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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第八章

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覚悟

 ソラナが準備をしている一件について、ツカサと話をして数日後にユキトのところへ連絡が入った。


『今週末、魔力樹の下で試してみようという話になった』


 電話による連絡であり、その相手はツカサ。


『ただし、今回のはあくまでお試し版だ。ちゃんと術式として機能するのかを含めた検証であるため、期待に添えるかはわからないが……』

「現段階で完成している必要はないから、問題はないさ……俺も同行するってことでいいんだよな?」

『ああ、もしもの場合に備えて戦力は必要だ』

「了解。俺は了承したとソラナへ伝えてくれ」


 それで通話は終了。ユキトは着実に準備は進んでいることを認識しつつも、カイとの戦いまでに間に合うのか、という疑問もよぎる。


「……もしカイが仕掛けてくるとしたら……カイは俺達の行動を読むことは容易い。であれば……」


 ユキトは思案しつつも、カイが本気で、全力で動いたら事前に止めることは不可能であるだろうと考える。


(ディルには言ったが……カイをどうやって止めるのか……そして、どういう決着に持ち込むのか。そこについては、早期に結論を出しておかなければならない……)


 ユキトの頭の中には浮かんでいることがある。ただし、それが理論的に可能なのか――そして、もしできたとしてもカイとの戦いで実行に移すことができるのか。


(次にカイと顔を合わせた時、それは紛れもなく死闘になる……俺はディルの力を全力で出し、なおかつ『神降ろし』まで使用して、勝てなかった。そんな俺が再びカイと戦って……俺が描く手法を実現できるのか?)


 そもそも成功するのかどうかも――着実に物事は進んでいるにしろ、問題や課題が山ほど出てくる。ここでユキトは思考を切り替えた。ネガティブな考えばかりでは、ストレスも溜まる。


「気分転換の方法も考えないといけないな……」


 ――邪竜との戦いでは、例えば街へ繰り出したり異世界の文化に触れるといったことで、ストレスの解消に努めた。心の負担を軽くしなければ、間違いなく邪竜との戦いは乗り切れなかったためだ。


(でもこの世界ではどうだろうな……戦いが迫っている。その中で少しでも早く準備を進めなければいけない今の状況では――)


 そんな風に考えた時、電話が鳴った。確認するとツカサからだった。


「はい……どうした?」

『すまない、一つ伝え損ねていたことがあった……ユキト、これはまったく実現できるかどうかわからないが、手立ての一つとして上がった案なんだが』

「カイや邪竜に対抗する策か?」

『ああ……ユキト、俺達が赴いたあの異世界の助力を願う、という方法はどうだろうという意見が出た』

「それは……」


 リュシールを始めとした、邪竜を倒すため戦った仲間達のことが、頭をよぎる。


「そもそもできるのか?」

『現実的に可能かどうかもわからない。ただし、仮にそれができるとしたら……どうする?』


(……可能性がゼロでない以上、選択肢としてどうすべきか考慮しておくってことか)


 ユキトがすぐに判断できる状況にないかもしれない。あるいは、そうしたことができるようになった段階で、判断をする時間がないかもしれない――そういったことを踏まえると、予め決めておくべきだと判断した。


「そうだな……間違いなく、彼らは手を貸してくれるだろう。場合によっては特級以上の霊具だって貸与してくれるかもしれない……それを踏まえると、やれるならやりたいところだけど……」

『現実的には難しい。邪竜がこの世界に来たことや、俺達が召喚されたことを踏まえると、道自体はあると思うんだが……』

「その研究に集中するというわけにはいかないだろうし、余裕がある時に検討くらいが無難じゃないかと思うんだが」

『……そうだな、わかった。今後は先に話し合った方針通りに事を進めていく。ソラナは今週末のために準備を重ねるだろうから、今後疑問点があれば彼女に連絡を』

「ああ……ちなみにだが、何か手伝えることとかはあるのか? 作業時間が短縮されるなら、俺も何かやった方がいいような気がするけど」

『その辺りは大丈夫だ。ユキトは鍛錬に集中してくれ』


 それで会話は終了。通話を切ると同時に、ユキトは息をつく。


「気を遣われている……というよりは、戦力的にはまだ俺に頼るしかないから、負担を掛けさせたくないってところか」


 戦力は整いつつある。しかしそれでも、カイや邪竜との決戦はユキトが最前線に立つことになる。

「カイがどんな策略を用いてくるかで、状況はいくらでも変わってしまうな……それに、いつ何時仕掛けてくるかもわからない」


 ユキトは改めて、カイのことを思い出し――決意を新たにする。


「絶対に、次は勝つ……そしてカイの野望を止める」


 止めてどうするのか――そこについては答えが出ないままだったが、自分にしかできないことである以上は、どんな結末であっても、覚悟を決めなければならない――そう強く感じた。


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