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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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屋敷の主

 そうして雪斗達は、ディーン卿の屋敷へと辿り着く。周囲に人影はなく、また屋敷の中から物音などが聞こえることもない。


「ずいぶんと上手く気配を隠すじゃないか」


 ダインが告げる。雪斗は屋敷周辺を見回してから、


「ディル、屋敷の中か?」

『気配はあるね。けど罠の類いはないよ。魔力が少ないし』

「よし……では、お願いします」


 雪斗は後方の騎士達に告げる。彼らは応じると、まず既に展開していた魔術師達が魔法を行使し、屋敷を覆う結界を形成した。

 次いで霊装騎士団が雪斗やダインと共に屋敷入口へと近づく。中で待ち構えている可能性も考慮しながら、慎重にゆっくりと屋敷へ歩む。


 そうして玄関扉の前に到達し、雪斗は中の気配を探った。その時、


「……ちょっと、待て」

「どうした?」


 ダインの問い掛けに雪斗は応じないまま、じっと屋敷を見据える。

 霊装騎士団が立ち尽くす雪斗に視線を送る中、雪斗は先頭に立って玄関扉のドアノブへ手を伸ばした。


 すると、簡単に開いた……不用心にもほどがあると思いながら雪斗は扉を蹴って中を確認。

 魔法の照明すら一切存在しない空間がそこにはあった。気配どころか物音すら何もない。荒涼としたエントランス。


 それを見て、雪斗は察した。


「そういうことか……!」


 雪斗は即座に走り出す。思い切った行動に霊装騎士団を始めとした突入組は、困惑の色を見せる。


「おい、ユキト!?」


 ダインもまた驚き声を上げながらついてくる。警戒もせず突き進む雪斗に対し、全員が驚きながらも追随する。

 やがて辿り着いた一室は、ディーン卿の書斎。そこに魔力が存在し、屋敷の中でもっとも警戒すべき場所だった。


 けれど雪斗は何の躊躇いもなくそこを開けた。中には、誰もいない。


『雪斗、机の上に』


 ディルの指摘により机に近づくと、そこに手のひらに乗るくらいの大きさを持った紫色の水晶球が二つ。


「……ディーン卿とゼルの魔力を感じるな」

「ちょっと待てよ、つまり、俺達を欺いていたってことか?」


 ダインの質問に雪斗は頷く。


「そうだ……ダインがいる以上、俺がここに来ることは確定だった。なおかつ気配を漂わせてこの屋敷へ来るよう誘ったわけだ」

「……おいユキト。これを確認するために入ったのはいいが、まずいんじゃないか?」


 ダインがさらに問い掛ける。


「下手すると、ディーン卿の置き土産とかが……」

「それはないよ。ディルが確認してる……問題は、ディーン卿達がどこへ行ったのか、だが」

「可能性は、一つしかないでしょうね」


 霊装騎士団の一人が深刻な顔つきで述べる。それに雪斗は首肯し、


「急いで戻る……が、果たして間に合うのか……どうやら俺の思惑とは関係なく、戦いに巻き込まれてしまうみたいだな――」



 * * *



 翠芭(すいは)達の周囲に異変が生じたのは、三度目の魔物討伐を終わらせた後。時刻は昼前、食事のために戻ろうとして転移魔法陣で城へ戻った時だった。


「……え?」


 すぐに異変を察した。城内の入口近くに存在するこの転移部屋の入口が、騎士団によって封鎖されている。

 しかも彼らは重々しい表情で外の状況を窺っていた。


「どうした?」


 レーネが近寄って彼らに訊く。すると、


「……城内に、賊が侵入したようです」


 まさか――と翠芭は思い、この場にいないクラスメイトの安否が気になった。


「賊? どんな相手かわかるのか?」


 さらにレーネが尋ねると、騎士が表情を硬くし、


「あくまで報告で上がってきた情報ですが……ディーン卿ではないかという話が」

「何……!?」


 驚くレーネ。だが少しして彼女はどこか腑に落ちたような表情となった。


「……例えば、都へ予め入っておいて、ユキト達がいなくなったタイミングで仕掛けた、と考えるべきか」


 現在ユキトとリュシールは外に出て、なおかつ霊装騎士団の多くが周辺警備のために城外に出ている。その霊装騎士団についてはあくまで城外の警備を行っているだけで、実際レーネが騎士と話をする間にも霊装騎士団が帰還し、情報を共有しようとしている。


