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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第八章

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最後の仕込み

 ――とある郊外、住宅地に程近い森の中で、カイは一人行動していた。夏らしい軽装であり、町中にいれば目立つことはないが森の中を歩くにはずいぶんと目立つ。

 とはいえ周囲に人がいないことはカイも確認済みであるため、周囲など気にせず歩を進めている。


「……しかし、ずいぶんとユキト達は先に進んでいるな」


 ふいにカイは呟いた。ここには彼以外いないし、ついでに言えば邪竜――リュオもいないため、完全な独り言だ。


「思った以上に凶悪な施設を作り出した……いや、あれは避難場所にすることを想定している? あるいは、仲間達以外の人を呼ぶためのものか」


 ――カイは魔力樹を通してユキト達がここ数ヶ月何をしていたのかをある程度調べていた。その結果、彼らは魔力樹の魔力を利用して施設を建造したことが判明。魔力樹の魔力を利用した霊具の開発以外にも、大がかりな拠点によって仮に魔物が現れても対応できるように――魔力樹の魔力があれば大規模な転移魔法だって利用できる。そうしたものを使い、魔物が出現しても対応できるということなのだろう。


「ユキト達は後手に回るしかない。そう僕らは考えてあれこれ動いてきたけど、ここについては一枚上手だったかな」


 まさか拠点を作り替えカイや邪竜の動きに対応する――というのはあったとしても、その作業時間などがどうしても必要になるため、そこまでの行動はしないだろうとカイは考えていた。

 だが、リスクをとっても彼らは実行した――自分が裏切ったという点も関係しているだろうとカイは考えている。そこまでしなければならないという判断だったのだろう。


「ただ、他にも何かやっている雰囲気があるけれど……」


 しかしカイはそれ以上の情報を得られずにいた。魔力樹近くにある建物の中を調べることはできず、セキュリティについてはほぼ完璧であった。

 それに加え、彼らは他にも何かをやっているという確信があった――詳細まではわからない。ユキト達が何をしているか調査しようにも、さすがに故郷の町へ赴くことは難しい。そんなことをすれば当然、自分の居所がバレてしまう。


 バレてしまうだけなら逃げればいいが、もしカイ自身が気付かぬうちに見咎められたら、最悪邪竜の潜伏場所まで見つかる可能性がある。よって、調べられるのは魔力樹を通した範囲でのみ。


「僕らの方も、心構えはしておいた方がいいな……これからやる仕込みだって、ユキト達にあっさりと対処される可能性がある」


 だが――と、カイは考える。仮にそうだとしても、ユキト達を揺さぶる効果はある。


「ま、僕らの目論見が看破されない限りは問題ない……ユキト達は思惑を推測していたとしても、対策できないように僕らが立ち回ればいい」


 そう呟いた時、カイは目的地に到着した。そこは森の中に存在する空き地。草もロクに生えていないような場所で、誰かが来訪するようなこともない。

 そんな空間において、カイは口の端に笑みを浮かべた。この世界の人には決して見えない、霊脈への道が見えていた。


「さて、仕込みはこれで最後か……ユキト達も相応の策を講じているけれど、こっちも予定通り進めてはいる……この策が成功するにせよ、失敗するにせよ……最後は僕らが勝利する」


 カイは地面に手を当てた。同時、自身の魔力を地面へと流す。途端、ほんの僅かだが地面が揺れた――が、局所的なものであるため、その変化に気づけたのはカイだけだ。


「これで、ようやく……か」


 カイは天を仰いだ――これまで、ユキト達を裏切って以降、邪竜と共に活動を続けてきた。

 魔物を出現させるための準備は魔力樹によってできた。しかし、最後のもう一押しが必要だった。


 このまま時間が経過すれば魔物は出てくる。だがそれは所詮、魔力樹という新たな自然の摂理に伴う現象でしかない。

 それはつまりカイ達の手駒にならないことを意味する――無論、それだけでもユキト達、ひいては世界各国には大きな効果がある。どの国も魔物の対応に追われるだろう。しかし超常的な存在である魔物には、いかなる軍隊も通用しない。だが、自身の望みを叶えるためにカイは仕込みを行った。


 既に大陸にも魔力樹は芽吹き、魔物の出現は連鎖的に世界を覆うことになる――それに伴う出来事は、この世界の人類に大きな傷を負わすことになるだろう。

 だからこそカイ達が暗躍し、望みである支配ができる土壌を生む。


 カイは自身が仕込んだ魔力が地中で鳴動しているのを確認する。後は処置など必要ない。もうこの場にいる意味などないとして、カイは身を翻し歩き出す。


「……ユキト」


 そうした中、頭の中に浮かんだのは魔力樹の下で戦った仲間の存在。邪竜を倒すために共に戦った、親友と言える人物。


「こちらは準備が整った……ユキト達はどうだ? どこまで僕のことを想定している?」


 一度だけ、ユキトだけでなく異世界で共に戦った仲間達の顔が浮かんだ。加え、その先には――異世界で心の支えになっていた存在、エリカのことも思い出した。


「彼女は今どうしているのか……勘が良いし、ユキトから事情説明を受けているだろうから、きっと僕が世界を乱そうと考えているのはわかっているはずだけど」


 だが――もう止めることはできない。ならば、彼女にも納得できる世界を、全てを支配する世界を生み出すことが、今自分にできること。


「始めよう、ユキト」


 最後にカイはそう発し、誰にも見咎められないまま、姿を消した――


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