霊具と訓練
ユキトとオウキはそこからしばらくの間切り結んでいたが、やがて訓練を終えて話し合いをすることになった。
会議室へ場所を移し、ユキトとオウキ、そしてツカサとスイハの四人で机を囲み、お茶まで用意した上での会議だった。
「……それじゃあ、組織の立場について説明するよ」
口を開いたのはオウキ。話し合いの目的は、組織における政治的な立場に関してである。
「まず、魔力樹形成についてだけど、ここについてはきちんと事情を説明した。政府関係者としては話し合いの場にいたカイが敵に寝返った事実に驚愕していたけれど、それを組織のせいにする、というわけではないようだ」
「あくまで邪竜が施した作戦、という認識なのか」
ユキトの指摘にオウキは小さく肩をすくめた。
「政府側は異世界での出来事についてある程度把握しているけど、さすがに因縁とか、関係性とか、ボクらの考えとかまでは把握していないからね。様々な出来事があってそうなってしまった……そういう漠然とした認識ではあると思う」
オウキの言葉にユキトは「そうか」と短く応じる。そこで次に声を発したのは、ツカサ。
「政府側が組織に反発しているようなことはないのか?」
「……現状ではボクらに頼るしかないことを政府も知っているから、表向きに何か反発があるわけじゃないよ。ただ、政府関係者としては一刻も早く警察などの治安組織に霊具を持たせるべきだし、その訓練をしなければならないと考えているよ」
その言葉にユキトは当然とばかりに頷く。そもそも、ユキト達が戦っているという時点でおかしい話ではある。
「霊具に関しては制作途中であることは説明している。問題は治安組織の人達に霊具を扱うことができるのか……イズミ、霊具そのものを量産するということは可能なのか?」
「うーん、一般の人にというのは厳しいかもしれないね……そもそも、魔力を伴った武器を扱うための訓練が必要だろうし」
「政府の人々はそこを特に気にしていた。魔力樹が顕現したことにより、魔物が生まれることは確定している。だから訓練をしたいのはわかるけど……まず、魔力を操ることができるのかを確かめないといけない」
オウキの言葉にユキト達は押し黙る。それが意味するところは――
「ツカサ、一つ訊きたい」
と、ユキトが口を開く。
「この地球は、魔力が潤沢にある状態……その中で霊具を扱えるようにするためには、どういう流れとなるんだ?」
「まず、魔力を知覚する訓練からスタートしなければならない。異世界でそういった指導については勉強したため、指導そのものは可能だろう。だが、異世界で用いていた手法をそのままやって、同じように魔力を知覚できるかどうかはわからない」
ツカサは質問を受け、説明を始める。
「魔力を知覚してからは、次に霊具を扱えるようにする手順……魔力を自在に操る術を身につける。そこに至りようやく、三級霊具を扱えるようになるレベルといったところか」
「時間はどのくらいを想定する?」
「異世界では霊具を持ったことがなく、魔力に関する訓練を受けたこともない兵士が霊具を扱えるようになるまではおよそ一年掛かっていた」
その言葉でユキト達の間に重い沈黙が生じる。
「俺達が召喚された国の教育機関で、その時間が必要だ。霊具を扱えるようにするためのノウハウがきちんと存在している上で、明瞭な指導を行った上での話だ。しかも、その訓練を施して霊具を扱えるようになるのかも、現時点ではわからない」
「正直、短期間で霊具を扱える人間を増やすのは現実的ではない、ということか」
「ああ、それは間違いない……ただ、異世界と比べ魔力樹によって魔力が満たされた地球なら、話が変わる可能性もゼロではない」
そうツカサは応じつつも、険しい顔を伴い話を進める。
「魔物が大量に自然発生するような事態だから、人間に対しても魔力が活性化されて、短期間での訓練で霊具を扱えるようになる……かもしれない」
「あくまでかもしれない、という話か」
「俺達はすんなりと扱えたことを踏まえると、その可能性も十分あり得るが……」
「それは特級霊具による効果も大きいだろうな」
――等級の高い霊具には、すぐ扱えるような記憶が流れ込んでくるケースがある。ユキト達はその記憶によって、すぐさま戦力となり邪竜と戦った。
「ただ、この世界で特級霊具を自作しても、当然ながら使い方を仕込むのは無理だ。あれは霊具を使っていた使用者の記憶や、天神の力によるものが大きいからな。この世界の人々に魔力を扱える素養があり、魔力樹によってそれが活性化されるとしても、異世界で俺達がすぐさま戦えたみたいすることは、霊具側の要素で困難だろう」
ユキトの指摘にツカサは「そうだな」と同意しつつ、
「……オウキ、俺達としては戦力が増えるのはありがたいし、協力は惜しまないと伝えてくれ。ただし、本当に霊具を扱えるようになるのかは、正直わからないことも説明を頼む」
「わかった」
承諾するオウキ。それと共にツカサはさらに話を進めるべく、改めて口を開いた。




