秘密基地
ユキトが放った剣は、まさしく決着をつけるためのもの。もし失敗すれば相応のリスクを背負うことになる――カイとの戦いを想定するなら、まさしく致命的な状況に陥るかもしれない。
だが、それでもユキトは一閃した――結果、騎士は剣を受けたが完全に防御することはできず、刃が抜け体へと叩き込まれた。
それは、勝敗を決する一撃となる。騎士の鎧が崩れ始め、ユキトは追撃の剣をさらに浴びせ――そこでとうとう、騎士は倒れ伏した。
戦いが終わる。そこでユキトはこれまでにないような充足感を覚えていた。
(……カイ本人ではない。けれど、今までとは明らかに違う戦いだった)
間違いなく、ユキト自身が求めていたもの――そこで、結界が解かれた。魔物が消滅したことで、ソラナ達も構えを解いた。
少しの間、沈黙が生じる。ユキトがディルを鞘に収めた時、口を開いたのはソラナだった。
「どう、ユキト?」
「ああ……今までにないくらいの戦いだった。こうした訓練を積み重ねていけば、カイとの戦いに備えることができるのは間違いない」
「そっか。役に立てられそうで良かった」
「だが、ソラナには結構な負担になるだろ?」
「大丈夫大丈夫。でも、現状では魔力樹の近くでしか実行できないのが痛いかな」
「この場所に訓練施設でも作るか?」
「さすがに目立つような建物は無理じゃない?」
「いや、例えば地下に魔法で設置するとか」
「あー、そういうことなら可能かな……転移魔法で繋げれば、大規模な訓練場とかで色々とやれそう」
ソラナは考え始める。そんな様子を眺めながらユキトは近くにいたスイハへ話を向けた。
「スイハはどう思う?」
「……霊具が行き渡ったわけだし、確かに本格的な戦闘訓練ができる場所が必要なのは間違いないと思う。地底の深い位置であれば誰かに見つかることもなさそうだし、良さそうではあるけれど」
「本格的に考えてもいいが、さすがにカイや邪竜の捜索などが優先だし、あまり余計なリソースは割きたくないけど……」
「ま、魔法を使えば色々とやり方はありそう」
そう発言をしたのはイズミだった。
「ユキト自身、今回の実験がかなり良いものだと感じたんでしょ? なら、やってもいいと思うよ。それに」
と、イズミは周囲を見回した後、続けた。
「この場所の方が魔力が潤沢だし、霊具の研究も捗るかなー、と思う」
「どちらかというと、そっちが本音だろ」
ユキトがツッコミを入れるとイズミは「そうだね」と本音を隠す気もなさそうだった。
「はあ、まったく……ただ、イズミもそう言うくらいだし、多少なりともリソースを注いでも良いのか?」
「それに町中に組織があるけど、あの場所では不都合な状況になるかもしれないし」
「……俺達だけが訪れることができる秘密基地、みたいな形になりそうだな。問題はこれを政府側へ報告すべきかどうか……」
「結構危険なことをやっているし、詳細は伏せた方がいいかもしれないけど……」
イズミはそう発言したが、ユキトは少し考えた後、
「いや、訓練場を作成したという情報自体はちゃんと語った方がいいと思う。もし何かの拍子に隠していたものが露見したら、政府側としては俺達に不信感を抱く可能性が高い」
「あー、そうだね……」
イズミも納得するように声を上げる。
「でも、こんな場所に拠点を構えるということ自体、政府側からは反発とかないかな?」
「そこは正直オウキの報告次第だと思う。俺達にできることは政府側に敵意がないことを示し、ちゃんと味方でいてもらうことだ」
「政府側が敵に回ったとしたら……」
「かなり面倒なことになるのは間違いない……正直、カイや邪竜を追うなんて状況ではなくなる危険性もある」
ユキトの発言にスイハ達は表情を固くする。
「……ただ、政府としても俺達に頼るしかない以上はこっちが誠意を示していれば味方にはなってくれると思う」
「で、あればいいけどね」
応じたのはソラナ。彼女はここでユキトへ視線を向け、
「具体的に話を進めていいかな?」
「……ああ、そうだな。ただし、拠点を作る場合は複数人で行動すること。転移魔法があるとはいえ、誰も知らない山奥で事故にでも遭遇してしまったら大変なことになるからな」
ユキトの言葉にソラナやイズミは頷く――様子から、イズミも拠点を作成する手伝いをする気満々だった。
「ソラナ、今日のところはまだ余裕あるか?」
「うーん、まだいくらか生成はできると思うけど……さっきみたいな個体を生み出す場合は、時間が掛かるかな」
「わかった。なら今日のところは退散しよう」
言葉を受け、ソラナは撤収準備を始めた。そんな様子を見守りながらユキトは、先ほどの戦いのことを思い返す。
(あれは俺の頭の中にあるイメージで生成された魔物……なら、色々と他に試せるものはあるはずだ)
脳裏に浮かぶのは迷宮攻略で遭遇した難敵。そうしたものをイメージし、仲間達と戦わせることができれば――色々と思案している間にソラナ達が作業を終え、ユキト達は山を離れたのだった。




