彼女もまた――
ユキトが一度スイハの剣を弾いたところで、彼女はその流れで一歩後退。しかしすぐさま体勢を立て直して挑む――両者の攻防は拮抗し、スイハの剣戟が幾度となくユキトの体を掠めた。
無論、模擬的な戦闘であるため本気のユキトならば彼女を圧倒することはできるはず。しかし単純な剣戟勝負であれば、どう転ぶかわからない――それを証明する形となった。
金属音が訓練場に響き、ユキト達は剣を振り続ける。とはいえ、次第に戦いはユキトに傾く。スイハの剣の勢いが、ほんの少しずつ弱くなり始めた。
それは最初、戦局に影響するほどではなかったが、次第に地力の差が明瞭になり始める。ユキトの剣に遅れ始めたスイハは劣勢になり始め、やがて後退を選択した。
すかさずユキトは足を前に。直後、放った剣がスイハのかざした剣の根元に当たり、それが決め手となった。
ギィン、と一つ大きな音を上げてスイハの手から剣が飛んだ。それは床に落ちると盛大な音を立てた。
勝負は決し、ユキトは息をつく。スイハもまた呼吸を整えた直後、横で観戦していたイズミが声を上げた。
「これは……なかなか良いのでは?」
「ああ、俺もそう思う」
ユキトは同意した。剣を鞘に収めつつ、スイハやイズミへ向け言及する。
「霊具によってスイハに秘められた聖剣に関する記憶――その技術が、しっかりと表れている」
「記憶だけでここまでやれるのは驚きだったけど……」
と、スイハが言うとユキトは肩をすくめた。
「魔力や魔法、という概念によって成せる技だ。ともあれ、異世界で霊具を所持していた記憶があれば、魔力樹による霊具なら全盛期とまではいかないにしろ、相当な力を得られることは理解できた」
「この調子で他の人達にも霊具を用意しないといけないね」
イズミは意気揚々と語る。しかしそれに待ったを掛けたのは、ツカサ。
「少し休んだ方がいいぞ。このまま徹夜で作業し続ける気だろ」
「……今のうちに無茶しないといけないんじゃない?」
「だとしても、だ。魔法による強化で作業が持続できても、体力は消費し続ける。倒れかねないような行動は控えた方がいい」
「俺も同意だ」
と、ユキトはツカサの意見に賛同する。
「イズミ、もし今後急ピッチで霊具を作成するにしても、誰かに頼ってくれ。さすがに一人ではまずいし、何よりイズミが倒れてしまったら霊具のメンテナンスもできなくなる」
「メンテのことまで考慮に入れると、倒れられたらしんどいか」
「ああ、霊具作成についてはある程度やり方が固まっただろ? なら、ツカサなんかが作業できるよう水平展開しておいてくれ」
「わかった……人選はこちらでやっていい?」
「ああ。ただ可能なら、前線で戦うような人にも霊具の調整方法を教えてやってくれ。お手製の霊具である以上、異常が起きる可能性だってあるだろ」
「そうだね……異世界で使っていた霊具は、それこそ壊れるまで正常に機能していた。あれは天神の力、だよね」
「ああ、壊れるのも元々の武器が持っていた耐久値がゼロになったためだと思う。天神の力は絶大だ。無茶をやっても壊れなかったが、今回の霊具は違う。魔力量だけを見れば対抗できるくらい強くとも、同じように使い続けられるかもわからないからな」
「そうだね……とはいえ、上手くいけば霊具は量産化できる。問題は、仲間達に適応した霊具を作る必要があるから、時間がいること」
「そこは仕方がないさ……確かに俺達に残された時間は少ない。でも、確実に進まなければ」
ユキトの言葉に他の三人は頷いた。
模擬戦闘はこれで終了し、イズミはツカサと相談して今後の方針を決めていく。その姿を見ていると、スイハが近づいてきて声を掛けた。
「ユキト、私はこの霊具の検証を続けていく……で、いいんだよね?」
「ああ、ただ強力とはいっても聖剣とは違う。スイハが持つパフォーマンスを大きく引き出すことができるにしろ、限界はあるはずだ」
「うん、そこについても色々と調べてみる」
「……スイハ、いいのか?」
改めての問い掛けだった。ユキトを始め、カイとクラスメイトであった仲間達は、彼を止めるために戦う。一方でスイハは多生関わりがあるにしても――
「今更だよ、ユキト」
そこでスイハは笑いながら返答する。
「私だって関係者……同じ聖剣を握った人間として、異世界での経験から様々なことを知った。だから、私もカイを止めたい」
「わかった……ありがとう」
「お礼はまだ早いよ」
「……そうだな」
頷くユキト。そこで、訓練場に別の仲間の姿が。
「ん、訓練を観に来たのか? でも残念ながら終わりだぞ――」
ユキトが声を掛けた直後、また別の仲間も姿を現す。なんだかんだで組織に入り浸っている人が多い。そこでふと、ユキトは思い出す。
(なんだか、異世界で戦っていた時のことを思い出すな……)
絶望的でありながら、世界を救うために奮闘した日々。今回もまた似たものであり、しかも自分達の世界を守るための戦い。
なおも相次いで現れる仲間に対しユキトは小さく笑いつつ、スイハと共に彼らの元へ近寄って行った。




