施設の完成
「それじゃあ次は、研究施設に案内するよ」
イズミは言い、ユキトは彼女と共に食堂を後にする。その道中で、
「そういえばイズミ、この拠点は魔力樹を利用した施設……カイや邪竜に悟られない場所の施設については?」
「そっちも建設中。ここまでの規模である必要性はないから、建設の時間はこっちよりも短いかも」
「同時並行でやっているのか……」
「むしろ戦いの重要性だけを言えば、向こうの方が大切まであるからね」
イズミの言葉にユキトは内心で同意しつつ、一つ質問をした。
「なあ、ちゃんと寝ているか?」
「大丈夫大丈夫」
「本当か……?」
「さすがに受験勉強はちょっとおろそかになっているけど」
「……世界が危機的状況なことに加え、いつ何時戦いが始まるかわからないことを思うと、勉強については仕方がない面もあるが、さすがにだからといって割り切るのもどうだがな、って思うよ」
「そういうユキトはいいの?」
イズミが問う。それにユキトは小さく肩をすくめ、
「まあ、なんとか」
「ユキトだって誤魔化すのは良くないよ」
「……魔法を使って色々とやっているからな。あ、カンニングとかではないぞ」
「記憶力を補強している、というわけだね……ま、大なり小なりみんなも似たようなことやっているんじゃないかな」
そう語るイズミは小さく舌を出す。彼女もどうやら同じらしい。
「もし高校生活の面で問題が出てくれば、相談するようにすればいいかな?」
「是非そうしてくれ。世界のことが重要なのは間違いないけど、だからといって個人的なことをおろそかにしてはならない、と俺は思うよ」
ユキトの言葉にイズミは頷く。そうして会話をする間に、研究室へと到達。
中に入ると、机が並び多種多様な器具が置いてある広い空間があった。ユキトは器具の数々を一瞥し、
「これ全部霊具か?」
「そうだね。さすがに資材を位置から調達するにしても、この世界では手に入らないし」
そう語るイズミは満足そうな顔をしていた。
「組織の建物で色々やっていた時でも十分だったけど、ここでなら今まで以上に霊具の作成がスムーズにできると思う」
「それならいいけど……」
「この施設を建設しただけ時間をロスしているけど、それを穴埋めできるくらいにはスピードを上げるから心配しないで」
イズミの表情には自信があった。ユキトはその姿を見て言及はせず、次の部屋へ行くよう彼女へ促す。
そうして施設内を歩き回り、一通り確認する段階ではそれなりに時間が経過していた。
「現状では持て余すくらいの施設規模だな」
「これから人が増えるかもしれないことを考慮に入れると、ある程度は大きめの方が良いと思うよ」
「増える……か。エリカはその一人目になる、のか?」
「どうだろうね……ここでなら、霊具の検証がしっかりできると思う」
「なら、俺から連絡をする……で、いいか?」
問い掛けにイズミは首肯。それでユキトはスマホを取り出す。
「それじゃあ……と、さすがにここは圏外か」
「電波を取り込むことも考えたけど、それを利用して施設内の状況を確認される可能性もあるから最後までどうすべきか悩んだんだよね」
「電波を受信する、というのをオンオフはできなかったのか?」
「それももちろん考慮には入れたよ。でも、霊具でそういうのを操作する場合、その道具を逆に利用される可能性もあった」
「なるほど……最初から遮断した方が安全性が高まる、というわけか」
「カイはこの施設のことに気付いているかもしれないけど、外から確認することが難しい、となれば無理に動こうとはしないだろうし、ね……ただ、完全遮断となったら当然私達も外部から情報を得ることができない。よって、一つ手を講じた」
そう言うと、イズミは一度食堂へ戻る。そこで、大きめのテレビが一つあり、そこへ近寄った。
「これは外部から電波を受信できるようになっている。ただし、送信はできない」
「受信限定というわけか……スマホによる通話はできないけど、テレビを見ることはできると」
「一応、スマホでもメールは送れるよ。ただ、受信できないから相手の返信はここで見ることができないけど」
「……まあ、妥協した結果といったところか。ちなみにだが、電波を送受信できるようには処置できるのか?」
「一応できなくはないかな。施設の仕組みに手を入れることになるから、作業に時間は掛かるけど」
「わかった。ひとまずこの状況で施設を運用してみて、不便に感じたらどうするか改めて検討しよう」
ユキトはそう言うと、一度大きく息を吐いて食堂内を一瞥した。
「施設は完成した……中身はこれからといったところだが、稼働はいつだ?」
「組織の建物から資料などを持ってくればすぐにでも……転移魔法を使えば時間は掛からず引っ越し作業はできるよ」
「わかった。ならこちらに引っ越しを……俺はエリカに連絡をする。早速、霊具の検証から始めよう」
ユキトの指示にイズミは頷き――施設がいよいよ稼働することとなった。




