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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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秘密の会話

「――さて、こちらがなぜこんなことをしでかしたのか、推測しつつも顔を合わせたのは、話し合いに応じる気があるということだな?」


 魔法を使用し誰もいない廊下で、邪竜はカイへ問い掛ける。


「問答無用で斬りかかってくる可能性も考慮していたが」

「それをやるにしても、あなたの本体はこの場にいないだろう」


 カイの言葉に邪竜は小さく頷いた。


「ああ、正解だ。ここにいる私は幻影でしかない」

「結局僕らはそちらの手の内を明かすことはできない、と」

「とはいえ、想定以上に戦力が強化されていたことは驚きだった。この状況で拠点が割れれば、私達の敗北は決定的なものになるだろう」


 カイは目を細める――その言葉は紛れもなく真実だろう。


「悔しいが、策としてはそちらが上か」

「……私は、お前達がどれほどの力を持っているか知っている」


 邪竜は何かを思い出すかのように話し出す。


「故に、ここまで慎重になるというわけだ……しかし着々と本命の策は進んでいる。そして今日、その一つが実を結んだ」

「なぜ僕と話を?」

「それは自身の胸に手を当てて考えるべきではないか?」


 問い返した邪竜に対しカイは沈黙する。


「仲間の中で誰も君のことを疑ってはいないだろう。だが、実際は――」

「やはり、そこか」


 カイは邪竜を見据える。そうした沈黙は、十秒ほど続く。


「……余計な問答は不要だな。答えを聞こうか。とはいえ、あまり余裕はなさそうだ」


 カイは邪竜がそう語る理由を察する。外でユキト達が現在も戦っている。それが終われば当然、ここへやってくる人間もいるはずだ。


「……顔を合わせた以上は、君の方にも考えがあるのだろう。それは私の考えを拒絶するにしろ、受け入れるにしろ……少なくとも揺れ動いているはずだ」

「……僕が、そちらの考え通りになると?」

「いや、ここについては賭けだ……とはいえ、だ。私と君達の戦い……この世界で言うところの異世界で起きた戦争では、既に多大な犠牲者が出ていた。故に、人々のために戦おうとするのは納得がいくし、あの結末に至ったのも理解はできる」


 邪竜はそう語ると笑みを浮かべる。


「だが、この世界では違う……騒動を起こしたのは事実だ。しかし、人的な被害は出ていないだろう?」

「……それも、計画の内だと?」

「私の行動で世界に大きな影響を与えることができる、というのは証明できたはずだ。そちらは可能な限り警戒網を広げているようだが、私達がその気になればいくらでも網を脱することはできる」


 そう述べると邪竜は肩をすくめる。


「だが、それはしない……具体的な被害が出れば例え顔を合わせても君は拒絶していただろう。だが、まだ犠牲者はない……今ならば、交渉の余地はあるだろう?」

「僕がそちらの思惑に乗ると、本当に思っているのか?」

「先も言っただろう。それは賭けだと。だが、十分な公算があると踏んで私は動いた。後は、そうだな……この世界の言葉を借りるのであれば、神のみぞ知る、といったところか」


 邪竜はそう語った後、カイを見据えた。答えを聞こう――そういう意思表示だった。


「……配下は、こんな作戦に同意しているのか?」

「詳しく話してはいない。賭けをする旨は伝えてあるが」

「……仮に、だ。僕がそちらの思惑に乗っかったとして、それが嘘であるとは思わないのか?」

「確かに、あえて思惑に乗ったフリをしてこちらを一網打尽にする、などという手法も存在はしているだろう」


 カイの言及に対し邪竜はあっさりと認めた。


「しかし……私はその可能性を考慮した上でここにいる」

「リスクを取るだけの価値がある話し合いだということか」

「そういうことになるな」


 ――カイと邪竜は視線を重ねる。時間が経過していくわけだが、おそらくこの均衡は程なくして消え失せる。


「……とはいえ、だ」


 そして邪竜はさらに述べる。


「今、この場で答えを決めろと言われても困惑するだけだろう。よってしばしの猶予を与えよう」

「……猶予だと?」

「返事をする期間は必要だろう? むしろ、今ここで決めろと言われれば確実に反発される」


 邪竜はそう語るとカイへ向け笑みを浮かべる。


「現在、そちらの心は揺らいでいる……問答無用で私に剣を向けないのもそれが理由だ。これは時間を掛ければ良い返事をもらえる可能性が高くなりそうだ」

「……まるで、最終的に選ぶ答えは一つだと考えていそうだな」

「私はそう考えている」


 即応じる邪竜。カイはそれに押し黙る。

 両者は顔を合わせたが、詳細を語りながら話をしていない――だが、両者はこの会話がどういうものなのかを完璧に把握し、同時にカイは――


(……邪竜にとって、リスクのある動きだ。でも、それだけの価値があると考えた)


「……確認だが」

「ああ」

「そちらは魔物を利用し、攻撃を仕掛けてきた……特に、僕の友人について」

「それは事実だ」

「今後も同様の攻撃があれば、こんな会話は意味がなくなるぞ?」

「今後、そちらの答えが決まるまで私が動くことはない」


 邪竜の言葉は、決然としたものだった。


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