「その目的は霊具か、それとも陛下か……」

「あの、レーネさん」


 翠芭が口を開く。そこでレーネと話をしていた騎士が口を開いた。


「召喚者の方々は全員結界避難所にいると。なおかつ陛下も同様です」

「そうか。ならばひとまず安全だな」

「結界……避難所?」


 首を傾げたのは信人(のぶと)。そこでレーネは説明を加える。


「この城は迷宮に近いため、城を襲撃される可能性もあったし、実際そうした戦いもあった。そこで城には結界で構築された避難所がいくつも存在している。もし襲撃があった場合、速やかにそこに避難し、内外を分断する」

「その結界が壊される可能性は?」

「邪竜の部下の攻撃をも平然と防ぐ強度だ。城に存在する魔力をフル活用した技術であるため、結界を壊す場合は城そのものを壊すくらいの勢いじゃないと破壊はできない。いくらディーン卿が特級霊具所持者だとしても、さすがに結界そのものを破壊できる力は魔神の力を得ても無理だろう」

「ということは、今の状況は――」

「結界内にいればひとまず攻撃を受けることはない。だが襲撃者を倒して安全を確保しなければ出られないのも事実だ。よってこの場にいる騎士達で、ディーン卿を倒す必要がある」


 特急霊具使いを、倒す――レーネの表情はそれが難事であると克明にわかる。そしてまた同時に、翠芭達をどうするか悩んでいる。


「――戦います」


 そこで翠芭が先んじて口を開いた。


「私も、やります」

「……助力、ありがとう。そしてこういう形で戦うことになって、すまない」

「敵が待ってくれるわけでもないし、仕方がないと思うぞ」


 信人の意見。それに賛同したのが千彰(ちあき)


「遅かれ早かれこういうことになっていたんじゃないかと思うよ」

「……全員、覚悟はあるようだな。わかった。とはいえ君達だけで行動するようなことにはならない。基本私達騎士が先導する形をとるから、そこは安心してくれ」


 そう告げたレーネは騎士達へ告げる。


「行くぞ。ディーン卿を倒し、騒動を収束させる」


 彼女の言葉に騎士達は応じ、また後方で帰還してきた霊装騎士団達も深々と頷いた。


「扉越しに気配を探ったところ、まずエントランスに魔物がいます」


 騎士はさらに解説を続ける。


「どうやら城内に魔物を配置しているようで」

「わかった。ならば二手に分かれよう。君達が事情に詳しそうだから、帰還してきた騎士達に状況を説明してくれ」

「わかりました」

「私達や帰還した霊装騎士団の面々は、このまま外に出て交戦を開始する……いいな?」


 レーネの言葉に誰もが頷く。準備は整った。

 こうしている間にも霊装騎士団が転移魔法陣から出現する。誰もが状況を尋ね、即座に戦闘態勢を整える。


「魔物を発見したら即座に倒す。そして気配を探り、ディーン卿を倒す」


 レーネは明言と共に扉を前にする騎士に目配せをした。彼は頷き、扉を開けていく。

 緊張の一瞬。翠芭は剣を構えエントランスを見据え――真正面に、悪魔の存在を認めた。


「行くぞ!」


 叫ぶと同時、翠芭達は走り出した。レーネとマキスが先陣を切り、悪魔を屠っていく。

 それに追随する翠芭達。魔物討伐により馴染んだ聖剣は、易々と手近にいた悪魔を瞬殺した。


「その調子だ。エントランスの敵を平らげ、上へ向かうとしよう」


 レーネが告げると同時、悪魔達が一斉に翠芭達へ視線を送る。とはいえ一切不安はない。

 敵が一斉に襲い掛かってくる。それと共に、翠芭達もまた立ち向かうべく、足を前に出した――


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