いつかの光景
ユキトがとオウキと対峙した時、彼から発せられる強い気配を視覚的に捉えることができた。
(……霊具の再現度は高そうだ)
そう胸中で思う――オウキが異世界で使用していた霊具は『瞬命剣』という名で、使用者に驚異的な速力を与える効果があった。
オウキは剣を抜く――両手にそれぞれ剣。二刀流であり、これは異世界でも同じだった。
「まずは速度の検証か」
「そうだね……ボクが霊具を持っていた以前の動きを再現できるのか」
剣を構える。ユキトとオウキは視線を重ね、少しの間沈黙が生まれた。
周囲にいる仲間達は何も声を発しない――スイハなどは固唾を飲んで見守っているが、イズミを始め最初に召喚され共に戦った面々は少し様子が違っていた。その眼差しは、いつかの光景を見た懐かしさが混ざっていた。
(……よく、手合わせをしていたからな)
異世界における戦いの中で、ユキトとオウキは幾度となく剣を打ち合った。その理由はもっぱらオウキ側の要求。彼が剣戟を決める速度についてこれる人間は少なかった。特に彼の場合は戦いの中で霊具の成長を果たし、さらに速力が増した――それに応じることができたのはほんの僅かで、ユキトはその中の一人だった。
よって、ユキトとしてもどこか懐かしむような感覚を抱き――刹那、オウキの体が少しだけ前へと傾いた。
それは紛れもなく、異世界でも見せていた動作。次の瞬間、オウキは高速移動によって間合いを詰め、ユキトの眼前に出現し剣を放った。
普通ならばただ立ち尽くすしかないが、ユキトは剣を盾にして彼の剣を防いだ。金属音が鳴り響き、ユキトとオウキは一歩後退する。
そして今度はユキトが前に出た。今のオウキ――その動きを一度剣をかわしただけで見極め、仕掛けた。それに対しオウキは即座に対応。二振りの剣を交差させ、盾にするように防いだ。
ユキトの斬撃はオウキの防御によって止まり、今度は彼が反撃する――目にも留まらぬ斬撃。それが殺到し、ユキトはそれでも応戦する。
その光景は、観客である仲間達にどのくらい捉えることができたのか。ほんの数秒の時間で数え切れないほど剣の応酬を繰り広げた後、ユキト達は双方大きく後退し間合いを脱した。
そこで沈黙が生じる。ユキトと互角――そんな考えが、フロア内に充満した。
「……凄まじい再現度だな」
そうユキトは声をこぼした。
「動きだけを見るなら、間違いなくオウキが持っていた剣と同等だ」
「あくまで速さは、だろ?」
「そうだな……霊具を修練することで魔力面でも強化はされていくと思う」
「ボクはこの剣を扱えるけど、今は肝心の体が完全についてこれないってことかな」
「そういう解釈でいいだろうな」
ユキトの言葉にオウキはじっと自身が握る剣を見据える。
「速度だけでも再現できていることは非常に大きい……これについてくることができる存在は少数だろうから」
「異世界では腐るほどいたけど、この世界なら無双できるだろうな」
「でも、邪竜は魔物を生成する際、あの迷宮にいた個体よりも強い存在をいずれ作るだろう」
その言葉にユキトは小さく頷き、
「それは時間が掛かる……と、思いたいが俺達が霊具を急ピッチで作成されていることを踏まえると――」
「相手だって同じように魔力樹の魔力を活用できるだろう……ボクらが戦っていたあの世界とこの世界とで大きな違いは魔力だ。異世界には天神と魔神という強大な存在がいたにしろ、世界に存在する魔力量は迷宮などを除き決して多いとは言えなかった。でもこの世界は違う」
「魔力樹により、潤沢な魔力が存在している……それを活用すれば、様々なことができるようになる」
「――それこそ」
ふいに、ツカサが発言した。
「魔神を再現することだって可能……か?」
「さすがにあれほどの存在を……と、言いたいところだけど可能性がゼロとは言えないな。ただ、さすがに自我を持った個体を生み出すことは困難だろう。力の大きさだけは魔神級……これでも相当な脅威になるけど」
「天神も再現できればいいんだがな」
「イズミ、できると思うか?」
「さすがに厳しいかなあ。でも、魔力樹の魔力を有効活用できれば、天神のような力を持つ存在を生み出すことは、ユキトが言う通り不可能ではないと思う。だけど――」
「それはまさしく、この世に終わりをもたらす兵器になるかもしれないな」
空気が重くなる。人間の命令を受ける天神級の存在。それはまさしく、兵器の中でも恐ろしい存在となる。
ユキトは未来のことを想像し――言葉を紡ぐ。
「魔力を研究し、軍事転用できるようになったら、そこからはあっという間だろう。魔法という概念がこの世界に根付く……世界のあり方が大きく変わる。戦争兵器として魔法や霊具が用いられるようになったら、俺達はどうなるんだろうな」
「……今は、推測しかできないけど」
ユキトの言葉にはオウキが応じる。
「ボクらは悪い結末にならないよう立ち回る……それが、ボクらの使命じゃないかな」
「そう、かもしれないな――さて、戦闘を再開するか」
ユキトは彼の言葉に応じた後、改めてオウキへ向け踏み込んだ。




