へと振り向け、群れの中を縫うように進んでいく。

 そしてシェリスの姿を改めて確認し、俯いていることがわかる。それと同時、雪斗は邪竜との戦いの一つ、ファージェン平原の戦いを思い出した。


 あの戦いは激しく、雪斗とシェリスがいなければ間違いなく崩壊していた厳しいものだった。その時の彼女の戦いぶりは、まるで舞いを思わせる優雅なもので、それでいて魔物を圧する恐ろしさがあった。

 そうした彼女が今は敵となっている――幾度かぶり返す懐かしさを押し殺し、雪斗は彼女を見据えながら駆ける。


 そして、


「……辿り、着いた」


 ナディが呟く。魔物達を突破し、とうとうシェリスが立つ場所へと到達した。

 彼女の周囲、半径十メートル前後には魔物はおらず、まるで魔物達が彼女を避けるように布陣していることがわかる。そして当のシェリスはなおも俯き、まるで雪斗達に気付いていないかのような素振りだった。


「……シェリス」


 雪斗が名を呼ぶ。すると彼女はゆっくりと顔を上げた。


「――ああ、久しぶり、ユキト」


 そうして告げた言葉は前と変わらぬものであり、また同時に本当に魔神の魔力に侵されているのか、疑ってしまうほどに明瞭なものだった。

 けれど雪斗は、そうした感情を表に出さぬまま、告げる。


「……こうして俺達が来たってことは、わかるよな?」

「うん。私を……討ちに来たんでしょう?」

「この暴挙を止めるために来た……止めに、来たんだ。殺そうとするわけじゃない」

「甘いよ、ユキトは」


 シェリスは身じろぎする。同時、その体から魔力が――魔神の魔力が入り混じった力が、露出する。


「完全に魔神の魔力が浸透しているわけじゃない。元に戻せるかもしれない。でももう、限界が近い」

「……魔神の意思に抗い、ずっとこの場に立っていたのか?」

「もしユキト達の顔を見てしまったら、きっと私は無我夢中で仕掛けていたと思うから」


 苦笑めいた表情を出す。けれどそれと共に生じる黒い力は、あまりに異質だった。


「こうして顔を合わせて……思ったよりも心が揺れ動かなかった。けれど同時に思ってしまう。ああ、もう終わりなんだな、と」

「終わり……それは自分の命が終わる、とでも言いたいのか?」

「ううん、私かユキト達か……どちらかが死なない限り、この戦いは続く。だからもう、この関係は終わりなんだって」

「終わりはしないさ」


 雪斗が力強く言う。


「終わらせない……シェリスを必ず救う」

「そっか。ユキトはまったく変わらないね……けどどこか、陰もある」


 それを聞いて、雪斗もまた苦笑した。


「こっちも、元の世界に帰って色々あったからな」

「そう……それについてじっくり聞きたかったけれど、さすがに難しいかな」

「この戦いが終わって、アレイスとの戦いが一段落したら、話してもいいぞ」

「この戦いが無事に終わるなんてことがあるのかな?」

「そうなるさ……そうしてみせる」


 雪斗の言葉にシェリスは苦笑を微笑に変えた。


「そっか……覚悟は、できているんだね?」

「元よりそのつもりだ」

「ナディも、同じ意見?」

「私はあなたを救いにここに来た」

「私も同じく」


 イーフィスが続く。気付けば――異質な魔力の中で、黒の騎士団として、戦友として共に戦っていた時のような空気が生まれていた。

 けれど、それを魔神の魔力が邪魔をする。荒れ狂う力をシェリスは抑えようとしているようだったが、それより先に暴虐のような魔力が周囲を包み、空気を震わせる。


「……救ってみせる」


 雪斗の静かな宣言。それにシェリスは笑みを絶やさず――やがてその体が黒に包まれた。


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