第一段階
世界を支配するべく動き出したカイ。そして彼と手を組む邪竜。二つの存在によって生み出された魔力樹は日を追うごとに数を増やし、多くの人が肉眼で確認することができるようになった。
魔力樹については――試しに周囲に誰もいないことを確認した上で、ユキトは魔力樹が生まれた翌日には破壊できるか試みた。
その結果として膨大な魔力を地底から吸い上げる魔力樹を破壊するには、相当な魔力が必要となることが判明。ユキトであればディルの力を利用すれば破壊はそう難しくなかった上、実際に壊すことができたのだが、一つ一つ破壊するだけでは到底追いつけないほどの生成ペース。事実上、完全な破壊は不可能だった。
そして、他の仲間達も破壊を試みたが、上手くいかなかった――観測した結果としてディルのような強力な霊具は必ずしも必要ない。しかし、お手製の霊具では易々と壊すこともできない、というもの。
「……さて、状況を確認しよう」
発言したのはツカサ。場所は組織の建物内にある会議室で、部屋にいるのはユキトにツカサ、そしてイズミの三人。
「メイも話し合いに出席したがっていたが、仕事があるとして欠席だ……さて、魔力樹形勢から一週間ほどが経過したが」
――カイとの激闘から一週間経過した土曜日。ユキト達は組織内で話し合いを行うこととなった。この一週間、悠長に物事を静観していたわけではなく、可能な限り情報収集はしていた。
ユキトとしてはすぐにでも魔物の討伐に動きたかったが、魔力樹形勢から翌日時点でツカサがあることに気づき、ひとまず情報収集を優先した形だった。
「現在のところ、輝く樹木が肉眼で確認できるようになって人々は何事かと驚いたが……魔物はほとんど発生していない」
「これはツカサが気付いたことが関係しているのか?」
「そうだ」
ユキトの問い掛けにツカサは頷く。
「ユキト、魔力樹が発生した直後にテレビは見ていたか?」
「ああ」
「あれについては生物……山の中だったからおそらく鹿か何かだと思うんだが、そうした動物が魔力を身に受けて姿を変えたものだ。魔力樹は形勢直後にもっとも大量の魔力を発生させる。その影響によって動物なども一部変化してしまうというわけだ……ただ」
と、ツカサはユキトとイズミを見据えながら話を続ける。
「その変化は一時的なものだ。魔力樹が発する魔力は主に大気中に散布されている。現在のところ、健康被害などがあまり報告されていないことから、人や動物に大規模な影響を及ぼすような事態にはなっていないし、魔物も発生していない」
「不幸中の幸いか……」
「というよりおそらくこれは、第一段階なのだろう」
ツカサの言葉にユキトは眉をひそめる。
「第一段階?」
「この世界には元々多量の魔力が存在していた……が、人間が知覚できるレベルではないし、魔法使いが現れることはなかった。俺達が召喚された異世界との大きな違いは、あちらの世界には魔力を利用して魔法などを扱える超常的な存在がいたこと。その一方で、この地球にはそうした存在がいないため、どれだけ魔力があっても魔法を使える人間は生まれなかった」
「ゼロ、というわけではないけどね」
と、ここでイズミが言う。
「超能力者とか言われる人はほんの少しだけど魔力を利用できる……ただ誰かに教わったわけじゃないから、その技法は拙い」
「そうだな。しかし異世界では完璧な形で魔法を行使できる存在がいたため、人はそれを真似して魔法を生み出した。つまり、模範となる存在がいたかどうか……それこそ、魔法という概念があるかどうかの境目だった」
「……でも、今は違う」
ユキトの言葉にツカサとイズミは同時に頷いた。
「カイは支配を目論んでいる……魔法という概念を生み出しつつ、模範になろうとしているのか?」
「その可能性は大いにあり得る」
ツカサはユキトの言及に同意する。
「今は魔力濃度を引き上げ、魔力を知覚させることを優先している段階だ。しかし、魔力樹がさらに増えて濃度が高まれば魔物も生まれる」
「それに乗じてカイや邪竜が……」
「おそらくは。どれほど強力な兵器を持つ軍隊でも、魔法を持つ存在には敵わない……ただ、魔物が現れたからといってすぐに邪竜達が動く可能性は低い。奴らは少数で活動していた。世界全体を支配するような行為は、どれだけ力を持とうともそれなりに人数が必要だ。よって、今後起きることは魔物が登場することによる社会不安と、それに乗じた人間の取り込み……この辺りが妥当ではないかと考えている」
「それに対し俺達は……」
「選択肢は色々とある。まずはそれについて今日検証していくとしよう」
ツカサはそう語ると、ユキトとイズミへ視線を投げた。




