調査を進め――
「これで、終了か」
ユキトは通っている学校に近しい公園で魔力を採取し、小さく呟いた。
「二ヶ所目終了……次は繁華街だな」
『ここまでは順調だね』
ディルの言葉にユキトは頷きつつ、
「といっても山の中というわけじゃないし、魔物と遭遇することもないだろ」
『今日はそういう場所に行かないんだっけ?』
「候補にはあるけど、カイから示された場所は結構な数があるからな。急ぎの仕事でもないし、ここから遠い場所については後日やればいいよ」
『ああそっか。別に一日で全て終わらせなくてもいいのか』
納得の声をディルは呟きながら、話題を変える。
『そういえばユキト』
「ん、どうした?」
『組織内の活動は順調だよね?』
「肝心の邪竜とその支援者は見つかっていないけどな」
『ならユキト自身のことは?』
「……というと?」
『だってユキトは受験生だし』
「その辺りもちゃんと考えてはいるよ……組織の活動にのめりこんで受験全部落ちましたとか、留年しましたではどうしようもないし、カイだって頭を抱えるだろうから」
『勉強しなくて落胆、というよりは組織の活動をさせすぎて申し訳ない、という意味で頭を抱えるかな?』
「カイならそう思うだろうな」
と、発言に対しディルは笑い出す。
『別にそこまで気を遣わなくてもいいのにね?』
「……カイは何にでも気に掛けてしまう。それが性分なんだよ」
――ありとあらゆることができてしまう完璧な人間。だからこそ、他者に意識が向いている。
「カイ自身だって相当負荷が掛かっているだろうに……いずれ、ここについてはちゃんと話をする機会を設けないといけないだろうけど」
『でもそれ、ユキトやカイだけの話じゃないよね?』
「まあな……メイだってそうだし、ツカサやスイハでさえもそうだろうな」
組織に所属し、霊具を握る者達は全員今の状況を少しでも改善できないかと模索し、あがいている。そんな状況下である以上、話をする機会を作ればたちまち所属する全員が押し寄せてもおかしくはない。
「異世界で戦っていた時は心のケアをする人もいたんだけど……」
『それはわかるけど、仲間の中にいたよね?』
「そうだな。でもメインは主に異世界の住人達だった……仲間内で話しにくいこともあっただろうし」
『そういう人を外部に求めるとなったら……組織のスタッフさんとか?』
「いや、それは無理だ。霊具を持っていない以上、そういったことに関する悩みを話すことはできないから」
『そっか……となると――』
会話の間に、ユキトは繁華街へ辿り着く。土曜日ということで結構な人が行き交っており、その中でユキトは真っ直ぐ次の目的地へ向かおうとする。
その時だった。視界の端に見覚えのある顔を見つける。
「あ……」
『どうしたの?』
一瞬見間違えか、と思ったらそうではなかった。ユキトの視線は自然とそちらへ向く。
繁華街の歩道を歩いていたのは、ミナとエリカの姿。
(今日は二人で出かけているのか)
「いや、何でもないよ」
そう発言しつつ、二人の行き先がユキトと同じ方角であるのに気付く。
(……まあ、さすがに目的地まで同じというわけでもないだろう――)
胸中で呟き、ユキトは二人から視線を逸らそうとした時、再び変化が起きた。
それは僅かな魔力。気配と言うべきもの。それでユキトは何が起こったのか、理解する。
「……ディル」
『うん、魔物の気配が出現したね』
ユキトは周囲を見回す。多数の人がいて、魔力を探ろうにも判断はつかない。
だが、確実に気配はある。この世界で幾度となく交戦した魔物独特の気配。自然発生なのか、邪竜由来なのかは不明だが、脅威が迫っていることは、疑いようもない状況だった。
「ディル、方角はわかるか?」
『……進もうとしていた方向だと思う』
ユキトの視線は路地に向けられた。決して細い道ではなく、大きい通りを繋ぐような車も通れる脇道。
その先には公園が存在している。周囲にたくさん人がいる以上、公園にいる人は皆無とはさすがにいかないだろう。
「……急ごう」
ユキトは走り出す。ミナとエリカの姿が再び視界に映る。
彼女達はどうやら公園に向かっているらしい。そして走りながら理解できる、公園から感じられる気配。そこでユキトが考えたのは、
(これは……偶然なのか?)
そう呟いた矢先、いやさすがに故意ではないだろうと考える。そもそも邪竜側がエリカ達のことを知っているはずがない。二人はカイの知り合いではあるが、いかに邪竜とてユキト達のプライベート全てを知り尽くしているとは到底考えられない。
だが、もし――何かしら知る術があったとしたら。あるいは、
(俺とエリカが顔を合わせたあの日……誰か、こちらを観察していたのか?)
もしそうであれば、自分達の動向を観察していたのか――考えながら突き進む。エリカ達が公園に入る姿が見えると同時、ユキトは新たな気配を捉えた。




