魔力精査
ユキトは戦う意思を示したエリカへ連絡を行い、まずは調査から始めるということを伝えた。彼女はそれを理解し、ひとまず施設へ赴いてその能力について検証を行うこととなった――
「それじゃあ、始めるか」
施設内の一室。研究室の隣に存在するその部屋は、それなりの広さを持ち、なおかつ予め複雑な紋様の魔法陣が刻み込まれた部屋だった。
壁面や天井は真っ白で、床に存在する魔法陣が嫌に目立っており、この施設そのものに驚愕し、目を見開いたままの彼女が、ここを訪れてさらに驚愕した。
「なんというか……すごいね」
「この世界の人が見たら、なんだこの部屋と思うだろうな」
ユキトが指摘すると、エリカは「そうだね」と同意しつつ、
「そもそもこの施設自体がなんだここ、って思うんじゃない?」
「確かに……この世界ではあり得ない場所に、極めて短期間でこんな馬鹿デカい施設を作ったんだからな」
「これが魔法の力なんだね」
エリカは魔法の力に対し震撼している様子。そんな彼女にユキトはこれが本来の反応なのだ、と胸中で呟く。
(魔法の力に頼り過ぎると、世間との感覚がズレてくるかもしれないな……ここは注意しないと)
ただ、とユキトは思う。いずれ魔物が出現し始めることを考えると、これが常識に成ってしまう可能性もある。
(今後魔法が浸透していくことを考えると……俺達みたいに無茶な建物を生み出すような輩だって出ないとも限らない……色々と対策を立てないといけないのか?)
「ユキト?」
そこで横から声が聞こえた。それは検証を行うイズミのものであり、ユキトは「ごめん」と彼女へ応じた。
「悪い、少し考え事をしていた……気を取り直して始めよう」
その言葉にイズミは頷き、エリカへ話し掛ける。
「それじゃあ、魔法陣の中央に立って」
エリカは指示を受けて頷きながら部屋の中央へ。
「よし、それじゃあ魔法を発動させるね。少し驚くかもしれないけど、害はないから安心して」
そう言いながらイズミは手をかざす。直後、魔法陣が淡く青色に輝き、部屋の中に魔力が溢れた。
魔力は地底に存在する霊脈からのものだとユキトは確信すると同時、エリカの周囲にその魔力が滞留し始める。とはいえ当の彼女は何が起きているのかわからない様子。魔力をまだ知覚できない彼女からすれば、魔法陣が光り輝いて何かが起こっているとしか思わない。
「……ふむ、ふむ」
そしてイズミは何事か呟きながら作業を進めていく――時折何事か呟く程度で、イズミ本人はエリカへ向け手をかざしているだけ。
ただ、ユキトは魔力によってイズミがエリカについて解析しているのがわかる。そうして手をかざすこと、およそ五分。イズミは手を下ろすと、魔法陣の光もまた消えた。
「よし、ひとまず作業完了」
「もう終わったの?」
目を見開くエリカ。ただそれに対しイズミは首を左右に振った。
「残念ながらこれは一工程目。まだまだ作業しなきゃいけないことがあるから、もう少し時間が掛かるよ」
「……私、立っているだけだけど大丈夫?」
「問題ない。むしろずっとその場に留まってもらうわけだから、動き回るよりしんどいかも。椅子とか用意できればいいんだけど、残念ながら椅子を使うとそれによって魔力が阻害されちゃうからダメなんだよね」
イズミはそう言いつつ、部屋の端へと向かう。そこに魔法陣に触れないようテーブルが置かれており、その上に資料があった。ユキトは中身を見ていないが、おそらく今日の作業手順などが書かれているのだろうと予想する。
「使用する魔法の種類を変えて、検査をしていくのか?」
ユキトが問うと、イズミは「そうだよ」と頷いた。
「魔力を精査するためには、いくつもの魔法に加えてこのくらい規模の大きい魔法陣が必要になってくるんだよね」
「……異世界ではここまで大きい魔法陣はあまり見なかったけど」
「あっちでは色々と霊具があったから、規模が小さくても精査はできたんだけどね。人間一人調べるだけでも、霊具がなければこのくらいの準備が必要ってこと」
「……この規模を、霊脈から魔力をもらいながらやるのは元々の組織の建物では絶対に無理だったな」
ユキトの言葉にイズミは「そうそう」と相づちを打ちながら、元の場所へと戻ってくる。
「よし、次の魔法を使用するよ」
「……どのくらい掛かりそうだ?」
「より優先順位が高い精査から進めているけど、それである程度結論が出たら途中で作業は終了するかもしれないね」
「それは……エリカに戦う力が備わっていて、すぐにでも霊具が扱えるから、というのがわかったから、か?」
ユキトがさらに尋ねるとイズミは「そういうこと」と答えた。
「だからエリカ、霊具を扱える才能があることを祈るなら、私の作業がすぐに終わることを祈ってて」
「……さすがに、そんな期待はできないかな」
苦笑するエリカ。彼女としても、戦う意思は示したものの自分自身戦う力はないだろう、という風に考えている様子。
ユキトはエリカはどっちなのか、と内心で考えているとイズミが手をかざす。そして再び、魔法陣が光り輝いた。




