驚愕の事態
「これは……!」
ユキトがそう呟いたのは明確な理由があった。カイの知り合いであるミナとエリカの二人――彼女達は公園に入ったが、そこに仲間の気配があった。
『これは……メイの気配かな?』
そしてディルが代弁する。その通り――メイが公園にいる。なおかつ彼女がいる公園内で気配がするため、
(ミナ達ではなくメイを狙っている……?)
新たな可能性が浮上する間にユキトは公園へと歩を進める。そこでさらに魔物の気配が濃くなった。
(メイは気付いているのか?)
彼女には魔力によるトラブルを処置している。それによって魔力を抑えているのなら、魔物の出現に気付いていない可能性もある。
(ともあれ、異常事態だ。カイへ連絡をとらないと)
ユキトは公園へ進みながらスマホを取りだして連絡しようとした。アドレス帳からカイへ連絡しようとして――気付く。
画面をよく見たら、圏外になっている。
(……何?)
胸中で呟くと共に、ユキトは周囲を見回した。男性が大通りへ向かって歩いている姿を確認し、その彼がスマホを操作しながら首を傾げていた。
(俺のだけじゃない……この周辺一帯が圏外になっている?)
魔物の出現と偶然では決していないだろう――つまり、これは魔物が現れたことによる影響。
(魔物がそういう特性を持っている? いや、でもまだ魔物自体は姿を見せていない。ということは、邪竜一派の妨害……!?)
問題はこれが物理的なもの――つまりこの世界の技術によるものか、それとも邪竜の力による、魔法なのか。
ユキトは次いで魔法による連絡を試みようとした。だが、それも不通に終わる。
(解明しなければいけないことは大量にあるけど……まずは、メイ達を――!!)
ユキトは公園に入る。そこでは既に異変が生じていた。
公園内にはそれなりに人がいたのだが、何か不穏なものを感じ取ったかザワザワとしていた。現時点で感じられる魔力はかなり大きい。魔物の実物がいるわけではないのだが、それでも人々は何かを感じるらしい。
(というより、邪竜達がそういう特性を持たせた魔物を生んだということか……)
そしてメイ達は――ミナやエリカは顔を合わせ何やら話をしていた。再会を喜んでいるわけではなく、明らかにメイは警戒している。
(察したか……なら、俺のやることは――)
ユキトは周囲に魔法を発した。それにより、公園内にいた者達が相次いで外へ出始める。
まだ魔物は姿を現していない。今のうちに出れば影響はないはずだ――と、ユキトはさらに公園全体を覆う結界を生み出した。
それは魔物の出入りを遮断する結界――加え、遮音効果や視覚的な幻術効果を併せ持っている。邪竜一派との戦いでおそらく必要になるだろうと考え、ユキトが用意したものだ。
無論、人は内側から外へ出ることができ、なおかつ外側からは魔法が作用して入らないようにしている――非常に高度かつ難解な術式だったが、ユキトはこの世界で完成させた。
結界を構成した時点で、遠くにいるメイがユキトの存在に気付いた。ミナ達はユキトに対し背を向けているため気付いていないが、唯一メイだけは――彼女はユキトへ視線を送った後、小さく頷いた。このまま二人を連れて退避する。そういう意味合いだった。
(公園内に人がいなくなれば戦える……まだ魔物がいないことが幸いだったな)
気配はさらに濃くなっている。だが、肝心の魔物はまだ見当たらない。
(たぶん、魔力が集結して新たに生まれる……邪竜一派は、自在に魔物を生成できる手段を構築できたのか?)
メイ達が動き始める。それを見ながらユキトは、
「ディル、気配が濃くなり続けているけど……魔物が出現する兆候だな?」
『だと思う。たぶんそのうち魔力が集結して魔物になるんじゃないかな』
「魔物が生まれるプロセスから特殊だな……状況的にここで仕留めれば終わりだろうから、ひとまず倒して――」
そうユキトが呟いた矢先のことだった。魔物の気配、それが突如移動を開始した。
「……っと!」
反射的にユキトは魔法を使用する。結界をさらに構成してその気配を逃さないようにするが――すり抜けた。
「まだ魔物は形を成していないから、結界を貫通するのか……!」
『ユキト、どうするの?』
気配は少しずつ動いている。放置するわけにもいかないが、ユキトの手持ちにある能力では対処しようがない。
(……邪竜は、形を成さない状態ならば、いかなる魔法をもすり抜けると気付いたのか?)
そうとしか考えられなかった。つまりこれは、ユキト達の能力を考慮して生み出された魔物。
(ここで起きている異変は間違いなく組織にも伝わっているだろう。カイ達が来るまでにどのくらい掛かる? いや、もしかすると他に何か仕掛けがあって、カイ達が気付いていない可能性もあるのか?)
ユキトはその想定も考慮に入れる。最悪の事態を踏まえ、解決に当たる必要がある。
気配はまだ動いている。どうすれば止められるのか――それを考え始めた時、気配の動きに対してある事実に気付いた。




