始まり(後編)
男性はすれ違うトラックを見てまずい、と直感した。魔物がいる方向である以上、どうなってしまうのか。
ただ、警告なんてものもできない――そう考えた矢先、急ブレーキ音と共に何かが激突したような轟音が響いた。さっきの怪物と衝突したのだ。
男性はそこで道沿いに存在する一件の飲食店を目に留め、建物の前にある駐車場に車を停めた。店はどうやら営業していないようで、扉は閉め切られ周囲に人影はない。
そこでスマホを取り出した。警察へ連絡し、トラックが何かに衝突した音が、という胸を告げる。ただ自身の車に関することは何も言えなかった。というより、どう説明すればわからなかった。
先ほどの怪物は、何だったのか――男性は恐怖を抱きつつ、ここで車を走らせるか戻るべきなのか迷った。様子を見に行った方がいいのではないか。そして、さっきの怪物はどうなっているのか。
トラックと激突して死んでいるのであれば、解決――というわけではないが、少なくとも脅威は去った。音もしていないし、確認するのは問題ないのではないか。
そんなことを男性は思ったが、進むも戻るもできなかった。様子を見に行きたいという考えはあるのだが、さすがに戻ることは躊躇う。かといって予定通り車を走らせるのも怖かった。このまま進んでも、似たような怪物が現れるのではないか――
散々迷っていた時、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。通報してもう来たのか、と最初考えたが巡回していたのかもと男性は考えた。
パトカーは男性の車を通り過ぎようとしたのだが――突然急停止して、飲食店の敷地へと入ってきた。
次いで乗車した状態で窓を開ける。男性もまた窓を開けると、警察官が声を掛けてきた。
「――どうしたんですか、その車は」
どうやら後方にある損傷を見て声を掛けてきた。男性は説明しようとしたのだが――どう語ればいいのかわからず、
「あの、その……自分の車もそうなんですが、私の車とすれ違ったトラックが事故か何か起こした音がさっきありまして。通報はしたんですが」
「……わかりました。そちらを優先的に確認した方がよさそうですね。あの、申し訳ありませんがここで待っていてもらうことはできますか?」
「はい」
承諾すると警察官はパトカーを走らせる。男性はここで大きく息をついた。
「……何だったんだ、一体」
先ほどの光景を思い出し、呟く。それが現実であることは自分の車が損傷していることから確かである。
だが、例えば誰かに説明して信じてもらえるのか――そこから、車の修理とかどうすればいいのかなど、色々なことを考え始める。
そういった思案はさらなるパトカーが接近したことで終わりを告げる。無線か何かで事前に情報を得ていたらしいその警官は、車の損傷具合を見てドライブレコーダーを確認させて欲しいと告げた。
男性の車には後方を撮影するドライブレコーダーがあったため、男性はそれを承諾。記録媒体の提出を行った。
警察官は、実際の映像を見た時どう考えるのか――男性は気になりつつ、警察官へ尋ねる。
「あの、私はどうすれば……?」
「……事故については私達が対処します。あなたについても可能であれば事情を聞きたいのですが」
(……怪物に襲われたと説明するしかないけど……)
男性は胸中で呟きつつ、それにも承諾することとなった。
そして――男性が自分の身に起きた出来事が様々な場所で現実に起こっているのを知ったのは、家に帰った時だった。
ニュースでは、男性が見たような怪物があちこちで目撃され、メディアでも報道されていた。
そうした光景を見た男性は絶句し、自分もまた怪物に襲われたのだと改めて認識。そこで、政府が見解を示した。
――怪物は数ヶ月前に発生した光り輝く樹木の影響によって生まれた存在。政府は異形の存在を『魔物』と呼称し、現在は対策を検討中とのこと。
それに加えてどこに発生するかは現時点で不明。極めて危険であるため見かけても近づかないということを語っていた。
――当然、メディアを含めどういうことなのか説明を求めた。そもそも光り輝く樹木に関しても依然不明だ。関連性があるとはどういうことなのか。そして魔物は一体どういう存在なのか。
男性はきっと、メディアはこぞって魔物について調べるため手を尽くすだろうと思った。だが同時に、極めて凶悪な存在である以上、下手すれば犠牲者だって出かねない。
それは政府側も認識しているのか、メディア側に魔物の調査については自制するよう言った。近づけばどうなるかわからない。最悪の事態を避けるため、政府が調査を行うと。
もちろん、それで納得するメディアは少ない――男性はスマホを手に取る。SNSではどういう評価になっているのか。遭遇した魔物を思い起こしながら、男性は魔物について意識を没頭させていった――




