戦いの舞台
ユキトが到達した魔力樹にメイやツカサが辿り着いたのは、ユキトがカイと戦闘を開始してから一時間後のことだった。
メイはあまりの異常事態によって急遽仕事を抜け出してツカサと合流。二人は膨大な魔力が存在する場所へと急いで向かった。
「少し前にユキトとカイの魔力を感じ取れた。今は収まっているんだが……」
「二人は……」
「わからない。現場へ行ってみなければ」
そう話し合ってツカサとメイは魔力樹へと到達した。魔法を使用したことで容易に到達したわけだが、そこにいたのは――
「ユキト!」
先んじて気付いたのはメイ。魔力樹の前に、倒れるユキトの姿があった。
近寄ると気絶しているのがわかったのだが――メイはそれ自体が異常だと察した。彼が気絶するなど、あり得ないことだからだ。
「……っ」
そして声に反応したかユキトは目を開けた。メイが大丈夫かと問い掛けようとした矢先、彼は跳ねるように飛び起きた。
「――カイは!?」
「え、カイ?」
問い返したメイ。次いでツカサは周囲に目を向け、
「カイの姿や気配はない。俺達がここへ到着した時点で……」
「……そうか」
悔やむような表情を見せるユキト。それでメイは、
「ユキト、一体何が……?」
「……二人とも、落ち着いて聞いてくれ」
そう前置きをして、ユキトは話し始めた。
そして、内容を聞いてメイは口元を手で覆い、ツカサは厳しい目で魔力樹を見据える。
「……カイがいなくなったということは、もうここに用はないということだろう」
「ああ、それは間違いないな」
ツカサはなおも魔力樹を見上げながら言及する。
「膨大な魔力……しかも樹木は完璧に根を張っている。先ほどまでは魔力が地面を介し広がっているような流れを観測していたが、今はそれが収まっている。おそらく最初に顕現した魔力樹は役目を全うし、ただ魔力を拡散させるだけの器になったんだろう」
「止められなかったと……」
「ユキト、カイに負けたというのは本当か?」
問い掛けにユキトはツカサを見返し、
「……正直、最後の攻防については相殺に近かったはずだ。しかしディルの力でも完全に受け流せず、俺は気絶した」
「なぜカイはユキトにトドメを刺さなかった?」
「……最後の最後に、俺は防御系の魔法を使用した。聖剣を再現していればおそらく俺を斬れたと思うが、最後の激突し力を失って俺を仕留めることができなかった。そういうことなんじゃないかと思う」
「もう一度再現をすれば……いや、乱発はできないのか」
「身体に負荷が掛かるのか、それとも何か制約があるのかはわからないけど、おそらくはすぐに再使用できなかったのが原因だろうな」
そう発言した時、メイはユキトの顔を覗き込んだ。
「……ユキトが無事で良かった」
「メイ……けど、俺は止められなかった。カイや邪竜の思惑通りに、世界は……」
「もう、魔法や魔力という存在を隠し通すことはできない……か」
メイの言葉に三人の間に沈黙が訪れる。カイが引き起こした今回の一件。そして魔力樹――やがて口を開いたのは、ツカサ。
「魔力がこれだけ拡散されている以上、今まで以上の数、魔物が生まれるのは間違いないだろう」
「そうだな……魔物の対処も考えないと」
「魔力樹はこの場所を起点として拡散している。今は山肌に沿っているだけだが、いずれ人里や都市部にも影響は現れるだろう。おそらく日本中に拡散した後、海を渡って海外に影響が出始める」
「魔力樹を破壊しても、もうどうにもならないよな?」
「仮に一つ一つ魔力樹を壊そうとしても、おそらく俺達だけでは手が回らない。短時間で似たような樹木が生まれていることを考えると、到底生成ペースに追いつけないだろう」
「なら……どうする?」
問い掛けにツカサは沈黙する。彼自身も――まだ、頭の中を整理し切れていない様子だった。
「確実に言えるのは魔物が出現すること。まずは魔力樹周辺に出現し、そこから拡散するだろう。次に、人々が魔力を知覚し始める。そこから魔法とまではいかなくとも、何かしら超常的な力を得る人間だって現れるだろう」
「その流れは止められない……そして、混乱に乗じてカイは自分の望みを果たそうとする」
「世界征服、だな。確かに魔法は圧倒的だ。俺達は魔法を駆使すればこの世界にある兵器……銃火器どころかミサイルすらも防ぎきる」
ツカサの言葉にユキトとメイは頷く――結界を行使すれば、物理的な攻撃は遮断できる。魔法に対抗できるのは、魔法だけ。
「だからこそ、カイはいかなる軍や組織に圧倒的な力を示すことができる……世界各国は対策に乗り出すだろうけど、魔物の対処を優先する必要があるだろうし、何よりまず魔法を開発しなければ話にならない」
「その中で、俺達は……」
「特に重要だ。世界の秩序を維持するには……」
ツカサの言葉にユキト達は再び沈黙する。
三人とも、どういうことなのかわかった。カイと邪竜によって、この世界を懸けた戦いの舞台へ、上がらされてしまったのだ――




