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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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揺さぶり

 組織の方針が決まり、その一方でエリカとミナについては、魔法などによって処置をすることが決まった。

 二人に事情を詳しく説明したメイは「思った以上に受け入れが早かった」と語っていた。何か忙しそうなカイを見てもさすがに異世界に召喚された、などという事実を容易には受け入れられないとユキトは思ったが――


「魔物が出現した光景が、たぶん理解を促進したんだと思う」


 メイはそう説明した。順序が逆であれば信じるのは難しかったかもしれないが、魔物を目の当たりにしたからこそ、受け入れたということだろう。

 二人が信用せず拒絶するのが最悪のケースだったが、それはない様子だったのでユキトは内心で安堵。とはいえ、敵がいつ何時攻撃を仕掛けてくるかわからない以上、予断は許さない状況であるため、仲間達は気合いを入れ直した。


 そしてカイの指示によって防衛と捜索、両輪で行動を開始する。その中でユキトは防衛を請け負うこととなった。


「カイ、俺は……」

「ユキトは組織の切り札だ。最後の最後……防波堤として機能してもらう」

「わかった……以前に言い渡されていた調査はどうする?」

「そこについては継続してくれ。何か異変を感じ取ったらすぐに報告を頼む」


 カイの言葉にユキトは静かに頷いた。そして各々が動き始める中で、エリカ達を見送ったメイと組織内で鉢合わせとなった。


「二人は護衛の仲間と一緒に家に帰ったよ。対応策についても仲間がやってくるって」

「彼女達にとっては散々な休みだな……」

「まあね。でも、二人ともなんだか嬉しそうだった」

「……事情を知ることができたから、か」

「うん。もちろん魔物は凶悪だし、注意はしないといけないけれど……二人にとってはおとぎ話が現実だった、という感じだろうね」

「かもな。危険だということがちゃんと伝わっていれば問題はないと思う……ただ」


 ユキトはメイへ視線を移す。


「メイの方も狙われる危険性がある。十分注意しないと」

「私は人目の多い場所にいるし、大丈夫だと思うけれど……」

「いや、今回の攻撃は思いも寄らない形だった。邪竜が狡猾であるのなら、さらなる策があってもおかしくない」

「それが……私を狙うこと?」

「この町は、安全圏を確保しつつある」


 ユキトはメイの目を真っ直ぐ見ながら話す。


「今回の一件もあるから、邪竜もさすがにこの周辺で何かを起こすという可能性は、低くなったと思う。けれどこの町の外へ出ることが多いメイは、狙われるかもしれない」

「……わかった」


 メイは小さく頷く。その様子を見てユキトは大丈夫だと確信しつつ、


「もし何かあればすぐに連絡を……といっても、敵は電波を遮断する術もあるみたいだし、厳しいな」

「魔法を使えばいけるかな?」

「……メイ、調子の方は?」

「少しずつ良くはなっているよ。万が一に備えて動けるくらいはなんとかなる……でも」

「やりたくはないよな」


 もし――メイが狙われるとしたら、場合によっては魔法という概念そのものが白日に晒される危険性もある。

 ただ、邪竜側としてはそれがメリットになるのかどうか。


「もし、私が狙われるとして」


 メイは自身の胸に手を当てながら、問い掛ける。


「狙いは……何なのかな?」

「そこは今も分かっていない。最初の魔物の発生なんかは、魔物の生成実験など色々な理由があったはず。けれど、俺達の準備が整う中で……相手としても準備をした結果、今回の行動だとしたら……」


 ユキトの言葉が止まる。メイもまた声を発しない。

 邪竜――この世界に渡り、何をしようとしているのか。


「……これは俺の勘だけど」


 やがてユキトは口を開く。


「魔法を公にするとか、そういう方向性ではないのかもしれない」

「何か別の思惑が?」

「カイの友人達を狙ったという意図もまだ見えてこないけれど……これが単なる心理的な揺さぶりだったならいい。俺達が結束をすれば対応できる。けれど一般の人を巻き込む形で組織が動く以上、何か別の狙いがあるのかもしれない」


 そこで、ユキトはカイのことを頭に浮かべる。


「というより、カイ個人に何かしらプレッシャーを掛けようとしている、とか?」

「それは……邪竜としても、あまりメリットはないんじゃない?」

「どうだろうな。この世界のカイは強いけれど、聖剣を持ってはいない。逆に力を持っていないからこそ邪竜がわざわざ狙う理由もわからないけれど……個人を狙い撃ちした戦いをするというのなら、なんとなく今回の襲撃の意図も理解はできる」

「でもカイは……」

「わかってる。そんな揺さぶりは効かないよ」


 そうユキトは応じるが――ふと、気になった。


(カイは……今回のことをどう思っているんだ?)


 事情を説明した際、苦い顔をした。巻き込んでしまったことを悔やんでもいるのは間違いない。


(邪竜はこういう行動をすることで、カイに心理的な影響を与えられると確信した……? けれど、なぜ?)


 そう思うが、結局答えは出なかった――


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